171 駆除
「乗っ取り。乗っ取りとはどういうことだ。」
「今回のヴィークストレーム公爵反乱は潰えましたが、成功していた場合はエベスル王国、ルグミアン帝国に一部領地を割譲して戦争を終わらせるつもりだったのでしょう。
その後リーヌス第三王子の治世になって外戚として権力を手に入れる。
そして、ヴィークストレーム公爵領はウニ国に割譲するつもりだったのではないでしょうか。
ヴィークストレーム公爵が外戚となってもそのままではアンドレアソン公爵家の筆頭公爵家としての地位は変わらないでしょうが、領地で領民蜂起でもあればその地位は失墜し、ヴィークストレーム公爵が外戚として名実ともにティヴァル王国を牛耳ることが出来る。
その伏線のため便衣兵。まあ、使い捨てに出来る駒としてウニ人を新街に送り込んだということでしょう。ウニ国としてもヴィークストレーム公爵領隣接のアンドレアソン公爵領が上手くすれば手に入りますからね。
そして、頃合いを見て暴動を起こさせる。例え筆頭公爵家でも領都が占領されでもしたらアンドレアソン公爵の権威も失墜するので、ヴィークストレーム公爵が成り代わり筆頭公爵家の地位を手に入れる。
ついでにウニ国はアンドレアソン公爵領を「戦争で獲得した土地だ。」と言い、失脚した公爵領を「領土と主張して居座る。」ということではないでしょうかね。ヴィークストレーム公爵がウニ国の主張を通せば、他の貴族の言など無視するでしょうからね。
ヴィークストレーム公爵としては、自領をウニ国に割譲したとしても、外戚になった後に他の豊かな領地を権力にものを言わせてぶんどればいいのですから、自領を割譲するとこは躊躇わないでしょう。
新街の住人は男しかおらず、女子供が居ないことからみても、流民としては不自然ですから、何か意図があったとしか考えられません。」
「確かに。ここの移民は男ばかりであるな。女子供は居ないこともないが、ヴィークストレーム公爵領以外からの移民であることは確かだ。」
「と、いうことで、密入国者は駆除しましょう。」
「駆除・・・ですか。」どうしたのマテウス卿丁寧語になっているよ。
「これから、新街を閉鎖して駆除を開始します。アンドレアソン公爵領家宰としてマテウス卿には立ち会いをお願いします。では、早速始めます。」
片膝を付き、地面に手を触れて土魔法を起動。外壁を20mまでかさ上げすると同時に門を塗り固める。
あっけにとられているマテウス卿と領軍達を尻目に、閉鎖が完了したところで外壁までのスロープを追加する。
「では、行きましょう。」と、声を掛けマテウス卿と護衛50名だけ連れて長い坂道を上り城門の上まであがり整列する。
住民が「何事か」と家からワラワラと出て来たのを確認し、空間魔法を使い域内に拡声する。
「こんにちは。アンドレアソン公爵様からアンドレアソン公爵領領主代行を命じられ、着任しました、間橋太郎=アンドレアソンです。
今般この新街に密入国者のウニ人が紛れているとの情報があり、その確認のためお邪魔しました。」
下の方で代官さんらしき人が何か言おうとしていたけど、隣にいるマテウス卿を確認したら、「正規の手続き」だと理解したらしく何も言わなかった。
「この国の法で密入国者は即刻死刑となっており、現行犯ですので略式裁判は行いません。領主代行として此所で司法権を行使し刑を執行します。
これはティヴァル国民には全くの無害ですから、ティヴァル国民が怖れることはありません。また、此所はアンドレアソン公爵領移民者の街で「特例商人」はいないと聞いています。もし、いるのなら5分待ちますから、此所にいる代官さんの元まで出頭して「特例商人」が移民の街で生活していることの説明を行ってください。
禁止行為の罪で王都に護送し、通常裁判を実施します。
結果は死刑ですが裁判を受ける権利があります。
また、ティヴァル国民に連絡です。密入国者駆除が終わったら外壁も門も元の状態に戻すので、それまで暫くお待ちください。
特例商人が自首するまで、5分待ちます。 それ以外の方は暫くお待ちください。」
「特例商人の申し出はありませんでした。
ではこれから、アンドレアソン公爵領領主代行の権限により、ティヴァル王国法の執行を行う。
新街に存するウニ人に対し判決を申し渡します。罪状:密入国、処分:死刑。
即時執行する。」
と宣言し、アイテムボックスから2ヶ月前に作った致死薬を取り出して空間制御魔法で空中に散布。風魔法を使い霧状にして新街全体に行き渡らせるようにして暫し待つ。
