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携帯の中の幽霊  作者: なち島 景将
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第1章-11

 始めは遠慮がちだった話し声が、教室中に散在していき、競い合うように大きくなっていくまで時間はかからなかった。恵太は騒音にしか思えず顔をしかめる。本来なら一限目が始まってから二十分は経っている時間だが、担当教師がやって来ないのだ。席を離れる者もおり、教室を出ないという申し訳程度の決め事以外は存在しなくなっている。教室に唯の姿はない。恵太は普段なら星井あたりのグループに混ざっていくのだが、今はスマホの画面以外の情報は頭に入ってこないよう努めた。味方のキャラクターがアニメ絵のモンスターを倒していくよう、画面を叩くことで導く。ほとんど意識は画面に向いておらず、半自動的に指を動かすだけで成立していた。

手に伝わる振動より先に、画面に割り込む枠に気づく。誰かからメッセージが届いた知らせだ。唯のことが頭に浮かび、中身を確かめようとしたが、竜海からだと分かって手が止まった。

唯とは、三日前に電車で別れてから連絡がとれていない。大切な人と会うという話が気になりながらも、男友達という立場には何の問題もないと思い、一応誕生日祝いのメッセージを送った。恵太自身でもなんと送ったか思い出せないほど簡素なメッセージだが、返信がないのは予想外だった。後になって考えれば考えるほど、やはり観覧車でのあれはフラれたということに思えてくる。といっても付き合っているわけでも告白したわけでも、恋愛対象なのかも曖昧なのだ。別れ話でも絶縁宣言でもなく、なんと呼べばいい状態なのかよく分からない。竜海に話してみるぐらいしか、この靄を払うアイディアは出てこないと腹を括り、竜海のアイコンに触れようとした時だった。教室の前の扉が開き、反射的に誰もが顔を上げる。喧噪が静まるまでの早さが、その相手の意外さを物語っていた。確か国語の増田という教師だったと思うが、恵太たちのクラスは別の教師が担当している。そもそも、一限目は英語のはずだった。席を離れていた生徒も、おずおずと身を低くして席へ戻る。彼女が現れた意味を、誰もが図りかねていた。教室中の視線を集めて、増田が口を開く。

「おはようございます。授業の時間ですが、皆さんに辛いお知らせをしなければなりません」

 渋みのある声と神妙な面持ちが、無言のメッセージとなって生徒たちに緊張が伝播していく。恵太もその波に飲まれつつ、増田が学年主任であることを思い出した。

「一昨日のことですが」

 増田は言いにくそうに短く沈黙し、唇をかみしめた。事態の深刻さだけが先に伝わってくる。それでも、次に増田が言った言葉は到底、心の準備程度で足りるものではなかった。

「小川唯さんが亡くなりました」

 そこから先の言葉を、恵太はよく覚えていない。

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