2 どういうことだ
「すみません。理解が追いつかないので、幾つか教えて頂いてよろしいですか。」
「下手に出おったな。まぁ、よいだろう。咎人の抗弁は認められないのだが、異世界の民であるお前では、何も知らぬのは仕方あるまい。多少なら構わん。」
「貴方はどなたですか。」
「それすらも分からんか。神を殺める者などその程度の知識なのだな。儂は、『裁きの神オスヴァルド』であり、この者が『訴追の神ティルダ』である。」
「ここは何処ですか。」
「お前が住んでいた地球という世界とは異なる世界「ランヒルド」の神界である。」
「『神殺し』の罪の裁きのため、ここに連れて来られたということですか。」
「そうだ。」
「『愛の女神イヴァンネ様』は今何処にいらっしゃるのですか。」
「骸のことか。それは、お前の後ろにあるぞ。」
証言台から振り向くと、さっきは気づかなかった棺があった。白い背景に白い棺なんて気づかないよ。
「お顔を拝見してもよろしいでしょうか。」
「構わんが、証拠隠滅を図る事や、女神に触れることは許さん。」
オスヴァルド神に一礼し棺まで数歩、棺の蓋はされていなくて、金髪ロングで、鼻筋が通った色白の女性が眠っていた。歳は20位に見える、西洋人の年齢は良く分からないけどね。目は閉じているけど美人だわ。 確かに数日前に見た金髪美人さんの様な気がする。
「交差点にいた方だと思いますが、よく分かりません。」とオスヴァルド神に告げ、証言台に戻った。
「僕は地球の一般人で、怪力とか超能力とか持ってません。あの日交差点で横断歩道を渡ろうとした僕の前に、この女神様が自から出てきて、自分の手をとり『助けて』と言われたことは認めますが、僕は何もしていないし車道に突き飛ばしたということはありません。」
「神を殺してはいないと言うのだな。」
「はい、走る大型トラックに突き飛ばしたと言われましたが、僕は何か分からない黒い影しか見ていません。もし、大型トラックならば、女神様の周りにいた僕と僕の前後にいた横断中の人も撥ね飛ばされて、辺り一面怪我人だらけの筈ですがそのようなことはありませんでした。それに、その黒い影は左側から動いて来ましたので、仮にトラックならバスに正面衝突している筈です。」
「走る大型トラックに突き飛ばしたことも認めないということだな。」
「はい、なぜなら、横断歩道横で信号待ちの車の先頭は、僕が乗ってきた路線バスで、そこから全く動いていませんでした。その路線バスを大型トラックが女神様を撥ね飛ばし、すり抜けててゆくなど地球ではあり得ないことです。」
「言いたいことは、それだけか。なら、ティルダから答えさせるが。」
「まだありますが、もう一つの質問と併せてお答え下さい。『愛の女神イヴァンネ様』は地球、それも『厩橋』にどのように来たのですか。お一人ですか、それとも何方かと、いらっしゃつたのですか。いらっしゃった目的は?『鳥めし』とかじゃないですよね。それと、何方が『神殺し』を目撃し、そして、そのことを何方がこの裁きの場に僕を告発したのですか。』
「ティルダ、答えよ。」
「では答えましょう。神界の者は押し並べて他世界神界への転移ができ、中級神以上は下層界への顕現が可能です。『愛の女神イヴァンネ』は上級神であり、他世界の神界・下界への転移ができます。」
訴追の神ティルダ様銀髪縦ロールの知的な女神様が、きつめの眼差しで事務的に答える。
「今回、『愛の女神イヴァンネ』は、『嫉妬の女神スサン』と共に、あなた方の世界を訪れました。下界での顕現時における外見はその世界の民を装うことになっていますので、あなた方と同じような時候にあった服装をしていた筈です。」
たしかに、服装まで覚えていないけど、金髪美人以外に印象がないから奇抜な格好じゃなかったんだろうな。
「あなた方が『岩神の飛石』と呼んでいる赤岩が神界と下界との転移ゲートであり、必然的にかの地に顕現するのであって、『鳥めし』が目的ではありません。ちなみに私は『松より竹が好み。炙り焼き豚も捨てがたい。』」
