22 伯爵夫人
フェリシアちゃんの先導でミミリィさんとスヴェアさんに引き立てられて、広いエントランスを抜け応接間へ入ると、アラサーにしか見えない美人が出迎えてくれた。
「母上、太郎様をお連れしました。」
両腕を捕まれたまま、前に出る。
「この方が、フェリシア達を盗賊から救い、その後護衛を引き受けて下さった方なのね。」
「あ、あっ。こんにちは。帰宅までの護衛を引き受けました間橋太郎です。あ、名前が太郎で姓が間橋です。」両手を掴まれたまま最敬礼で一礼する。
「フェリシアの母、アンナリーナです。このたびはフェリシアをお救い下さいましてありがとうございました。」
「冒険者が依頼を受けただけです。皆様のご協力でフェリシア様を無事お守りして依頼を達成することができました。」
「でも、二人の様子を見ると我が家の使用人の笑顔は、守ってくれなかったのよね。」
「守れるものも守れないものもあります。人の気持ちは難し過ぎて私には分かりませんし、依頼も受けていませんよ。」
「依頼ね~。依頼が無ければ何もしないのかしら。 そのことについては、まぁいいわ。スヴェア、ミミリィ名残惜しいでしょうけど、その手を離しなさい。」
「あ、はい」 やっと、解放された。
「まぁ、そこにお掛けになって。誰か、お茶をお願い。」
「失礼します。アンナリーナ様。ただの平民が貴族様の奥様と同席してもよろしいのでしょうか。」
「過剰な謙遜はイヤミになるわよ、貴方は義理の息子になるのだからもっと気楽に接して良いのよ。」
「申し訳ありません。平にお許しを。しかしながら、転移罠か何か分かりませんが、僕がこの国に飛ばされてまだ三日目です。この国の事が全く分からない状態で、突然、伯爵令嬢の夫になると言われましても実感はなく、ご期待に応えることはできません。」
「そう。では今はいいわ。 段々慣れていってね。」
「申し訳ないのですが、僕がこの家の婿になるのは決定事項なんでしょうか。」
「少なくともフェリシアの中では決定事項よ。貴族との婚姻の話もないから今は貴方だけね。ただあの子はまだ学生で16歳、これから卒業までの間に男ができる可能性がないことはないけど、今のあの子の感じだと他の男を求めることは無いわね。
で、私の娘では不満なの?」
「そういう事ではないのですが、会って三日で貴族令嬢が、何処の馬の骨か分からないような男を夫にということがあるのですか。」
「貴族社会では無いわね。 あの子が女として貴方を選んだのだから良いのではないのかしら。特に、他の貴族からの婚姻申し込みも来ていないし。」
「すみません、この国の事はよく分からないのですが、フェリシア様くらいの妙齢の貴族令嬢は社交界デビューして、婚約者が決まっているものではないのですか。」
異世界ものでは社交界デビューとか恋のさや当てとか悪役令嬢とかてんこ盛りだよね。
「まぁ、普通は決まっているわね。」
「では、なぜ僕になるのでしょうか。」
「そうね、ちょっと説明が必要かしらね。このエステルグリーン伯爵家は武門の家なの。夫、現エステルグリーン当主レンナルトの父君である先代が一兵卒から武勲を立て授爵し起こして、夫も武勲を立て伯爵となった家だから武門に秀でていることが必要なの。
それで、フェリシアに婚姻を申し込む者は夫と手合わせして勝利することが必要と公言しているの。
夫は、若くしてこの国の第一師団長となった位の武辺者なので、誰も婚姻を申し込んでこないよね。」
「はぁ。と言うことは僕も伯爵と手合わせをしなくてはいけない、ということですか。」
「そういうことになるわね。」
「すみません、これ、お断りすることも可能でしょうか。素人同然の平民がこの国の精鋭第一師団長と手合わというのは、僕には荷が重い感じがするのですが。」
「ふぅん、断るの。 フェリシアは貴方に髪を洗ってもらったって言ってたわよね。ほんと?」
「髪は洗わせて頂きました。 ミミリィさんからも疚しいことをしなければ良いといわれましたので。」
「何処で?」
「宿の浴室ですよ。一カ所しかないので、僕が入ったあとスヴェアさんが呼びに言ってからフェリシア様達が入る予定でしたが、僕が入っているうちにフェリシア様達が髪を洗って欲しいと入ってきたので、洗わせて頂きましたが、ダメでしたか。」
「普通、『フェリシア達の入浴中に、貴方が乱入してきて裸を覗き、嫌がるフェリシアに痴漢行為をした。』と言えば筋が通るわよね。貴族に対する不敬罪で即刻極刑よね。」
「え、ぇ」ミミリィさんを見ると、即座に目をそらせる。
「ねぇ、未婚の貴族令嬢が、家族以外の男に裸を見られたらどうなるか知っていってる? 普通は恥辱の極み扱いで自死を選ぶのよ。
まして、武を誇るエステルグリーン伯爵家の令嬢が”ただの平民の男”と「自分の意思で混浴した。」とか外に言えると思う? その男と結婚するしかないでしょ。」
「僕がこの国から出れば収まりますか。」
「そうね、貴方だけなら逃亡は可能かもね。でも残されたミミリィやスヴェアは逃亡幇助で極刑ね。」
おかしいな、テンプレは確かにフェリシアちゃんを選ぶってことは「貴族令嬢とムフフ」だけど、自分はミミリィさんを選んだのだからそれで確定じゃないのか。
貴族令嬢が使用人のカレシを略奪するって、新しいパターンなのか?。
あ、でもハーレムは途中で隣国の王女とかでてくるからアリと言えばアリなのかな。
でもやっぱり此所はミミリィさんとの真実の愛に目覚めて、国外逃亡っていうのか本筋かな。
「二人は関係なくありませんか。」
「理由なんていいのよ、貴族のメンツだけの問題だから。たとえ逃亡者は取り逃がしても、内縁の妻を「逃亡の共犯として幇助した罪で死刑」。で鞘に収める感じね。」
「拒否権はないのですね。」やっぱり無理そうだな。ミミリィさんが第二夫人でもいいなら諦めるか。フェリシアちゃん可愛いし。
「まぁ、ミミリィは自分の短慮だし、スヴェアはフェリシアの前で貴方に裸で抱きついた罰かしら。」
「この短時間に、よくそれだけの情報を集めましたね。」
「先触れのアルヴァが報告書を持って来てくれたし、さっきフェリシアが嬉々として話してくれたからね。」
「とっくに退路は断たれているわけですね。」
「娘の幸せのために母は頑張るのよ。」
「分かりました、婚約はお受けします。フェシリア様が卒業までに、良い人ができてくれる事を願います。」
「貴方以上の人が、その辺にゴロゴロしていると思うの?」
「いくらでも居るのではないのでしょうか。僕はただの平民冒険者ですよ。」
「過度の謙遜はイヤミと言ったわよね。一瞬のうちに一人で盗賊20人を退治できる普通の平民は居ないわ。全盛期の夫にも勝てるわよ。」
「それは、飛び道具があったからで、接近戦になれば全然焼く立ちませんよ。
あ、そういえば、レンナルト様は王宮ですか、師団ですか。 閣下にボコボコに負けてしまえば卒業時に無かったことになるのですよね。」
「夫ね、夫のことはまた後で話すわね。」




