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二十 願いたくもない再会

「ターゲットは完全に捕捉しました。」


「よし、このまま追跡。姫の安全を第一に、敵を最終目標地まで誘導と補足。」


 電子機器の詰まった車両は警察に検問を受けたらその場で逮捕されるのではないかというほどで、海外のSFテレビドラマに出てきそうな内装であった。

 コンソール台にはパソコンを操作する者が二名おり、制服を着た者とタートルネックの黒いセーターにプロテクター装備している者だ。


 彼等は指揮者に対して報告を続けながらキーを打ち、片耳に無線のマイク付きインカムを付けた男が次々とマイクに指示を与えている。そして、指示が与えられるたびに運転席裏となる面の中央に設置されたモニターの地図にアイコンが次々と立っていくのだ。

 まるでクロが我が家で遊んでいるネットゲームの世界のように。


「お前らは一体何をやっているんだ。」


 情けなく車の床に座り込んでいる俺が声をあげると、目の前の椅子に座っている博多人形が上からの視線をチラリと俺に投げた後、にやりと嬉しそうな笑顔を見せた。

 彼もコンソールに座っている男と同じ黒装束である。

 彼の姿に俺の玄人くろとへの緊急的な不安が一時解消されたのは、彼を頼もしいと感じたからではなく、純粋に俺が彼らに引いてしまった事が原因だ。


「もちろん。クロちゃん奪還作戦です。」


「…………あいつは誰に誘拐されたのか分かっているのか。」


「稲生組の若頭ですよ。もちろん。」


 コンソールの一つに座っていた男が俺に振り向いたが、そいつの顔を見て俺は今すぐこの車を降りて自宅に帰りたいほどの虚脱感に襲われた。

 俺はあの日に戻ってしまったのだ。

 ゲームショウしか見えていない玄人を必死で追いかけたあの日に。

 頭の中で「これは訓練ではない、お遊びです。」という玄人のゲームのおまけナレーションが鳴り響いていた。


「葉山。あの日もお前に助けてもらったんだったな。」


 彼は涼しそうな顔で微笑んだ。


「楽しい休暇でしたから、問題は無しです。」


「お前は涼しい顔して俺からしっかりアルバイト料を奪ったからな。自分の趣味で参加していた癖によ。」


 いかにもな好青年風にハハハっと笑い声をあげた男は、巧妙なオタクだった。

 会場付近の街中でクロトを見つけたと俺にメールを寄こし、常識人の俺はそのメールに常識的な内容の文章を返してしまったのだ。


「申し訳ないが、俺はそこに行けないので、影ながら玄人を見守っていてくれないか?必要経費は後で請求してくれ。せっかくの休日に申し訳ない。」


 彼は二つ返事で快く了解し、俺は彼に五万も支払った。

 会場の入場料と入場するのに必要なゲームアカウントを手に入れるためのゲーム購入費用、そして、彼がその町に出ていた目的そのもののパソコンの部品代に飯代、そして交通費だ。

 彼がすでにアカウントを持っているとも知らずに、俺は上記の明細書を送ってきた男に何の疑問も持たずに払ったのである。


「いいじゃないですか。俺はあなたの依頼のせいでブルーローズ様に絡めない一日だったのですから。大盛り上がりのパーティで、一人寂しく影で警護役って、かなり悲しいものでしたよ。」


「そうそう。僕達なんか、敢えてブルーローズに近づかないそんな行動が怪しいからって、友君を裏に連れていったりもしたものね。」


 葉山と裕也は意気投合してしまったのか、仲良し女子高生のように小煩く語り合いを始めてしまったので、俺は彼らの間に割り込むように立って声を上げた。


「いい加減にしてくれ。クロの安全が第一だろう。お前達が知っているならば教えてくれ。あいつはどうして誘拐されたんだ。」


 葉山はすぐに楊の部下であった時の顔に戻ると、一般人への秘匿義務はどうしたかと思うほどさらっと俺に報告し始めた。


「発端は稲生組の跡目争いなんですよ。現在の組長である稲垣いながき泰司たいじの跡継ぎとして目されているのは、現在若頭である中条司朗と孫の金村修平です。中条は前の組長の婚外子ですが先代と似てかなりやり手で組員の信頼も厚く、組員は現組長の稲垣よりも中条寄りですね。金村が山中に預けられていたのは、中条から離し、且つ稲生の上の山中組に後押しさせての跡目相続を狙ったのでしょう。」


「そこまでしないと自分の跡目を継承させられない現役の親分に、従い続ける中条とやらの気が知れないね。」


 俺は大きなスクリーンを再び見上げるとそこにカウンター表示が現れており、俺達の車がクロの乗る車とエンカウントするまでの時間をカウントし始めていた。


「後二分か。どうする?」


 ガチャンと大きな金属音が響き、見れば裕也と葉山がこのサバイバルゲームのような恰好に相応しい銃器、大きな口径のランチャーの形をした何かを点検して腰のガンホルダーに装着していた。


「お前ら、いったい何をする気だ。」


 顔半分が隠れるほどのフェイスガードを続けて装着していた葉山という馬鹿は、フェイスガードからはみ出している口元をさわやかに引き上げた。


「突入ですよ、もちろん。これは訓練ではない、お遊びです、を通します。車を間違えましたってね。」


 同じ格好の馬鹿社長も、うふふと博多人形っぽいほほ笑みを口元に浮かべた。


「友君って楽しいね。クロちゃんが武士って呼ぶだけあるよ。もう、完全に忠臣蔵のノリで僕に乗ってくれてさ。後先考えずに突っ込むって、楽しいよね。」


 馬鹿二人は呆れるお俺を押しのけてハッチバックに向かい、それぞれ左右のバーを掴んで飛び出す体勢を取り始めた。すると、いままでマネキン同然だったコンソールを操作していた長柄警備の制服が大声をあげた。


「インカミングまで十秒。九、八、」


 ゼロで、車は玄人の乗る車にぶち当たる予定だったが、急停車しただけで終わり、ハッチバックが開いたそこは煌く赤い回転灯の光の洪水であり、その洪水の中に俺の会いたくもない男が俺に向かって微笑んでいた。

 組織犯罪班の田神という、お前こそ一般人を脅すヤクザだろうが、という男だ。


「やぁ、ひさしぶり。」


「畜生。」

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