男子だって…!!
5年生になると担任が変わった。
5年生頃から、クラスの女子の中でいじめ、みたいなものが始まった。それはもっと前からそうだったかもしれないけれど。
私のクラスの女子に4年生の時に転校してきた、とても頭の良い子がいた。その子は、ハキハキしていて、小学生のクラスの中の「同調圧力」なんか気にしない子だった。それが当時のクラスの女子のリーダー格には癪だったのだろう。
露骨に仲間外れにしたりだとか、それは男子の目から見ても明らかだったが、男子も見て見ぬふりを決め込んでいた。
私もそれに対して抗議をしてはいなかった。先生に密告しようとも思わなかった。
当の本人は全く気にしていない様子だった。彼女もよく図書室で科学の本や「算数の不思議」みたいな本を読んでいて、図書委員だった私とはよく話していた。彼女は運動もできたが、昼休憩に教室にいることも多く、私も委員会のない昼休憩は教室にいることが多かったので、話したり、そんな関係だった。
多分、彼女は当時「浮いて」いた。そして私もまた「浮いていた」。
仲が良かった、とかそう言う感じじゃない。でも、お互いに察する部分はあった。
その「いじめ」が露呈したのは6年生の7月だった。どうしてそれが露呈したのかは今でもよくわからないが、クラスで午前中の授業を潰して話し合いが行われた。
男子の中では、それは「女子の問題」だったから、そのいじめを知りながら、何もしなかった男子は始め、素知らぬ顔をしていたのだが、話し合いが予想以上に長引いて痺れを切らせた一人が女子を責め立て始めた。
「俺たちは関係ないんだから、女子たちだけで解決しろよ」
「俺たちを巻き込むなよ」
そんな具合に。
見て見ぬふりをしていた私も同罪であったろうが、私はその話し合いをどこか俯瞰した感じで捉えていた。女子を責め立てる男子に対しても「それをあなたが言う資格などないのでは?」とさえ思っていた。
それに耐えかねたのだろう。
言われっぱなしでは敵わないと思ったのだろう。
女子の一人が急にバン!と立ち上がりこう言った。
「でも男子だって、〇〇くん(私の名前)のことめちゃくちゃ嫌って、陰口とか言ってるじゃないですか!!」
クラスの話し合いの観客気分だった私は突然、ステージへと上げられたのだ。
さっきまで騒ぎ、煽り立てていた男子が急にダンマリ。
女子内でのいじめの話し合いだったのになんか男子の中でも問題あったのかよ、と心底面倒くさそうな担任の顔。
「えっと、それは本当?」
担任は告発した女子にそう聞いた。
「本当です。みんな言ってます。」
あちゃ〜という顔をする男子。
騒ぎ立てていた男子の一人が立ち上がって
「〇〇くん、ごめんなさい。」
と言い始めた。
「え、あ、うん。」
としか私は言えなかった。
それからのことはあまり覚えていないが、確か女子と担任で話し合いの場を設けて、それで解決したことになったような気がする。
その頃には男子が私の悪口を言ったり、嫌がらせをしていたこと(なんかしていたらしい)はなかったことになっていた。
浮いていても嫌われていなければいい。
と思っていた私にとって、少なくともその夏の出来事は、今でも忘れられない衝撃的な出来事の一つだ。
当の私はそんな風に思われていたなんて知りもしなかったし、気付いてもいなかった。けれど、自分の知らないところで自分に確かな悪意を持っていた人たちが大勢いたと言う事実は、10年以上経っても忘れられないショックを植え付けるには十分だった。
運動ができること、みんなで外で遊ぶこと、が正義だったあの世界で、自分は確実に異端児だった。そんな自分は多分、「よくわからないもの」だったと思う。「よくわからないもの」は怖いし、なんか不気味で気持ち悪い。それを嫌うのはある意味自然なことなのだろう、と思う自分が今は、いる。
小さな小さな世界の中で、異端児だった私の小学校生活。楽しい思い出もあったはずだが、それでも私は6年生のその夏の出来事が真っ先に思い浮かぶ。
その小さな世界は、中学校に進んでもごくわずか、誤差程度の広がりしか見せないことは田舎ではよくあることだと思う。大都市部と違って、地方都市やもっと田舎では数少ない小学校が中学校で合流する。私の地区では4つの小学校、合計で40人程度がその学区内の公立中学校に進む。
ただ、その夏の出来事が私の中で決定打になったのだろう。
私は学区外にある小学校の勉強が普通にできれば合格できる程度の私立の中学を受験し、進学することに決めた。