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十一 俺はお前の相談役じゃない③

 俺の目の前にいる青年は、線が細く薄幸そうな面持ちで外を眺めているだけで、なんの興味も俺に示さず、死期を悟った純文学の青年の様である。

 俺は薄幸な美青年がギャッジアップしたベッドに寄りかかっていると見るや、コントローラーでベッドがフラットになる様に操作した。


「うわ。」


 彼が驚いたのは一瞬で、健康で若い彼がベッドとともにフラットになるわけはなく、彼は座位を保ったまま俺に訝しそうな目線を向けている。


「何がしたいんですか?」


「あ?昼寝。俺はクロが入院してから寝てないんだよ。あいつが生還してもあいつの鬼婆と葉子に囲まれてまともに寝れない。俺って可哀想だろ。さぁ、どけ。そこに俺が寝る。」


 山口を追い立ててベッドから立たせると、俺は彼のベッドに本気でごろりと横になり、そのまま目を瞑った。


 目を瞑るたびに玄人が病院のベッドに寝ている夢を見るのだ。

 彼は現実と違い、死の宣告を医師に告げられた途端にベッドが業火に包まれる。

 俺はあいつが燃やされる度に火の中に手を差し伸べ、手を差し伸べた格好で飛び起き、終いには隣のベッドで寝息を立てている玄人に触れる、を繰り返しているのだ。


 精神的にも肉体的にも、死にたい奴を慰める余裕が俺にあるわけがない。


「ひどいですね、あなたは。」


「おや、俺は知らずに本音を声に出して吐いていたか。それじゃあね、俺の本音を知っているお前に聞きたいんだが、いいかな。」


「なんでしょう。」


「自分が同性愛者かそうじゃないのか確認するにはどうしたらいい?」


「はい?」


 俺はむっくりとベッドから起き上がると胡坐をかいた。

 そして最近できた俺のむかつく師の動きそのままに山口に座る様に指でサインをすると、自分の立てた右膝に肘をついて頬杖をついた。

 そんな俺の動きに呼応するように、山口は部屋の隅から円座の小型のパイプ椅子を引いてきて、そこに患者で個室の主であった彼が座った。

 座っている山口はかなり居心地が悪そうで、俺はあのむかつく照陽和尚テルテルが俺に対してささやかな優位性を保とうと苦心していたと気が付き、なんだか楽しくなってきた。


「急に笑ったり、な、なんなんですか、あなたは。」


「俺が笑っちゃ悪いかよ。」


「いえ、あの。」


 俺はベッドの上から腕を伸ばして、山口の肩に回してぐっと引き寄せた。元公安の腕の立つ男であるはずが、俺に驚きの目を向けたまま、俺のなすがままに体を預けているとは!

 悪戯心がかなり芽生えてしまった俺は、山口の耳元に囁いてみた。

 閻魔大王をも堕とせるはずだと、玄人が称賛した声を使ってだ。


「なぁ、俺が男の方が好きだったのかどうか調べるにはどうすべきだと思う。俺は悩んでいるんだよ。俺は俺が好きだと告白した親友を突っぱねたが、俺が本当は同性愛者だったのならばね、あいつに可哀想な思いをさせたなぁって。」


 山口はただただ驚いた顔だ。

 普段はスマイルマークにしか見えない表情を作っている男が、美貌の顔をそのままに、目をボタンのように大きく見開き、玄人が猫の目と評した、透明感のある緑色がかった褐色の虹彩の中で真っ黒な瞳孔を開かせているのだ。


「あの、えっと。」


 少々裏返った声を彼は出したが、すぐにごくりと唾とともに自分の言葉を飲み込み、なんと彼はその猫の目の輝きさえも変化させ、誘うような目つきで俺を見つめ返してきた。


「本当に知りたいのであれば、俺を誘ってみますか?」


 いつものはすっぱな声でなく、彼自身の誘いの時の声らしきものだった。

 負けず嫌いの青年は、自分の悩みも苦しみも一先ず放り投げて、目の前のろくでなしを攻略し返そうと挑んできたのである。


「いいな、それは。お前に落ちなかったら俺はノンケか。わかりやすい。」


「俺にかかれば、ノンケでも本気でこっちの世界にいけますよ。後悔しませんか?」


「ははははは。」


「ははははっはは。」


 多分、引き分けなのだろう。

 気が付けば、俺達は病院のベッドに仲良く転がって、腹を抱えての大笑いを上げていたのである。

 俺は一瞬山口に本気で口づけて攻略してやろうかと考え、おそらく彼も似たようなことを考え、お互いに常識に邪魔されて状況から逃げ出したのだ。

 俺は笑い声をあげながら目尻の涙を拭っている男の頭を撫で、そのまま自分に引き寄せた。


「百目鬼さん、って本気で寝ますか!あなたは!」


 俺は誰かを一方的に抱き締めるのでなく、抱きしめられたかったのかもしれない。

 俺と身長が同じくらいの山口は俺の肩に腕を回し、俺は自殺も考えていた男の腕の中で、久々の熟睡を得たのである。

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