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08

「こんにちはー、お邪魔します」


 朋美さんが家にやって来た。

 ついでに言えば泊まることになったので、食材含めてこの後色々とお買い物に行く予定となっている。

 とはいえ、たまにしか会えないんだから朋美さんとお姉ちゃん――美紀ちゃんをふたりきりにしてあげて、私は香子ちゃんや俊くんと美紀ちゃんたちが帰ってくるまでお出かけすることになっているんだけど、


「はぁ……もうこのままあんたの家でのんびりしていたいわ」


 香子ちゃんが朝からずっとこの調子で困っているのだ。

 昨日は「それならあたしたちも出かけるわよ!」なんて1番張り切っていたというのにこれ。


「香子、邪魔」

「朋美が来たからって美紀張り切り過ぎじゃないの?」

「大人にとっては普通よ」


 うーん、確かにお洒落! って感じがしているから香子ちゃんの言いたいことは分かる。が、私もそろそろ本気を出さないと、そうしないと近くの場所で待ってもらっている俊くんに申し訳ないから。


「香子ちゃん行くよー」

「面倒くさい……」

「香子」

「なによ? って、ひゃぅっ!? む、胸を揉むんじゃないわよ!」


 そのまま続けていたらぐったりとしたので彼女の腕を掴み外まで連れて行く。俊くんの前ではできないことだからしょうがない。単純にそんな香子ちゃんを見られたくないのと、恐らく外でなんかやったら冗談抜きでぼこぼこにされちゃうからだ。


「おはよー!」

「うん、おはよ……って、どうしたの? 池本さんにいっぱい蹴られてるけど、喧嘩でもした?」

「ううん、機嫌が悪いだけー」


 私を叩く、蹴るマシーンに変化してしまったけど特に支障はない。

 ちなみに今日の予定は、


「この苦味にもすっかり慣れた、やっぱり大人は甘いのよりこっちだね」

「そうだね、でも甘い飲み物を飲んで楽しそうにしている苺を見るのが好きだから、あんまり無理しないでほしいな」

「えぇ!?」


 コーヒーショップで大人への階段を登ったり。


「うーん、こんなのとかどうかな?」

「それに白いワンピースを組み合わせたらお嬢様みたいだね」

「そんなに可愛くないよー」


 そこまで高くない服屋さんで色々と見てみたり。


「よしっ、ストライク!」

「おめでとう、苺は走る以外にも得意なことがあったんだね」

「えっ、なんかその言い方引っかかるっ」


 ボウリング場でターキーを狙うも叶えられなかったり。


「やっぱ動いた後はこのポテトさんだよ!」


 大好きなハンバーガー屋さんでお昼休憩。


「僕のもあげるよ、苺は美味しそうに食べるから見ていて好きなんだ」

「あはは……なんか改めて考えると私ばっかりはしゃいじゃってるね、これじゃあまるで初デートみたい」

「それなら僕は嬉しいけどね。まあ実際は――」


 ポテトを食べるのをやめて、仏頂面の相棒を見る。


「池本さん、今日は全然喋らないけど、大丈夫?」

「大丈夫じゃない……なにがデートよ、なにが嬉しいよ、勝手にふたりで盛りがっているんじゃないわよ」


 つねったりしてきていたからそのままにしていたんだけど、あくまで話しかけてほしかったのかもしれない。自分も一緒に行ってる時に話しかけられなかったら悲しいということをよく考えてなかった。


「別にのけ者にしようとしたわけじゃないよ。だけどずっと怖い顔でいたからさ、話しかけないほうがいいのかなと思って」

「だってこいつに朝、胸揉まれたから……」

「あれ、またそんなことしたの? 駄目だよ苺、いまでもそういうのをやめた方がいいって思ってるのは変わらないからね?」

「で、でも、だって!」


 君を待たせているからやる気のない香子ちゃんをすぐに連れて行く最高の手段だった――なんて言ったら私が1番行きたかったみたいに捉えられてしまうから言えないが。


「でももだっても駄目、謝った方がいいよ」

「香子ちゃんごめん……」

「ふん……」


 彼女はそっぽを向き、彼は呆れた顔でジュースを飲んでいる。


「寧ろ僕が邪魔だったかな?」

「そんなことはな――」

「そうよ、俊が邪魔だったのよ、あたしは苺とだけデート――あ……」


 あ、そうだったんだ、だから昨日はあんなにハイテンションだったのかと思うと大変可愛く見えてくる。


「はははっ、そっか! まあ帰ったりはしないけどさ」

「むかつくっ、なんでそこでハイテンションなのよ! のけ者にされているのは実はあんたなのよ? あっはっはっ」


 彼が見たくなるのも分かる気がする。なんと言っても色々な表情が見れて彼女は面白い。怒ったかと思えば笑って、笑ったかと思えばいじけたような表情を見せる。悲しそうな表情はあんまり見たことがないけど、その表情だけにはさせないようにって動くと決めた。


