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感謝の5がらみ企画!!  作者: ヲトオ シゲル
ベタベタのベタ
4/6

書庫の前にはファルハナさん





テーマは『ベタな話』です。


その解説(という名の反省)はあとがきにて。



では、さっそく。

どうぞ。













王城内にはいくつも建物があるが、内部は大きくふたつに別れている。


ひとつは奥まった位置にある、王が生活をする王宮、もうひとつが政を行う政宮。


政宮の中でもひときわ人が多く大きな建物がある。中央が大きな円形で、騎士たちがいる建物と、文官たちが居る建物とを繋いでいた。

円形の中央は共用の場。お互いが出向いては熱く国の行末を論じたり、事の対処にあたったり、時にはちょっとした諍いの場になったりもする。


高く吹き抜けた広間、その周囲に大小の会議室、休憩や雑談をする場所、外からの客人を応接する場所もある。


上部は高く吹き抜けて、その周囲にぐるりとある窓からは効率よく光と風を取り込める。

白に近い生成りの天井は半球形で、取り込んだ光を柔らかく反射して広間全体が明るく、風が通って清廉な雰囲気だ。


そんな中央広間にも、真反対の場所がある。

広間の北側、半地下にある書庫。

騎士たちの扱う事件事故や、文官たちの扱う政治的な資料、国内外の歴史、膨大な情報を一か所に収めた大きな書庫だ。


薄暗く湿度の高いその場所には、扉の前に常に番人がいた。


全ての書類の管理を任され、必要とあらば資料を探し出してくる。

王や宰相より、誰よりも、この国を知っている。そう噂される書庫の番人。


名はファルハナ。

年齢不詳の幽鬼じみた、物静かな女性。


ファルハナは毎日、扉前の大きな仕事机の前に座り、資料をまとめては書棚に収め、整頓管理、貸し出しを仕事としている。


「頼んであった強盗団の関連資料を」

「……お待ちください…………こちらは本日中の返却を、こちらは三日以内に」

「今日中は厳しい、あと一刻もないじゃないか」

「決まりですので。長く閲覧したいのなら明日の朝早くお越し下さい」

「…………分かったよ、今日中だな!」

「日暮れまでに。……こちらの名簿に署名を」

「…………くそ。陰気だな……もっと愛想良くしろよ」

「必要ありませんので」


ファルハナは屋内なのにいつも薄手のローブを着ている。魔女のような真っ黒ではなく、白菫色のレースのローブ。

ローブの下はいつも暗い色の衣装。

フードを目深に被り、その下は濃い山鳩色の髪が顔を覆っているので、余計に薄気味悪いと拍車がかかる。


髪のかかった顔には、醜い火傷の跡があるとか、片目が無いとか、おどろおどろしい噂があった。


「ファルハナさん……資料を戻しに来ました」

「ありがとうございます……期限は昨日ですが」

「そうでしたか、申し訳ない」

「期限を過ぎますと……」

「閲覧できなくなるんですね、分かっていますよ」

「……警告はしました」

「……全部ここに置いても?」

「どうぞ」


文官とその補佐は、両腕に抱えた冊子や革の表紙の本をどさどさと机に積み上げる。


「こちらに署名を」

「……的確な資料で助かりました。ではまた」

「ええ、また……バートレットさん」





文官のバートレットは資料の分だけ軽くなった肩を回しながら、通路を進む。

半地下から階段を上り、広間の明るい場所まで出てきた時、追い付いてきた部下が横に並んだ。


「…………いつも思うんですけど、よくあの人と普通に話せますね」

「何が言いたいんですか?」

「いや……何というか……怖くないですか?」

「彼女に失礼ですよ」

「あー……はい、すみません。でも……」

「でも?」

「得体が知れない感じがこう……恐ろしいなって」

「澄んだ声をしています」

「はい?」

「仕事も的確で、無駄がない」

「ああ……そうですけど」

「無駄口を叩かないのも好感が持てます」

「あ、それ、俺への嫌味ですか?」

「……伝わったようで何よりです」

「ひどいなー」

「さぁ、清書と中央への提出は任せましたよ」

「人使いも荒いし……バートレットさんは?」

「そもそも貴方の仕事ですよ。私は草稿を仕上げたんです。それはもう終わったのでこのまま帰りますよ」