「太郎殿、霧で様子が分からないが、どうなっているのだ。」
「はい、今、致死薬を霧状にして新街全体に散布しました。即効性の薬なのでもう効果はでていると思いますが、隠れていたり穴に潜っていたりする者もいると思うので、もう暫くお待ちください。」
「致死薬というが、致死量はどの位なのか。」
「あ、一滴。吸い込まなくても、一滴でも皮膚に触れれば効果があります。」
10分程待ち、少し霧が晴れてきた気がしたので、風魔法を使い残った霧を一カ所に集め凝集してビンに回収した。
外壁上から見ると、下界は死屍累々で代官さんは茫然自失となっていた。
「では、密入国者への刑の執行は完了しました。此所から見ると思いの外「密入国者」がいた様ですね。これから外壁と各門は元に戻します。余分な薬は回収しましたので、触れても薬が残ることはありませんから大丈夫ですよ。」と、拡声し街の住民に伝えたが、聞こえているのは100人位の筈。
「さて、マテウス卿。骸を街の外に出さなくてはならないのですが、領軍にお願いしてもよろしいでしょうか。」
「あ、ああ・・・。構わんが。」
「では、北側に穴を掘りますのでそちらに移して下さい。焼却したら土を被せますので、腐敗等の心配は不要です。あと、代官さん達への説明をお願いします。」と伝え、精鋭50人と共にスロープを降り領軍兵士の所まで戻ってから、土魔法を起動して外壁とスロープを元に戻した。
その後、外壁の北側に行き穴を開け領軍兵士が骸を運び込むのを待ち、火魔法で完全に焼却して土を被せ土魔法で平した。
「では、これで終わりです。あとは住宅を確認すれば武器などが出てくるでしょうから、そちらの回収作業は領軍にお任せします。それから新街、住民が激減していますからね、今後の運営等の話はマテウス卿にお任せします。更地にするのでしたら言って下されば明日出発前にやっておきます。」
「あ・・・・、わかった。」
「では、僕たちはひとまず戻ります。外を一回りしてからになりますが、馬は行政庁に戻しておきます。」
「あ、ああ・・・。馬は公爵邸においてもらえばよいです。あとで回収します。または、太郎殿がそのままエステルグリーン侯爵領まで持って行っても構いません。」マテウス卿また丁寧語になっちゃったよ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
と一言告げて、来た時みたいにスヴェアにしがみつかれながら、新街を後にして城壁の外側を西に向かった。
西門に着いて街道を見たら、真っ直ぐな道が西へと延びていた。この先がエステルグリーン侯爵領なんだよね。
感慨に浸っていたけど、スヴェアはずっとしがみついていた。
普通、「これからの明るい未来」って感じで自分は夕日を指でさして、スヴェアは隣で胸の前で腕を組んで希望に胸膨らませて、二人で夕日を見るシチュエーションじゃないのか?こういうのって。スヴェアはガシッって感じでしがみついたままなんだけど・・・。まあ、いいや。
そのまま、西門から入り下馬してスヴェアと二人で商店街を散策しつつ夕飯の材料を物色する。
ふと、今日のスヴェアは騎士の格好じゃなくてロングのフレアスカートの私服だったことに今更ながら気付いた。あ、スカートで馬に乗せちゃったよ。まあ、足が出るわけじゃないからいいとしても、可哀想なことしちゃったな、死体も沢山見せちゃったし。
「ねえ、スヴェア。何か欲しいものはない?」
「太郎様のお子・・・・。」スヴェア真っ赤だよ。
「まあ、それは追々考えるとして、何か欲しいものはないかな?」
「太郎様が居れば何も要りません。」
「あ、そう・・。 まあ、いいや、後で何か考えるよ。 じゃあ今日の夕飯は何にしようか。」
「太郎様の手料理なら何でも美味しくいただけます。なんでしたら太郎様を美味しく!。」
「まあ、皆で食べられるものにしようね。」なんか、スヴェアがいつもと違う感じがする。
致死薬は、医療・薬理・化学のスキルでサクサクっと作ってんだよ。エヴァリーナの時にエヴァリーナに着いてた皮膚の欠片を鑑定で分析して解析して、北部戦線に着くまで暇だったからね、脳内作業でウニ人特有の変異遺伝子のみに反応する様に調整しておいたんだよ。
だから、もし第一師団が王都を素通りして、第四師団と一緒にウニ国軍が王都に来ても殲滅は出来たのさ。