「別にいいよ? 寧ろ僕は近くで見られて幸せだよ」

「ぐぅ……昨日だって勝手に参加するとか言ってきて……あんたのせいよ」

「ごめん。だけど嬉しいんだ、友達といられるのは」

「ふんっ、あたしは甘々な苺と違って靡いたりしないわよ」


 甘々かな? 寧ろ自分の都合を優先して行動するワガママ娘だと思うけどなぁ。男の子に媚を売ったりもしないし、あまり他の子にまで友達になってくれなんてことも言わない――って、彼女が言いたいのはそういうことではないのかもしれないけれど。


「あたしはね、俊や苺が考えているよりも苺と過ごす時間が好きなのよ。そして女同士の間に男が入るなんて言語道断よ」

「だから僕はそういうつもりじゃないってば。友達でさえいてくれれば後は傍観者でいいんだって」

「ふん、さっきだって好きとか平気で言いやがって」

「それは純粋に好きだからだよ。だって苺はすっごく楽しそうに、そして美味しそうに食べるし、池本さんだってそう見てるでしょ?」

「……そうね、苺は可愛いわね」


 な、なんだろうこの時間は。褒めたってふたり分を奢ったりする財力はないよ私には。それに休日ということもあって他にもお客さんがいるんだからやめてほしい。これでは友馬鹿ってやつだ。


「いやいや……楽しそう、美味しそうに食べるねって話なんだけど」

「それ含めて可愛いということよ」

「あぁ……まあ池本さんはそんな感じだよね」

「は? なに『やれやれ、こいつはこれだから』みたいな顔してんの? あんたのポテト全部苺にあげるわよ?」

「いいよ、冷めちゃう前に苺に食べてもらおう」


 自分前に積まれる黄色の山。さすがにポテト大好きな私でもこんなには食べられないし、仮に食べられても太ってしまうので避けたいところではあるんだけど……。


「さあ苺、もっと食べるのよっ」

「そうそう、追加注文してきてあげようか?」

「そうよ、小さいんだからもっと食べなさい。まあ……そういうところも可愛いけどね」

「僕はそれくらいが1番可愛いと思うけど、食べたいって言うのなら注文してきてあげるよ? 大丈夫、お金は全部僕が払うから」

「あの、その、もう無理です! おふたりで食べてください!」


 大食い選手権に出てくる選手じゃないんだから無理だ。胃の許容量だって身長と比例して同じくらいの余裕しかない。ポテトだってふたりから貰って目の前にはまだ沢山ある。冷める前に食べきる自信はない。ハンバーガーもふたりはくれたけどポテトだけでお腹いっぱい、胸いっぱい、これ以上はリバースしてしまうリスクも出てくるので降参のポーズを取った。


「あんたのせいよ、馬鹿俊っ」

「えぇ……池本さんも同じようなことをしてたじゃん」


 言い合いをはじめるふたりの口に無理やりポテトを突っ込んだり、ハンバーガーを食べさせたりしてなんとか綺麗に平らげ(させ)た。注文して作ってもらったというのに残すのだけは駄目だから。

 その後はお腹いっぱいということもあって家へと向かってゆっくり歩いていく。当然家に着いてもあのふたりはいないので後はのんびりだらりとリビングで過ごすだけだ。


「あぁ……やっぱり家が1番落ち着くぅ……」


 実はほとんどをふたりに食べさせたのでそこまで満腹というわけではない――そのため、私は今朝美紀ちゃんが掃除をしてくれたばかりの床に寝転んだ。大変ひんやりしていて気持ちがいい。


「だから言ったじゃない、それなのに無理やり胸を掴んで連れて行ったのはあんたよ?」

「はぃ……すみませんでした」


 正しくは胸を掴んで起き上がらせ、腕を掴んで連れて行った、だけど細かいことはいいか。

 ただ、段々と気になりはじめたのは俊くんの存在だ。同級生の男の子の前でこんなはしたないことをしてていいのかということ。


「俊があんたの足をずっと見ているわよ」

「ちょっ、見てないから!」


 慌てて正座をすると顔を赤くした彼と、悪そうな笑みを浮かべた彼女の姿がよく見える。


「というかあんた、スカートのくせに無防備すぎ」

「うん、私もちょっと思ってた」


 貧相な足を晒すと申し訳ないので比較的長めにしておいたんだけど、それでももうちょっくらいは考えておくべきだったのかもしれない。絶対にないけど私に欲情でもしちゃったら対応が困るし。