「手伝ってくれたりは……」

「充分手伝ったのでは?」

「ですよねぇー……あとはひとりで頑張ります」


個人で使用している部屋に戻り荷物を抱えると、バートレットはまだ日が高い内に城門を抜けて町に下りる。


帰り道で食料品と、子どもが売っていた小さな花束を買って、決して大きいとは言えない我が家へと足を早めた。



城壁沿いを歩き、住宅街の更に先、少し遠いが静かな場所を選んで小さな家を購入した。


バートレットはそれなりに名の通った家の出だったが、実家の力に頼るのは仕事にのみで、その仕事で得た給金で買える、中古の物件を選んだ。


以前に老夫婦が住んでいたからか、使い勝手が良く落ち着いた内装で、そこがとても気に入っている。


広さも手頃、侍従や侍女は雇っておらず、小さな庭の手入れを時々人に頼めば済む程度。


将来は少し広い家の方が良いだろうが、今は郊外の小さな家で充分だった。


紫の小さな花の香りを吸い込んで、さらに足取りを軽くして道を急ぐ。





「ただ今帰りましたぁー」

「お帰りなさい……遅かったですね」

「うーん、最後に資料を借りて行った人が、なかなか返却しにこなくて……随分待ちました……」

「お疲れ様です」

「遅くなってごめんなさい……すぐ夕食の準備をしますね」

「何か良い匂いがしませんか?」

「あ! まさか作ってくれたんですか?」

「私は逆に早く帰れたので。簡単なものですが」

「嬉しい! バートレットさん!」

「家に帰ったら名前で」

「……ありがとう、テイオ」

「どういたしまして、ファルハナ……褒めて下さい?」

「それは食べてみてからですね」


ローブの留め金を外してやり、フードを取って美しい我が妻の顔をのぞき込む。

流れる髪を耳にかけて、そのまま頬に手を添えて、口付けをした。


「いつまで頬を赤くするんでしょうね」

「テイオだって赤いですよ」

「慣れませんね」

「慣れませんね」


求婚をしたのが一年ほど前。

婚姻の届けを神殿に提出したのが半年ほど前。

家を購入して一緒に住み始めたのも同じ頃。

このくすぐったい感じには、なかなかふたりとも慣れない。


ファルハナの手を引いて小さな食卓まで移動して、席に着くように導いた。

するりとローブを脱がせて、座りやすいように椅子を引く。


恥ずかしそうに俯くファルハナが可愛らしくて身悶えしそうになるのを堪えながら、テイオは台所に向かった。



テイオ バートレットには幼いうちから決められた婚約者がいた。


礼儀の範囲内で手紙や贈り物をやりとりし、ひと月に数回は相手方に会いにも通った。

婚約者は少し年上だったが、関係は悪くなく、かと言って恋や愛といった感情は無かったが、共同体としてお家のために夫婦になることに特に抵抗は無かった。

テイオが十代の終わりを迎える頃、仕事での覚えもめでたく、そろそろ婚姻をと話が持ち上がった時期に事が起こる。

婚約者が別の男性と、痴情の縺れから刃傷沙汰にまで発展して、とうとう婚約の話は無くなった。

一気に醜聞に塗れたテイオは、分かりやすく落ちぶれて荒れた時期を過ごす。


そんな時に出会ったのがファルハナだった。


いや、正確には以前から仕事上でファルハナの存在は知っていたが、彼女に対しては今の部下と似た印象しか持っていなかった。




ファルハナの家は代々書庫の管理をしている家系で、その末娘だ。

兄は独立心が強く、早いうちに己の道を決めて進み、姉は社交的で、すぐに嫁いで家を出た。


少し年の離れたファルハナは、兄や姉を見送っているうちに、暗くてじめっとした半地下送りが決定してしまう。

元々活動的ではなかったし、本を読んだり、文字を書いたりすることは苦ではなかった。

結果的に一番この家の血を濃く継いだのがファルハナだったから、番人になることは当然の流れと納得した。

十代の初めから仕事を学び、やっと何となく分かりかけた頃に、上司になるはずの父が流行病に倒れる。

十代の中盤で父に代わり王城に出仕することになったが、番人が若い女性では舐められることはすぐに想像できた。


ローブや髪で顔を隠し、余計な言葉を話さず、誰とも接点を持たないように、仕事に徹することで、どうにか今の立場を作ることができた。


そんな頃に出会ったのがテイオだ。


