29 罠解除失敗
ドアを開けると、フェリシアちゃん・ミミリィさん不安そうな顔をして廊下で待っていた。
一応、深刻そうな顔をして、
「終わりました。 皆さん入室してください。 メイドさんもお入り下さい。」
おぉ、手術後のドクターみたい。 皆を室内に呼び込みつつ、マップを起動させる。
赤い点一つ、それもマーキング済み。 もう一つのマーキングは青点、やっぱりね。
「父上!!」フェリシアちゃんが絶叫する。
丁度、「つみっこ」を「あーん」しようとした伯爵にフェリシアちゃんが飛び込む様に抱きつく。フェリシアちゃん大泣き。「父上」連呼している。
アンナリーナ様は、もったフォークを動かすことも出来ず固まっている。
ミミリィさんは涙ぐんでいる。
メイドさんは苦虫を噛みつぶした様な顔をしながらも、顔が蒼い。
自分は気づかれないように、そっとドアまで後退する。
「何事か!」ドタドタと足音がして、スヴェアさん達や執事さん・メイドさん達が入って来た。
伯爵は「もう、大丈夫だから」と言いながら、フェリシアちゃんの頭をなでていた。
暫してから、落ち着いたのかフェリシアちゃんが泣き止む。
そのまま、ドアを閉め精錬魔法でドアを固定する。(結界の方がよかったのかな)
「では、一応説明しますね。何があったかと言いますと、
一つ目、閣下は衰弱の呪いに掛かっていましたので、解呪しました。
二つ目、毒物による中毒症状がありましたので、毒物を除去しました。
三つ目、ヒールで傷んでいた身体を回復しました。
それから、アンナリーナ様にもある種の呪いが掛かっていましたの、そちらも解呪しました。
お二方ともに、誰が呪いを掛けたは分かりませんでした。 以上です。」
「何てことを・・・ 誰が・・・。 許せない。」 怒りに震えているフェリシアちゃんを伯爵が引き寄せ頭をなでながら宥める。
アンナリーナ様は、いそいそと「つみっこ」を伯爵の口に運んでいる。
「閣下もアンナリーナ様ももう大丈夫ですから皆さん安心してください。ではでは、寸劇を。メイドさん、伯爵のお薬はどれですか?」
「これです。」と、少し蒼い顔のまま薬包紙に包まれた薬を持ってくる。
「ちょっと鑑定しますね。」薬包紙の束の上に手をかざし、一応、生活魔法で光らせる。
「はい、これだけに毒物が入っていますね。 薬の数は確認していますか。」
「旦那様は欠かさずお飲みになっているので確認していません。」
「では、怪しいものが入っていても分からないのですね。」
「この部屋は、奥様と私達以外入りませんから。」
「では、メイドさんが怪しいということで。OKですね。 スヴェアさん達、メイドさんを押さえて服を脱がしてくれるかな。邪なことではないから上半身だけでいいよ。」上半身だけだって十分邪ですよね。
すぐさま、スヴェアさん達が動き、押さえて服を脱がす。
「何をするんですか。奥様に言いつけますよ。私は奥様から直々に旦那様のお世話をするよう承っているんです。怪しいことなどありません。」
「言われたのエルサ奥様じゃないでしょ、奥様の実家ですよね。」
「え。」
メイドさんの抵抗も虚しく上半身は露わになった。両手で胸を押さえ、怒りに震えるメイドさん。
「アンネリ、如何したの、そのお腹。」
「え?」
胸を押さえるメイドさんのおなかには、ソフトボール大の痣とそれを取り囲む様なちいさな痣が無数にあった。
「急いで帰ってきたから隠蔽する間なんてないよね。 メイドさん、それなんだと思う?」
「何かが当たった後。か病気ですか。」うつむきがちに答える。
「そのとおり、僕が当てた石塊のあとだよね。 ちょっと距離があったからそのくらいで済んでいるけど、エルフさんは失神しちゃう位だからね、痣くらいで良かったね。」
「え、どう言うこと。」ミミリィさんが尋ねる。
「一昨日、フェリシアちゃん達を襲った盗賊を嗾けたのが彼女ってこと。」
「何で、どうして・・・」フェリシアちゃんがつぶやく。
「大方、相続ではないの。フェリシアちゃんを亡き者にできれば相続するのはマティアス様だけになるし、アンナリーナ様には呪いが掛けてあるから次が生まれる恐れもない。爵位を辞する前に相続させて仕舞おうとか考えたのでしょ。
そして、貴方・アンネリさん?は、そのためだけにエルサ奥様の実家から送り込まれた。 エルサ奥様も薄々感じていたとは思うけどね、息子の受爵を取ったってことでしょうか。」
