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一 三時過ぎに寝て七時起きは嫌です③

「え?高校時代は仲が悪かったんですか?」


 僕も初めて聞いたときは耳を疑い、鬱のくせにアグレッシブに楊に聞き直した程である。

 楊は珍しく僕の質問を避けたい顔をして、反対に良純和尚は軽やかに笑った。


「こいつは男子に絶大な人気者で、俺と親友の鈴木が男子連中の嫌われ者だったってだけだ。鈴木がお前と似てからかわれ易かったからね、こいつが俺達に関るなって男子に注意していただけだよ。」


良純和尚は高校時代の親友を大学一年の夏に亡くしている。

 それが鈴木という人で、楊は彼の死を高校時代の自分の責任だと思い込んでいるらしいのだと、僕はその時初めて聞いて知ったのである。

 そして信じられないが、良純和尚は親友の弔いのために仏門に下ったのだという。

 僕には良純和尚が神や仏を信じているとは決して思えない。

 だからこそ、彼は親友の為にどうして僧衣を纏い、師であり父となった俊名和尚が亡き後に山から干されていても、彼が決して僧衣を脱がなかったのはなぜであろうかと、僕には不思議でしかないのである。

 僕が首を傾げている横で、楊がいつもと違う声で良純和尚に言い返していた。

 いつもの明るい軽い声でなく、少々擦れた低い声だ。


「そのせいでお前等が完全に男子から切られただろ。」


「まだ言っているのか。お前しつこいよな。女々しい?クロを可愛がる訳がわかったよ。お前等ぐじぐじ無意味な事で悩むからな。」


 なんてひどい言い方だと思いながらも、彼が僕をクロと呼ぶことにはほわっと嬉しさがこみ上げていた。

 僕は以前は武本と呼び捨てだったのだが、最近は良純和尚からクロと呼ばれるようになっているのだ。

 僕が百目鬼組の完全な一員だからということらしい。

 僕がそれを聞いてどれほど喜んだのか、きっと彼は知らないだろう。


 僕の両親は記憶を失った僕が以前と別人にしか見えないのか、そこにいるのにいないように振舞われ、家に帰らなければ遺品を整理するように僕の持ち物を処分してしまうのだ。

 実家に残された僕の持ち物は、祖母が高校の入学祝に買ってくれたデスクトップとモニターに、小学校の卒業アルバムだけだ。

 彼らは小学生の頃に殺された玄人を偲んでいるのだ、きっと。

 そこに玄人が載ってもいないというアルバムでもあるのだが。


「うるせぇよ。お前にはもうちょっと情緒ってやつが無いのかよ。」


 その日の僕の物思いは楊の良純和尚への怒号で消え去り、二人は何時もの「うるせぇな。」「うるさいよ。」の子供のような喧嘩を始め、僕はそれをにやにやしながら楽しんだのだ。

 そして何時ものように気分転換を主張する楊にカラオケに連れて行かれて更に飲んで、僕らは全員ろくでなしの酔っ払いに仕上がって、終いには皆で良純宅に戻っての雑魚寝だ。


 昨夜のように。


 あぁ、彼らに連れまわされることが友人のいない僕には実に楽しい事でもあるのだけれども、三時過ぎに床についての朝の七時起きは、友達などいらないと思える苦行だ。

 ゲームショウの前夜は翌朝の四時に起きるからと、僕は夜の九時半に寝たのに!

 僕がジトっとした目で楊を盗み見ると、良純和尚共々姿が見えなくなっていた。

 彼らはいつの間にか居間の外へと移動していたらしい。


「ちび。それじゃあ、俺達は出るからな。」


「俺はもう一眠りするから、お前らがちゃんと鍵をかけて出て行けよ。」


「え、和尚様。朝のお務めは?もうお天道様が高ーく昇っていますよ。」


「うるせぇよ。俺がしたい時が朝のお務めだ。」


 良純和尚は楊のからかいに僧侶らしくない返しをすると、見送りもせずに階段を上がって自室に行ってしまったようだ。

 ふぅと大きな諦めの息を吐き、僕はのそのそと玄関へと向かった。

 こんな人達のお陰で僕は成長した。

 僕は彼らにどんなに連れまわされようとも逃げはしないが、そこがどこなのか一切住所を知ろうとしない事に決めたのだ。

 これならどんな遠くに連れ去られようが、彼らは僕を見捨てることが出来ない。

 良純和尚のコバンザメとして生きる事に決めた僕は、彼らよりも卑怯者なのだ。


 合鍵で良純宅の玄関に鍵を掛ける楊の姿に、僕は合鍵も取り上げられたのにと、半人前でいようと決めた自分でありながら信頼されない寂しさも湧き出ていたが。

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