もちろんファルハナも仕事上ではテイオの存在を知っていたが、最初の印象はとても良好とは言えなかった。




「ファルハナ、髪も一緒に食べる気ですか?」

「あ……ふふ、ちょっと失礼しますね」


ささっと簡単に髪を後ろにしてまとめると、テイオの顔が一層綻ぶ。


かわいいというよりは綺麗な面立ちも、透き通る紫の瞳も、向かい側からよく見えるようになった。


卓の真ん中に置いた花とファルハナの目を交互に見て、テイオは小さく息をつく。


「やっぱり花よりも綺麗ですね」

「は?! ちょっと、何と何を比べたんですか」


にっこりと笑うテイオを見ていられなくなって、ファルハナは明るくなった視界を、また暗く両手で覆った。


「綺麗なだけじゃなく可愛いところもあるから、ほんと、堪らないですよ」

「………………やめて……」

「貴女と一緒だと私が作った質素な料理も美味しくなります」

「もういいですから……」

「そうですね。冷めるといけないのでこの続きはまた後ほど……さあ、食べましょうか」





番人の朝は早い。


誰よりも早く城に上がって、書庫の鍵を開ける。頼まれていた書類を用意したり、天気の良い日には古いものから順に虫干しをする。

補修や掃除まで、細かな仕事はいくらでもあった。


ただそれは誰もいない時間にするので、ただ資料を借りにやってくる人々は、ファルハナが机の前で、置き物のように座っている姿しか見たことがない。


「……テイオ……テイオ。先に行きますね。ちゃんと朝食を取って下さい?」

「ん…………んはぃ……」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい……おはようございます」

「ふふ……おはようございます」


テイオに朝食を作るついでに、自分は食べながら、ついでに昼食分も用意して包む。


髪で顔を覆い、ローブを着込んでフードをかぶって家を出る。


空模様から良い天気だと伺えたので、本たちと一緒に自分も虫干しをしようと、本日の予定を立てながら歩いた。


いつかはこのフードを取って、髪をきちんと結い上げて、扉の前に座る日が来るとは思っている。

テイオとの婚姻をきっかけにしても良かったかも知れないが、ファルハナはまだ自信が持てなかった。


自分の倍も年上の騎士や文官たちに舐められない自信。

散々に薄気味悪いだの、愛想が無いだのと、ただでさえ印象が悪いのに。

どんな顔をして扉の前に座ればいいのか。


もう少し仕事で認めてもらえてからと、夫がいることすらも隠している。


テイオもテイオで、未だに元婚約者との醜聞は消え去ってはいない。

そのことでファルハナが悪く言われて、傷付いて欲しくない。

自分の妻はこんなにも素敵で素晴らしい人だと、どんなに言いたくてもそれすら憚られた。


テイオに降りかかった災難が色褪せるまで。

新しい生活が幸せいっぱいであると、周囲に認知が行き届くまで。


そうふたりで散々に話し合った末に決めた。




「ファルハナさん……えーと……前々年の夏ごろの資料を……」

「バートレットさん……用が無いのに来ないで下さい」

「用事はありますよ。資料を借りに来ました」

「本当に資料が必要な時は、補佐官を連れていらっしゃいます」

「そうですね」

「いつ頃の、どんな資料かも、もっと具体的です」

「ファルハナさんに会いたいんですよ」

「仕事中です」

「私もです」

「なら仕事して下さい」

「実は面接の日取りを今日にしたので、それをお知らせに」

「面接って……あ。あぁそうだったんですね」

「なのでちょっと書庫に入れてもらえます?」

「はい?」

「話が長くなって、誰か来られてもアレなので」

「アレ……」


さあさあとファルハナを立たせて、テイオは扉の方に背中を押す。

扉を開けて、薄暗くじめっとした場所から、さらに薄暗い書庫の中に入る。


書庫の中は逆に少し乾燥気味だ。

地下特有の冷んやり感はあるが、虫やカビを付けないために、中の空気は頻繁に入れ替えている。


古くなった紙のほんのり甘い匂いと、虫除けの薬草のすっきりとした匂いが混ざり合う。


ぎっしりと紙の束が詰まった書棚を背にさせて、テイオはファルハナの両側に手を突いた。


「え……と。面接の話」

「はい」

「何故この状態に」

「何となく」

