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八 携帯、どこ?

 鳥は僕の頭にの上に乗って僕の頭をぐらぐらさせて喜び、膝の上の小型犬はでろんとだらけて僕の太ももにしっとりとした生暖かさを提供してくれている。

 テレビは本日未明の放火事件のニュースばかりで、発生してからこんな短時間でありながら特集が組まれている事に純粋に驚いた。


 ガソリンをコインランドリーの洗濯機に入れての時限爆弾という発想が独創的だからであろうか。


 死亡者は三名。


――グリーンハウスでの被害者は緑丘フジさん七十六歳、一東緑道ビルの爆発に巻き込まれた被害者二名は団体職員の田口美樹さん三十四歳と飲食店勤務の今田晃さん三十一歳と警察より発表されました。また、重軽傷者は全ての現場を含めて二十五人にもなっており、犯人の早い逮捕が望まれます。次のニュースは――。


 テレビの電源を落とす。

 矢張り、田口は死んでいた。

 僕はポケットから取り出した携帯をじっと見つめた。

 三か所しか連絡できない子供用携帯のそれには、良純和尚と良純宅、そして当たり前のようにかわやなぎの番号しか登録されていない。


 適当に携帯をいじっていると、パシャリとカメラが作動し、そのうちにビデオ撮影までし始めた。


 知らなかったカメラ機能に驚きながらもなずなや乙女を撮影して遊んでいると、この携帯が写メールどころかビデオメールも可能だったことがわかった。

 更にメールにおける登録アドレスは未だに未入力だ。


「あ、送れるかな。」


 僕は最近知ったばかりのアドレスを打ち込んで、相手に写真付きでメールを送信してみた。写真メールなど初めてだと心を躍らせながら。

 すると、なんと、数分経たずに相手から返信があり、彼は、いや、僕は、あぁ、何という事だ。

 彼は僕に知らされなかった真実を教えてくれたのである。


 僕はそのメールに返信する前に、僕の手に大きな蜘蛛が乗っている事に今更ながらに気が付いた。


 手だけではない。


 僕の足の甲、カーテン、天井や壁やいたるところで、わさわさわさわさと蠢いているのである。


 蜘蛛じゃない蜘蛛。

 あの世の生き物。


 僕は膝にいたなずなを持ち上げて抱え直すと、リビングの片隅へと急いだ。

 頭の上の乙女が僕の突然の動きに驚き羽をばたつかせたが、飛んで逃げはせずに振り落とされまいとしがみ付いてくれるのにはありがたさしか感じない。

 嫌がって暴れるなずなをまず彼女用のケージの上に乗せて動きを封じると、なずなのペットキャリーに乙女に噛みつかれながらも乙女をなんとかそこに入れた。

 それから再びケージの上で不安定だと固まるなずなを抱きしめた。


「ごめんね、なずな。さぁ、みんな逃げるよ。えと、それで、あぁ、とにかく逃げなければ!でも、外に出るなってかわちゃんが!」


 僕はそこで楊の寝室へとなずな達を連れて逃げ込むことにした。

 彼の部屋の広いウォーキングクローゼットは、僕が空き巣と遭遇した時に身を潜めて隠れた場所だ。

 きっとここなら大丈夫、きっと彼があの日のように見つけてくれると、乙女が入ったペットキャリーをクローゼットの床に置き、なずなを抱いたままそこに自分も腰を下ろした。


「そうだ、電話。まず良純さんに電話をしなければ。」


 ポケットに入れた筈の電話はポケットには入っていなかった。

 僕はなずなを置いてクローゼットの外に出て、そっとクローゼットの扉を閉めて彼女達を閉じ込めた。


「すぐに戻るから。」


 僕は寝室を飛び出し、階段を駆け降り、廊下を走り抜け、リビングに飛び込んだ。


「携帯、どこ!」


 僕の呼びかけに答えるかのように携帯は鳴りだし、僕は僕を呼ぶ携帯に手を伸ばす。

 でもそれを掴む前に、僕は僕に向かうエンジンの音と振動を背中に感じていた。

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