過去話 化物と少女
黒い化物は人々から嫌われていた。しかし、黒い化物は何故嫌われているのか分からなかった。そんな事を知らない人々は彼を嫌悪し、恐怖する。だから、人々は彼を追い払う。
「あっちいけ、化物」
最初は子供が石を投げるだけだった、しかし大人も混ざり物を投げつける。
「死ね、この化け物」
「どっかいけ」
「消えろ」
黒い化物は逃げました、遠く遠くへ逃げました。しかし何処え行っても、化物は人々に嫌われ、物をなげられます。消えろ、死ね、いなくなれ、そんな罵倒を浴びせながら。化物は何処へ行けばいいのか分からなくなりました。お腹も空いて、体に力が入らなくなりました。後は死を待つだけでした。
「あら、あなたどうしたの」
そんな時、少女が声を掛けました。その少女は長く綺麗な銀色を持ち、どこかの物語から出てきたか様な美しい顔立ちをしていました。化物は最後の力振り絞り少女を話しかけます。
「どっ………か行………け」
化物は少女を追い払おうとします。また石を投げられるかもしれない、最後くらいゆっくり眠りたいそう考えたからです。
「………」
少女は何も言わずに走り去って行きます。これでゆっくり眠れる、薄れゆく意識の中声が聞こえます。
「クオこっち」
「姫様一体何ですか?」
「この子運ぶの手伝って」
さっきの少女が誰かを連れてきた様です、もう、やめてくれゆっくり寝かせてくれ、化物の願いは叶いませんでした。
目がさめるとそこには、見知らぬ天井がありました。どうやら少女は化物を何処かに運んだようだ。
「あ、目が覚めたのね」
扉が開くと先程の少女が現れ、ゆっくりこちらに近づいてきました。
「こっちにくるな!」
化物は近くにあった枕を投げつけ、少女を追い払おうとします、黒い化物は長い年月の間に人が怖くなったのです。
「きゃっ」
少女は突然のことに驚きましたが、枕は少女に当たらず、見えない何かに当たり床に落ちました。
「姫様大丈夫ですか!」
そう声を掛けたて現れたのは、子供にしては高身長で、少女と同じ銀色の髪をした少年でした。
「このやろう!」
少年は手に持った杖を化物に向けましたが少女がそれを止めます。
「大丈夫ですよクオ」
「しかし……」
「彼はまだ心の整理が付いていないだけです、今日は帰りましょう」
また来ますね、少女はそう言い残し、何処か去って行きました。
それから少女は毎日、化物の元へ訪れました。時には食料を持ってきたり、着替えを持ってきたり、何度も何度も訪れました。そのたびに化物は物を投げつけ、クオという少年が少女を守り、少女を追い払います。
しかしある日、少女は一人で化物の元へ訪れます。化物は少女にいつものように物を投げつけます。いつも守ってくれる少年がいないので、少女はどんどん傷ついていきます。
しかし、少女は歩みを止めません、一歩また一歩化物へ近付いていきます。化物には理解できませんでした。どうしてそんなに傷ついてまで自分に近付いてくるのか……
少女は化物へそっと腕を伸ばし、優しく抱き締めました。
「な…なんで」
化物は気づけばそんな疑問を口にしていました。
「大丈夫怖くないよ」
化物は今ままでに感じたことのない感覚を襲う。胸の奥から暖かい何かが流れ込み身体中を満たしていく、やがてこの暖かい何かは、全身を満たし気づけば目から水が流れ出す。化物はいつの間にか少女を強く抱きしめていました。長い長い時間化物は少女を抱きしめ、目から水を流し続けました。
この後、少女は化物にクロという名前をつけました。
この時から化物は黒い少年へと変わりました。