コネクト
“太古の昔、ゆるぎない現在、遥かなる未来”
“慈愛の大地、崇高なる大空、母なる海原、そして無限の宇宙”
“いつの時代にあろうとも、いずこの世界にあろうとも”
“血が流れぬときはなく、魂が燃えない場所はない”
“人は争い、殺し合う”
“これは私が見守ってきた、そんな戦士たちの記録”
“そこには、ロマンも感動もない。ただ、生と死の冷淡な現実があるだけ……”
――コネクト――
白銀に染まる冬の林の中。
冬季迷彩服に身を包む髭を生やした男は、音もなく前進する。
と、通信が入る。
“ぴょん総長、右に待ち伏せ”
ぴょん総長は振り返る。後ろにいるはずの仲間を捜す。二人の仲間は見つけたが、もう一人の仲間がどこにもいない。
と、
“こちらブリュンヒルデ、敵は排除。突入路はクリア”
と通信がはいる。
その通信ののち、
“さすが、姐さん”“よっ! 戦乙女”
との通信が入り、ぴょん総長も、
“さすが、死神と恐れられているだけあるね”
と返した。と、
“ぴょん総長、後ガラ空き”
との通信が入り、ぴょん総長は振り返る。
そこにG36突撃銃を抱えた金髪の女がいた。
ぴょん総長は無表情に言った。
“では、行きますか”
彼らは、連携をとりながら、雪煙りをあげないよう急な動きを避けて、ゆっくりと前進した。
“敵は待ち伏せ部隊の連絡が途絶したことから、こちらの攻撃を予期しているはず”
ブリュンヒルデが無表情にいう。
そこに他の仲間から通信がはいる。
“そしたら作戦通り、ここでC4(爆弾)をセット。15分後の爆発で”
ブリュンヒルデが返す。
“ゲロ軍曹と少茶は、左に回って、8時の方向からRPG(対戦車兵器)を打ち込んで。連中が応戦したところで、迂回した私とぴょん総長が、3時の方向から突入をかけるから”
雪の丘のふもとを匍匐前進で這いながら、ぴょん総長は、
“陽動にひっかかったら、連中、驚くだろうね”
と言う。
そこに“ゲロ軍曹”から通信が入る。
“我らが無敵の戦乙女に挑戦しようってんだ。それぐらいのサプライズはねぇ”
“少茶”からも通信がはいる。
“死神と噂されているからね、姐さんは”
その通信を聞きながら、金髪女は無表情で、ぴょん総長の後ろを匍匐前進で這っていた。
数分後、彼らは標的の施設の前にいた。
ぴょん総長は、双眼鏡を覗きながら施設を見回した。
敵の気配は今のところない。
と、通信が入った。
“きれい……”
ぴょん総長は振り返った。
風が吹き、雪が舞う。
金髪の女は無表情で雪景色を見ていた。
ぴょん総長が言う。
“こっちは雪だよ、そっちは”
“こっちは雨”
とブリュンヒルデは無表情で返した。
と、6時の方向で爆発が起きた。
標的施設から数人が顔を出すのが、サーモセンサーが捉える。
さらに通信施設の8時の方角から再び爆発が起き、敵兵士が慌ただしく応戦しているのがわかる。
“いくよ”“へい”
ぴょん総長とブリュンヒルデは雪景色を駆けた。
一気に標的施設に接近する。気づかれずに標的施設内に突入した。
標的施設の屋上へと駆け上がる。
敵兵はこちらに気づかず、背中を見せていた。陽動のゲロ軍曹の持つM249と思われる掃射に釘づけになって、AK74突撃銃をぶっ放しながら応戦している。
ぴょん総長は、自分のG36を単発にセットし、敵兵の後頭部に照準を合わせ、引き金を引いた。
“一人、抹殺”
ぴょん総長が通信をいれると同時に、
“こっちも一人抹殺”
MSG−1狙撃銃を持って後方から遠距離狙撃している少茶から、通信が入る。
と、ぴょん総長の足から血しぶきが噴き出る。
ぴょん総長は倒れつつ、転がって物陰に入る。
ぴょん総長は、ブリュンヒルデを見た。
彼女にも、銃撃が容赦なく襲いかかっている。
雪の積もった屋上階に、雪煙りが舞い上がる。
だがブリュンヒルデは金髪を翻し、屋上を華麗に駆ける。
その不規則でしかし優雅なステップは、確実にばらまかれる弾を避けていた。
“すげー”
ぴょん総長は、足の手当をしながらいう。
ブリュンヒルデは雪の舞う屋上で、華麗に宙返りを放ち、HS2000ピストルを、屋上の片隅に向かって放った。
屋上の片隅では、そこに潜んでスタイヤ突撃銃を構えていた兵士が、眉間に穴をあけて倒れた。
ブリュンヒルデは、宙返りをはなった後、雪の上に優雅に着地する。
風が吹き、雪が舞い上がる。
そして彼女は空を見上げた。
銀色の雪が、彼女の顔に降り注ぐ。
彼女は、そのまま微動だにしなかった。
通信が入る。
“こちらの完敗です。さすが、伝説の死神チーム”
“最後の、戦乙女姐さんの動き、マト○ックスでした”
“まじ、すげぇ、おれ、脳死”
“今度、うちらのチームとオフ会しません? 関東在住でしたら”
雪の町。
とあるマンションの一室。
ジャージ姿の青年が、キーボードを叩く。
“当方、埼玉で引きこもりっす。でもたまには外にでよっかな”
青年の前のPC画面に、レスが入る。
“お、いいっすね”
“少茶です。千葉県民っす、OKです”
“ゲロ軍曹です。神奈川であります。ぜひ参加したいであります”
青年はキーボードを叩く。
“ブリュンヒルデ姐さんは?”
しかし、彼女(あるいは彼?)からは、返事がなかった。
ただ画面の中では、金髪の女が無表情に空を見上げていた。
そのCGの顔が、一瞬笑ったような気がして、青年は目をこする。
そして青年はキーボードを叩く。
“ま、また、今度、ネットの中で会いましょう”
“また、派手に殺戮やりましょうや”
“ぼくらは、繋がっていますから”
雨の降る町。
とある病院。
館内放送で“鳩野先生、鳩野先生、心外病棟にお越ください”とのアナウンスが響き渡った。
その病院の一室。
8歳の少女、皆川柚璃亜の病室から、泣き叫ぶ母親が看護婦によって病室から外に出される。
駆け付けた医師達が、救命処置のため、少女の小さな体に刺さったルートにさらルートをつなげ、喉の管をつっこみ、機械の調整を行う。
心移植のドナーを待ち続けたその少女は、この数か月、外出していなかった。
彼女はほとんど身動きが取れず、病室のベッドの上で過ごしていた。
かろうじて動く腕と指でゲーム機のコントローラーを握りながら、ただ一言、“ほんとの雪合戦がしたい”と言った直後に急変したという。
救命処置を行う医師達の喚き声や、耳障りな電子音が鳴り響くその部屋の片隅。
その片隅にどかされたテレビモニターの中では、雪景色の中、金髪の女が無表情に空を見上げていた。
そして彼女は光に包まれた。
そして皆川柚璃亜は、自身に降り注ぐ光の中に、神々しい女の姿を見た。
青い鎧に、翼の髪飾りをした女だった。
皆川柚璃亜は、その女の包容を受け止めながら、その体を燃やした。
“私は、その魂にいいました”
“神々が黄昏を迎えるまで、あなたに栄光の戦場をあたえましょう”




