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携帯の中の幽霊  作者: なち島 景将
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第3章-5

 莉花がいなくなった席の食器を、店員に片づけてもらった。紅茶と水だけのテーブルは簡単にまっさらにされ、一息つく間もなく幽霊女と二人だけの空間になる。聞きたいことは山ほどあったが、この場を離れてしまいたいと逃げ腰になっている自分にも気づいていた。

待ち合わせの相手が来て笑顔で迎える若い女、店の外から、店内の様子を覗き見て入ろうか思案している学生。自分が今抱えている戦いは、あいつらには一生分かりっこないだろう。そう思うとたまらず、全てが疎ましくみえてくる。

友人が死んで、その理由もはっきり分からない。ようやく掴めそうな糸口は、正体も分からない女に堰き止められる。

恵太は弱気を振り払うようにかぶりを振った。なんとか自分を奮い立たせて、テーブルを指先で軽く叩く。

「よし、どういうことか説明してくれよ」

「やっと復活した?」

 待ちくたびれたと言いたげに、幽霊女が身を乗り出した。常に余裕を感じるのが癪に障る。

「まず、どうやって莉花を呼び出したか教えろ」

「言ったでしょ、幽霊はいろいろできるの。あれはテレパシー」

 悪びれもなく言い切った。声を荒げたくなるが、それで事が運ぶような相手ではないとも思い知らされつつある。

「真面目には答えてくれないんだな?」

「私はずっと真面目だよ。デタラメだって言うなら、あの子に聞いてみたら?」

 確かに、莉花に聞いた方が早いかもしれない。連絡先を聞きそびれたのが悔やまれるが、学校にいれば会うのは時間の問題だ。

「じゃあ次。なんで唯の姉だなんて嘘ついたんだよ」

「そりゃあ、いくらテレパシーができるからって、怪しい人からじゃ来ないでしょ? 唯の姉です、妹が仲良くしていた人に話を聞きたくて。そう伝えたってわけ」

「あいつ、完全に騙されてるぞ。あのままにしとくつもりか?」

「そうね」

 幽霊女は口元に手を当て、答えを探すように視線を彷徨わせた。

「ほとぼりが冷めたら、本当のことを言ってもいいんじゃない? 今言ったら、余計混乱させちゃうのは分かるでしょ。あの調子じゃね」

 改めて、この女の目的はなんなのだろうという疑問が顔を出す。遺族を装うという悪質な手を使ったかと思えば、その相手を気遣うような素振り。莉花にかけた言葉もそうだった。本当の遺族がかけるような、いたわりの言葉。この女に得があるとは思えないのが、余計に不可解だった。

「それで、なんでサイトの管理人を捕まえるのがダメなんだよ。ほっといて莉花にまで何かあったらどうするんだ」

「あのね、恵太くん」

 急に名前で呼ばれ、妙な緊張が走る。整った形の目で、幽霊女が顔を近づけてきた。

「唯ちゃんは、自殺したんだよ」

 説き伏せるように言い、元の位置へ居直った。本当に魔法でも使われている気がして、恵太は軽く自分の頬を叩いた。そうしないと、言いくるめられてしまいそうだった。

「あんたは何も知らないだろ」

「あんたじゃなくて幽さん、ね。もしくは幽霊」

「じゃあクソ幽霊。あんたは何も知らないだろ」

 クソという冠を気にすることもなく、幽霊女はイタズラっぽく笑って見せた。

「唯ちゃんは自殺だよ。私は幽霊だもの。死んだ人のことを、間違うわけないじゃない」

「なら教えろよ。唯は、なんで死んだんだ? 自殺なら、その理由はなんだよ」

 恵太は自分の喉の震えに気づいた。探しても一向に見えてこない出口。どれだけその出口を渇望しているか、自分の体に教えられていた。

「それは、君が見つけるべきじゃないの」

「逃げんなよ。幽霊なんだろ」

「怖いよ、その顔」

 言われて、眉間に力が集まっていることに気づく。それを緩める義理は無かった。幽霊は微かに鼻を鳴らして、初めて目線を恵太から外した。

「はー、分かった。白状するよ。唯ちゃんがなんで死んだかは分からない。でも自殺は間違いないの」

「幽霊だから分かる、か」

「そういうこと。ごめんね、悪いけどそれ以外に言いようが無いもん」

 結局、振り出しに戻された。脱力感に見舞われ、返す言葉も見つからない。だらりと手をぶら下げ天井を眺めると、憤りの唸りが漏れた。

「落ち込むのは早いんじゃない? せっかく私が、きみの手伝いを続けてあげようっていうのに」

「手伝い?」

 恵太は渋々首をもたげ、幽霊女を見た。

「そう。唯ちゃんが死んだ理由を知りたいんでしょ? 私はどうせ死んだ身で暇だし、もう少し付き合ってあげる」

 どうやら冗談ではないようで、幽霊女は真顔でこちらの返事を待っている。

「勝手にどうぞ」

 受け入れていい存在なのか、考えるのも億劫だった。

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