「はぁ……」

「ファルハナも一緒に面接しませんか?」

「……いえ、バートレットさんにお任せします」

「今はテイオと」

「いえ、職場ですので」

「そういうきっちりしたところも好きですよ」

「仕事中なのでそういうのは要らないですね」

「ふふ……分かってますよ、ワザとです」

「バートレットさん……」

「ファルハナが素っ気ないから意地悪したくなるんです」

「バートレットさん?」

「一人は私より少し年上の女性、一人は親世代の女性です」

「……うーん……どちらでも。お料理が美味しい方が良いですね」

「面接で美味しさは比べられませんよ?」

「美味しい食事を作ってくれそうな方に」

「それも面接だけでは心許ないですね」

「あ、では、お試し期間を設けるのはどうでしょうか」

「なるほど……ではその方向で……本当にファルハナさんは面接しなくていいんですか?」

「しないとダメですか?」

「ダメじゃないですよ」

「時々でいいので、お洗濯もしてもらえると大変助かります」

「ふは! 確かに。盛り込みましょう」


ふたりとも朝早くから日暮れまで家を空けているので、洗濯は週に一度、溜めに溜めてから休日にふたりがかりでなんとかやっている。細々したものは夜に洗えるが、そんな日ばかりではない。


食事もそう、どちらか早く帰った方が用意していても、それも最近は疲れが勝ってきた。

徐々に質素になりゆくばかりだったので、人を雇うことに決める。


「たまの掃除もお願いしましょうか」

「あー……ずいぶん楽になりますね」

「ですよね」

「…………で、この手は?」

「うーん……ファルハナが側にいると思うとつい」


片方は腰に、もう片方は髪を除けて頬を撫でている。


「暗いので顔が真っ赤でもわかりませんね?」

「そういう問題でもない気がしますよ?」

「正直に言うと、ふたりきりになりたくて中に入ったんですけどね」

「……はあ」

「こういうこともできますし」


まあまあ長いこと口付けをされていると、扉の外側から自分を呼ぶ声が聞こえた。




ファルハナはテイオを押し除けて、髪の毛で赤い顔を隠してフードを被り直す。


小声でこの場に留まっているようにと、テイオに釘を刺した。




手近にある本を抱えて、深呼吸を一度。

仕事をしていた体で扉の外へ。




書庫の前には(今だけ少し、挙動不審な)ファルハナさん。















オチがぬるい!!



しかも5000文字程度……じゃねぇ!!

まとめるのヘタクソか!!




はい。

というわけで。


……ベタな話……ベタ……ベタとは? とかなりつつも。


『ベタ』を考えていて真っ先に思い付いたのが『メガネ取ったら意外と美人』でして笑。


ちょっと捻って『髪の毛めくったら意外と美人』にしてみました。



あとのベタは


・ナイショ婚

・女子お仕事モノ

・男子のワケあり落ちぶれぶり


くらいですかね、ざっくりと。


『何よあいつ!!サイテー☆出会い編』とか『バレちゃうかも?!ドキドキ☆ドタバタ編』は面白く書ける自信がなかったので、得意分野?の『日常いちゃいちゃ編』に持っていく日和ぶり。


さすがにいつもと同じ過ぎてもどうかと思いましたので、ふたりともに初々しさをプラスしてみた次第です。



いやぁ……ベタってなんだろう。

逆にベタじゃないって……? とまで考える始末。


ていうか、話を短くきれいにまとめる人スゲーな!!ヲトオさん五千文じゃムリだわ笑!!

(笑ってごまかす)



次回は『ジュリエットの話』です。


しばしお待ち下さいますよう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ファルハナさんの綺麗なとこも可愛いとこも独り占めしたいし自慢したい(お前のじゃない)! いいですよね、内緒の関係! いろいろ萌える! 仕事ができる女性大好物だし頭の回転早い男性大好物だし、…
[良い点] いやー和みました! 初心者夫婦のイチャラブは良きーー! ありがとうございます。 [一言] いつか職場でも堂々と明かせる日がくると良いですね。しかしこの関係も (読者は) 捨てがたい……!
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