メイドさんはスヴェアさんを振り切りドアを開けようとするが、さっき固定しちゃったんだよね~。いくら火事場のバカ力でも開かないよ。
「逃げられないよ、諦めてね。後は閣下にお任せしますから、よろしくお願いします。」
使用人達に囲まれメイドさんは拘束されて、縛り上げられた。 あとでじっくり尋問されるらしい。
「それから、エルフの彼女、地下室にいるみたいだから、カロリーネさん誰かと出してあげて。顔わかるよね。」
あ、その前にドアを開くようにしなくっちゃね。
「大丈夫です。アルヴァ行きましょう。一応、保護房に入ってもらいます。」
「そのエルフは何をしたんだ。なぜ、地下室にいるのだ?」
伯爵が、悠々と「つみっこ」をアンナリーナ様に口へと運んでもらいならがら尋ねる。
「フェリシアちゃんが襲われた時の射手ですね。盗賊退治の後、捕まえてから衛兵に引き渡すまでの間に尋問したところでは、一応、雇われただけの冒険者みたいです。
個別依頼の内容が「御転婆令嬢を懲らしめる。」らしく、怪我程度までOKで、「盗賊達も懲らしめ目的としてやってる。」と言われていたらしいです。本人に殺意は無かったみたいですね。盗賊達は殺す気満々でしたけど。
それからヴィエールの衛士達が尋問した調書が後日届くでしょうから、それからで検討されては如何でしょうか。本人は多分、袖の下でも握らせて引き取ってきたんじゃないですか。処分は伯爵にお任せしますから。よく言い分を聞いて遣って下さい。」
「分かった、確認して処分を考えよう。」
「では、今日の仕事は終わりましたので、これで失礼したいと思います。」
と、部屋を出ようとすると、
「何処へ行こうとするのですか!」と、フェリシアちゃんに腕を掴まれる。あれ、さっき伯爵の横にいたよな。縮地が使えるのか?
「いえ、今日の依頼は終わりましたので帰ろうかと。」
「終わってません。夕食を食べて、二人だけで一緒にお風呂に入って、二人だけで一緒に寝るんです。」
フェリシアちゃんが上目づかいでウルウルしながら見上げる。
「いえ、それは閣下のお許しがないと。」
「良いですよね、父上様!」 振り返り、有無を言わせない勢いで伯爵に尋ねる。
「あ、いや、それはまだ早いだろう。」 そうだ、そのとおり、閣下頑張れ。
「父上様の懸念は早いだけですね。男に二言はありませんね。!」
「いや、まだ、太郎殿と手合わせもしておらんしな。 決められんだろう。」
「では、今やっちゃってください。太郎様、こんな分からず屋の父上なんて、ボコボコにしちゃってください。 早く、ヤッテオシマイ。」
「いやいや、病み上がりの閣下と手合わせって、不公正でしょう。」
「ねぇ、太郎ちゃん。フェリシアに何か不満があるのかしら。フェリシアが良いと言っているのだから、今晩付き合ってあげてくれて良いのよ。」アンナリーナ様怖いことをボソッとつぶやく。
「ねえ、あなた、私も一緒にお風呂に入るから、フェリシアを許してあげてくれないかしら。同衾はミミリィとの契約があるから、フェリシアの貞操は守られるわ。大丈夫よ何事も起きないわ。」
え、いまなんて言った? 言うに事欠いてどうしてそういうこと言うかな。そもそも、この貴族世界では同衾だけで貞操に引っかかるでしょ。
「なんなら、あなたも一緒に風呂どうかしら。家族一緒になら構わないでしょ。」
構う、特に自分の一部分が、制御を失う可能性が高い。失ったら命も失う可能性が高い、閣下マジ怖い。
「そうだな、倒れてからゆっくり風呂にも入っておらんから、それでもいいか。 よし、それならフェリシア許すぞ。」
「父上様ありがとうございます。」
あれ、おかしいな。確か罠解除した筈だったのに、なんかドップリ浸かっている様な、どんどん泥沼に嵌まっていくような。
何か変だぞ。やっぱり嵌められたのか。アンナリーナ様には勝てないのか。
「そろそろ夕食も出来たころでしょうから、食堂に向かいましょうかね。」
「あ、儂はいいぞ。」
「え?」と皆が答える。
「あ、「つみっこ」だったか。太郎殿の郷土料理を頂いたからな。」
アンナリーナ様が空っぽの鍋を見せる。 それ、10人分位あった筈なんですけど。
食事が終わったら、伯爵を呼びに来ることにして、皆で食堂に移動する。