しっかり食ってるじゃないか、グンマーのソウルフード。オスヴァルド様も雛壇芸・・失礼、他の神様方も、そこツッコまなくていいのか。
って、何でお前らニヤニヤしてるんだ。
「続けます。今回、『嫉妬の女神スサン』の誘いにより、『愛の女神イヴァンネ』は初めての下界顕現となりました。「縁起だるま」なる張り子や創作コケシなる人形の購入等の現地調査の後、伊香保・四万・草津の現地視察し、前日に厩橋市内に宿泊。当日の朝、グンマー県庁展望台の視察に向かう途中にお前に殺されました。事件の現認者は同行者の『嫉妬の女神スサン』です。宿のロビーに『愛の女神イヴァンネ』を待たせ、部屋に忘れ物を取りに戻った間に『愛の女神イヴァンネ』が消え、見つけたときは、『たすけて』という声とともにお前が女神を突き飛ばし、走行中の大型トラックに撥ね飛ばされるところだったと証言しています。女神の骸は『嫉妬の女神スサン』が抱え神界に戻ってきたものです。『岩神の飛石』までは転移したと申し立てていますので、お前は女神の骸が運ばれるところは見ていないかもしれません。」
これ、現地視察なのか、ただの温泉巡りじゃないのか、神として問題は・・・。
それはそれとして、「嫉妬の女神様」だけが証人って、これってハメられた感じしかしないんですけど。
「通常、下界顕現は中級神が行うため中級神である『嫉妬の女神』の役目ですが、今回は、彼女からの提案で上級神である『愛の女神イヴァンネ』が同行しました。彼女の初仕事となりましたが、お前に殺され役目を果たすことができなかったのです。」
はじめてのお使いかよ。
「今回の役目はこの神界の全ての柱が一同に集う『神々の総会』の昼食調達という重大な任務です。神を殺し、神々の総会の運営に支障を来す、このような事態を招いた間橋太郎、お前は大罪人として処されるべきなのです。当然極刑では物足りず、未来永劫責め苦を受けるのがふさわしい。それも、今回はいつもの『鳥めし』ではなく特別に『うなとり弁当』だったのですよ。それですら生ぬるい。」
ちょっと待て、「昼食調達」って、鳥めしか? 普段から鳥めしなのか? どれだけ鳥めし好きなんだよ。
で、今回は特別にうなぎ付きだったってか? 罪の軽重が、「鳥めし(今回はうなとりだけど)」>「女神」ってそれでいいのか。それに、「神々の総会」弁当が「うなとり弁当」って、自分は好きだが、それでいいのか。もっと、豪華大宴会とかではないのか。
「すみません、もう一つ質問です。有罪確定とのことですが、どなたが決めたのですか。」
「有罪の確定は、儂『裁きの神オスヴァルド』と、ここにおる陪審を務める神々の全員の総意である。普段は裁きの場に至る事は少なく、あっても儂を含めた上級神の多数決で判断となるのだが、今回は、『神殺し』に、『神々の総会に汚点を残す』という大罪を重ねており、全ての神々の合議による総意であるな。」
それって、単に食い物の恨みじゃないのか・・・・。神様それでいいのか。
それにさぁ、お前等なぁ「鳥めし」「鳥めし」って言うけど、グンマーにはグンマーのルールがあんだぞ、知ってんのか。
食べる時は包み紙は形を崩さない様にはずし、美味しく頂いた後、包み紙で元通りに包み、輪ゴムで食べる前と同じ様に止めて、配送の段ボール箱に戻すんだよ。そうすっと回収まで見た目が綺麗なんだよ。美味しくいただいたことに対する敬意なんだよ。
だけんど、よそ者が紛れると、ぐっちゃぐっちゃで配送箱からあふれたり、いかにもゴミですって感じで見苦しぃんだよ。来た時と同じ様に回収してもらうんがグンマーなんだよ。良く覚とくんだいね。
あ、自宅で食べた後はちゃんと分別して、リサイクルにまわすんだよ。
グンマーのソウルフードはやっぱり「焼きまんじゅう」に「とりめし」ですよね。
子供の頃から、イベントの弁当は「とりめし」だからそれが普通で疑問に思わないのかも知れません。
おやじ達は、「またかい」とか言いながらニコニコして食べてましたね。