「苺、ちょっと脚、触ってもいい」

「え、なんで香子ちゃんが!?」

「いいでしょ、胸より普通よ」

「確かに……って、ひゃぁ!? あはっ、くすぐったいっ、あははは!」


 ただ触れるのではなくどうして擦るようにする必要があるのか、それが分からない。


「って、んっ……ちょ、なんでそんな上に……」


 脹脛から太ももへ、そしてそれより上の問題ゾーンにまで手が伸びる。同性に触られているとはいえさすがに恥ずかしい。なにより顔を赤くしながらもこちらを見ている彼がいるのが1番駄目だ。


「あ……いや、あんた太ももが太くないんだと思って」

「え? よく分からないけど」

「あたしなんて無駄に脂肪がついているのよ? だから気にしてて……」

「いやいや、香子ちゃんにはそれくらいが1番だよ、ねえ俊くん」

「えっ!? あ、うーん……よく分からないけど、別におかしくはないと思うよ僕は」


 あぁ……確かに異性の部位について聞くのはあれか、申し訳ないことをしてしまった。


「美紀はいいわよね、スラッとしてて出るところも出てて、それに高身長だだし美人だしで羨ましいわ」

「あ、確かにね」

「「それなのになんでこんなちんちくりんが生まれるんだか」」


 お父さん、お母さん、お姉ちゃんは高身長で美形なのに私だけこんな感じ――もしかして取り間違えなのかと疑うレベルだ。だけど然るべきところで確認してみても本当の家族だった。


「はははっ、揃ってるね。それでもさっき言ったように、小さいのを武器にできるよ。苺は池本さんが言うように可愛いしね」

「あんた気軽に可愛いとか言うのやめなさい、苺が戸惑うでしょうが」

「そうかな? そこは池本さんが考えている以上に池本さんにぞっこん中だと思うけど」

「そんなの分からないじゃない、あんたが口説いていったら苺だって……」

「香子」

「ちょっと俊くん! それは絶対に許さないって言ったよね!?」


 彼のことは優しくしてくれるから普通に好きだ。だけれどこればかりは見過ごすわけにはいかない。それこそ香子ちゃんこそ他者からの影響を多大に受けそうだからだ。こういうタイプこそいざって時に甘い言葉を言われると照れて靡いてしまう可能性が高くなる。


「ほらね。大丈夫、池本さんは心配しなくてもさ」

「とにかくやめなさい、いい?」

「分かった、それなら思うだけにしておくよ」

「そうね、それならいいわ」


 とにかく私は信じるしかない。私の感情が変わる日がくることを。そして彼女がそれを受け入れてくれる日を。


「いい子」

「なんで急に頭を撫でるの?」

「だって苺のおかげだと思うんだ、僕がいまこんな幸せなのは。あれだけ勝手やった僕なのに君は受け入れてくれたからさ。池本さんが普通でいてくれているのも君がいてくれたからこそだしね」

「大袈裟だなぁ、月二先生が対応してくれたのも大きいよ?」

「そうかもね。でも、これは本当に思っていることだから」

「そっか。あははっ、そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう!」

「ううん、ありがとうはこっちのセリフ、こちらこそありがとう」


 うーん、友達がいないと言っていたのは俊くんが勝手に線を引いていただけなんだと思う。引っ越すのが分かっていたからひとりでいたと言っていたし、後は強烈な雰囲気だろうか。自分より普通にいい匂いだったり、格好良かったりするので近づきにくいんだ。女の子の方が逆に自分が臭くないだろうかとか、ちょっと壁を作りやすいところに遠慮したほうがいいかなって行動してしまう――そのため、彼は勿体ないことをしているのかもしれない。


「俊くん、もっと堂々と動こう」

「え? あ、なるほどね、変な壁を作るなってことでしょ?」

「さ、察しもいい……うん、そうだよ」

「分かった、頑張って他の子にも友達になってもらおうかな」

 

 ここで問題なのは彼が行動すると彼のことを好きな人がもっと増えてしまうということだろう。そういう性質は本当に本気で好きになった人ができた時に邪魔をしてしまうから気をつけて方がいいかもしれない。


「それがいいよ。ね、香子ちゃんもそう思うでしょ?」

「そうね、観察野郎がいなくなることで楽にはなるわね」

「もう……大丈夫、こんなこと言ってるけど友達だと思ってるから」

「はぁ? あたしはこいつの友達でいることにまだ納得してな――わ、分かったから近づいて来るのはやめなさい! はぁ……まあ友達でいても損はないし、いいわよ」


 ねっと彼に笑いかける。

 彼も凄く楽しそうな顔で「面白いね」と言って彼女を眺めていたのだった。

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