魔術の使えない魔術師
魔術刻印、それは魔術に使われる印を刻むことで呪文無しで魔法を使うことができる。魔術刻印が刻まれた道具を魔術具と言う。さらに魔術師は自らの肉体に魔術刻印を刻むことで、魔術強化、発動効率最適化、魔力消費軽減などの効果をもたらす。ただし、メリットだけではなく当然デメリットもある。魔術刻印は一度刻めば消すことができない、そして刻んだ魔術刻印の内容によっては魔術師は魔術の使用を制限される。
クロの背中にはその魔術刻印が大量に刻まれている。魔術の知識が無い人でもこれはよく無い物だと分かる。その印は見ているだけで気分を悪くする、シーナも胃の辺りから何か這い上がって来るのを感じる。
「もう無理」
そう言ってマヤを勢いよく出て行った。きっとトイレで嘔吐している。
「前よりひどくなってる」
クオリアの呟きをシーナは聞き逃さなかった。
クロは脱いだ服を再び着る、今まで気持ち悪かったのが嘘のようになくなる。
「なんですか今のは」
「魔術刻印だ」
クロはそれだけしか言わなっかた魔術刻印を見るだけで身体に影響を及ぼすなんて普通はあり得ない。だがクロは全て話たかのようにそれ以上答えることはなかった。
「ただの魔術刻印じゃないほとんどが使うことを禁止されている禁呪の印だ」
「それって大丈夫何ですか?」
普通の魔術刻印でも肉体に刻めば結構な数の魔術に使用制限がかかるはずだ。シーナには禁呪の印という物の知識がほとんどないが禁術の一種ということは分かった。それを大量に刻んでいるのだ、クロの体が普通であるはずがない。
「なるほどな、それで勝負の時は魔術を使ってなかったのか」
「!」
「あぁ、俺はこれのせいで基礎魔術は愚か魔力が使えない」
そうクロは魔術が使えない私は勝負の前にその話を聞いていた。
「俺は主に接近戦が得意だ、中距離、遠距離からも攻撃できないこともないが今回は無理だと思う」
「接近戦……ということは強化系の魔術ですか?」
シーナは不思議に思った魔術師といえば、中距離、遠距離から戦う者だが、接近戦で戦う者は珍しい。クロは強化系の魔術師だと予想したが実際は違った。
「いや、俺は魔術は使えない」
「えっ」
衝撃的な事実だった、シーナは自分と同じクラスに来たからクロは魔術師だと錯覚していた
「すいません、てっきりクロさんは魔術師かと」
「いや俺は魔術師だが?」
この時は意味がよくわからなかった。
「まぁ、魔術が使えなくても戦える」
そう言ってマヤとの勝負に挑んだ。勝負の結果は引き分けだったが、クロは強いのは間違いなかった。
「ふん、まったくこの五年間でお前は何してたんだ」
クオリアは頭を抱えていた、クロとクオリアの関係はシーナには分からないがそこには憎しみや恨みではなくかつての友を哀れんでいるようだった。
「それよりどうしたらいい」
「んっ?」
「マヤの溶岩巨人どうやったら改変できる?」
「バカを言うな特級魔術だぞ、いくら俺でも改変なんて出来ないぞ」
最強の魔術師クオリア・ジールクリスでも特級魔術の魔術改変は出来ないらしい。
「どうにかして寿命を削れないようにできればいいんだが」
「あんな魔術刻印を刻んでおいてよく他人の心配ができるな」
「俺はいいんだ自ら望んで得た結果だからな」
「だが彼女は違う望んでいないのに禁術を使っているんだなんとかするべきだろう」
クオリアは手に負えないという感じだが、シーナには何だかんだ言ってクロはマヤの事を心配しているようにみえた。
「おいさっきの一体何だったんだ!」
飛び出して行ったマヤが戻って来た。誰も説明しなっかたから仕方なく私が簡単に説明した。
「とりあえず溶岩巨人は使うな、寿命を減らしたくなければな」
クオリアはマヤのことにはあまり関心が無いらしく禁術の事は保留にしたいらしい
「いや、代償魔術は応用が効く魔術構成まで詳しく調べてみないと分からんが他の魔術にも影響が出ている可能性が………」
「そんな!」
溶岩巨人だけならともかく、魔術全般が使えないとなると魔術師として終わりを意味する天才魔術師として周りから甘やかされたマヤにとって絶望的な状況だろう。
「その、どうにもならないんでしょうか、先生に相談しみるとか」
いくらなんでも魔術が使えなくなるのは可愛そうだと思ったシーナを案を挙げるがクロにあっけなく否定される
「やめといた方がいい、禁術は本来なら違法行為だから信用できる人間にしか話していない」
「お前がそれを言うのか」
これ以上詳しいことを知る為にはどうしても大人の手がいる、そうすれば何とか問題は解決するかもしれない
だがそんなことをすればマヤが捕まってしまう。完全に解決の手段が無くなってしまった。
「魔術の改変よりもっと簡単な方法があるだろう?」
クオリアはため息を吐き、マヤを指差す。
「溶岩巨人はお前が作った魔術じゃ無いだろ」
マヤは目を逸らし、クオリアの方を見ない、まるで子供が悪いことをして親に隠し事をしているみたいに
「どうゆうことですか」
「特級魔術は高位の魔術師でも辿り付けない魔術だ、それなのに使っている本人が自分の魔術にどんな魔術が組み込まれているか知らなさすぎる」
觀念したのかマヤはクオリアをまっすぐ見つめる
「ああそうだよ」
「溶岩巨人はおにい……兄貴が作った魔術だよ」
「マヤのお兄さん?」
シーナは昔に会った覚えががあるマヤの兄、ラノス・ライゼンスは前ライゼンス伯爵が早くに亡くなって若くして当主になった苦労人、現在は祖国の魔術開発部門の所長として働いていたはずだ。
「だったらまずその兄に魔術の事を確認するのが先じゃないのか?」
「それは………」
シーナは正直その意見には反対だった。マヤのお兄さんとはいえ魔術に禁術を仕込むような人物だ、一人で会いに行かせるのは危険だ。だがマヤは次の日学園を去る、表向きは私的な理由による自家への帰省となっていたがそれから一週間マヤが戻って来ることは無かった。