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二十九 支配人室へ

「お前はちびについていなくていいのか?」


 かわやなぎの問いに俺は頭を振る。


「こっちの方が火急だからいいのさ。」


 サプライズパーティも髙の管理下にあるのならば安全であろう。

 親玉はこっちにいるのだ。

 親玉に気づかれないように俺達はホテルの施錠されていない裏口から侵入し、エレベーターではなく裏階段を使って降りたホテル地下を歩いている。


 ホテルの地下は上とは別世界である。

 ここでホテル業務がコントロールされていると言っていい。

 俺達はリネンを運ぶカートを避け、搬入した食材の箱を避け、忙しく立ち働く従業員の邪魔をしながら目的地へと進んでいるのだ。

 二・三歩後ろを歩いていた楊は本部に連絡した後も何度かどこかに電話を掛けていたが、諦めたかスーツのポケットに片付けて俺の隣に並んだ。


「どうかしたのか?」


「一応さ、上にお伺いって必要でしょ。上の現場になった部屋にいる本部の刑事サン達にもね、報連相って。それなのに部屋のお兄さん達と連絡がつかないのよね。それも本部に伝えたけどさ。まぁ、とりあえず俺はこのまま動いていていいらしいけどね。上の部屋も後で覗きに行ってみるわ。」


「サラリーマンは面倒だねぇ。」


「煩いよ。それで、本当にその偽保が犯人なんだろうな。それで、どうしてこっちだって断定できるんだよ。」


「偽保が主犯とは言っていないよ。十三年前の子供交換事件も主犯が出てきていないだろ。その事件も緑丘が子供を唆したのは事実だろうが、誰が家出した子供を殺したんだろう。誰が子供達に整形を施して、他人の家に潜り込む方法を教え込んだのだろう。整形手術には資金がいるだろう。医者はどうした?これは組織的な犯罪じゃないのか?組織があるのならば、そこに頭がいるのは当たり前だ。偽保はその頭か頭に近づくための第一歩だ。」


「わぉ。お前は警察官になれば良かったのに。」


「いやだね。あの髙に顎で使われるなんて、考えるだけでぞっとするよ。」


 楊は本気で嬉しそうに笑い出し、俺の背中を気安そうにバシバシを何度も叩いた。


「何だよ。」


「いやね、お前でも髙は扱いかねるって、嬉しくてさ。」


「嫌な奴なら嫌だって言えばいいだろう。お前に嫌だって言われても髙は喜ぶだけだよ。可愛いお前に甘えてもらったってね。あいつは変態だから。」


「何、それ。」


「あいつは可哀想好きだろ。好きになるには相手を可哀想にするんだよ。あいつが何もしなくても可哀想になっていくクロは、今やあいつのお姫様じゃないか。」


「お前って、本当に酷いね。」


「そうかな。警察官が大量に殺されると踏んで、クロにあの場所を選ばせただろうが。クロが計画したものは全て偽幹事に奪われてしまうって知っているからこそ、敵にそこを狙わせる予定なんだろ。怖い奴。ところでお前は、偽幹事の動きには関知していたのか?」


「いや。俺の誕生日のサプライズだろ。十二日の計画のままだよ、俺の中ではね。ちびの退院祝いだとしても、ちびの計画の十二日を潰して十一日の今夜に前倒しする必要は無いだろう。ちびの計画にプラスすればいいだけの話じゃないか。いつの間にか計画から弾かれてさ、いじめのような状態になっていた事に俺はびっくりだよ。」


「お前はそれで不参加なのか。」


 楊は俺に顔を向けると眉毛を上下させ、そのまま前を向き直して速足で歩きだした。

 彼の後ろ姿に、あの夜の黒いコート姿が重なった。


「あの黒いコートはどうした?そんな安物のダウンコートよりもずっといいだろう。」


 楊は俺に振り向くと、眉毛が一本になるように顔をぐしゃっと歪めた。


「うるせぇよ!俺の古傷をほじくるなよ。それとも葉子がお前に何か言ったのか!」


「葉子が俺に何を言いたいんだ?彼女は朝から晩までお前のことを考えている正当なストーカーだろ。ベッドから消えた男をいつまでも思い続けるような、さ。」


 楊は顔を真っ赤にさせるや、子供のように走り出してしまった。

 一人でだだだと支配人室のドアまで駆けて行ったのだが、しかしドア手前で彼は立ち止まると、くるっと向きを変え、なんと俺のところに駆け戻ってきたのである。


「何をやってんの?」


「追いかけなさいよ。せめて待ってぐらい言って。俺がなんか可哀想じゃん。」


「面倒だな、さぁ、さっさと支配人室にいくぞ。」


 あと数メートルで支配人室に着くはずの俺達のその目の前で、いや、楊の背中越しでか、ボーイが支配人室のドアを開けた。

 俺が覚えているのはここまでだ。

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