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携帯の中の幽霊  作者: なち島 景将
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エピローグ

 夏休みが終わった倦怠感と、再会にはしゃぐ仄かな期待感。まだどこかよそよそしい、本調子でない教室。人生で何度となく繰り返してきた光景を、彼女は初めての感覚で迎えていた。安心するような、少しこそばゆいような。

 休み時間になって、彼女は廊下に出た。用事がなくても、時々一人になる時間を欲しがった。軽い足取りで、気ままに歩く先。目に飛び込んだものに彼女は意表を突かれ、思わず足を止めた。

「なにしてんの、莉花」

 声を掛けられ、莉花は半分笑みを作って返事をする。視線は壁に貼られたそれから離さず、やがて難しい顔になっていった。

「何真剣に読んでんの? 校内新聞なんてさ」

「ちょっとね」

 目玉記事の扱いと思われる、一番初めの、面積の大きい記事が目に入る。

『ヘイトロッカにまつわる連続自殺、ついに解決?』

 本文を斜め読みし、莉花は表情を緩めた。タイトル通りの内容で、以前莉花が話したインタビューのことも書かれている。すっかり存在を忘れていた莉花にとって、自分を特定されるような情報が載っていなかったことは十分安堵に値するものだった。

「行こっか」

 莉花は笑ってクラスメイトに声をかける。何も知らないはずの相手が、笑顔を返してくれた。歩き出そうとした時、紙面の終わりの部分に見慣れた文字がある気がした。

「あ、待って」

 再度見直し、以前恵太に提案されたことを思い出した。数行だけの簡素な記事に目を通し、二度三度と満足気に頷く。新聞部が作った訃報の記事だ。唯の死を悼む文とともに、最後に添えられた言葉が莉花の気を引いた。

『小川唯とともに過ごした時間を、生涯忘れないとここに誓います。坂井恵太 木田竜海 柳莉花 山岸遥』

 ああでもない、こうでもないと、慣れない文章の作成に頭を抱えていた恵太の姿を思い出す。莉花は思わず微笑んだ。

「なんか、結婚式の誓いみたい」

「なんのこと?」

「なんでもないよ」

莉花は満足気に頷いて後ろに手を組み、軽やかに歩き始めた。



今回で完結となります。13万文字以上の拙作を最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

もしよければ感想など頂けると、どんなものでも今後の糧になります。


次作は現在書いていますが、新人賞に応募してそれの結果待ちとなるためここに掲載するのは下手すると1年先かもしれません。ご縁がありましたら、また覗いて頂けると幸いです。

最後に改めて、少しでも読んでくださった全ての方に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

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