118 13日目朝
朝練が終わり、パンの数量確認に厨房に行くと、もう朝食の用意はできていた。
スヴェアとベルタを追加できるか確認したら、朝食のパンは、間に合った。 と、いうか、いつもより多めに焼いてあった。というより大量に焼いてあった。 どうしたの?
「あ、少し販売してみようかと思って多めに焼いてみました。」イヴァンネ誇らしそう。
「う・・・。ちょっと販売は待って。他への影響が大きすぎるから。」
「え、どうしてダメなんですか。折角イヴァンネが美味しいパンを焼いてくれたのに。」
と、グンネルがほっぺを膨らませる。
「これを販売するとね、ちょっと市場に混乱を来す恐れがあるんだよ。エレオノーラは分かるよね。分かっていたらちゃんと止めてね。」
「朝起きたらもう、これで焼き上がってましたらから。それに、太郎様が良いと言えば私には止める事はできませんから、判断は太郎様にお任せします。」エレオノーラ丸投げしないでよ。
「なんですか、美味しいものを売るだけじゃないですか。」イヴァンネも不思議そう。
「そうなんだけどね。グンネルこのパンいくらで売るつもりなの?」
「普通のパンの倍1個大銅貨2枚。カレ太郎が3枚だからこの位でどうですか。」
「まあ、そのくらいだよね。ねえ、グンネル、イヴァンネのパンと普通のパン屋のパン、同じ値段だったらどっちを買う?」
「勿論、イヴァンネのパンに決まっているじゃないですか。」
「そうだよね、じゃあ、2倍だったら?」
「イヴァンネのパンです。5倍くらいまでなら私は出せます。少し泣くけど。」
「そうだよね。そのパンを大銅貨2枚で売っていたらどうする?」
「買い占めます。 あ、作っても買えない人がでますね。あ、それに、5倍でも買いたい人がいると転売する輩がでるってことですか。」
「うん、それもある。それからこれを普通に売ったら、王都中のお客が殺到するよね。イヴァンネが一日中パンを焼いても間に合わない。そして、大銅貨5枚で転売するヤツが現れる。朝早くから店の前に行列ができて、周りに迷惑だよね。甘太郎はお菓子だから問題はないと思うけど、パンは生活必需品だからねウチが売り出した所為で他のパン屋さんやってゆけなくなると思うんだ。だからパンの販売はダメ。」
「え、折角焼いてもらったのに・・・」グンネル涙目。イヴァンネもばつが悪そう。
「じゃあ、仕方ないから加工して直ぐ食べられる様にしたものを数量限定、一人一日1個限定で販売かな。そうだな、試しにホットドッグはどうだろう。」
「ホットドッグとはなんですか。」
「パンの背中を切って、野菜とソーセージを挟みケチャップとマスタードを掛けるの。こんな感じで。」包丁を取り出し、パン(丁度図ったようにコッペパン型なんだよねこれが)の背中を開き、サラダの野菜を入れボイルしたソーセージを挟みケチャップを掛ける。マスタードも足すよ。
皆興味津々で見つめできあがりを確認したら、それぞれ包丁を持ちだし同じ様に作り始めた。
「あ、じゃあ今日の朝食はホットドッグにしよう。朝食用のパンは背を開いて野菜とソーセージを載せて。ケチャップはテーブルで掛ければいいからね。」
「「「「はい。」」」」
今日の朝食は、ホットドッグ。 いつもはソーセージが載っている皿に、ホットドッグが一個。付け合わせの目玉焼きもサラダもスープもあるんだけどね。
「じゃ、いただきましょう。ケチャップとマスタードはお好みで掛けてね。」と食べ始める。おー、元世界と同じだ。この世界のパンはぼそぼそしてて美味しく無いけど、イヴァンネのパンだとソーセージがジューシーで合う。あ、ボイルしたあと焼いても良かったな、そうすればもっと皮がパリっとして良かったかも。と、堪能していたが、あ、言っておかなくてはいけない。
「あ、今日お代わりは1回だけだよ。試験販売するからそれ以上はダメ。商品だからね。」
と、言った瞬間に皆天国から現実に引き戻された様な顔をして、いつもの様に恨みがましい視線を一身に浴びる。
今日はミミリィまでちょっと不満そうな顔をしている。そんなに美味しかったかな。
「ごちそうさまでした。」
朝食後、本邸に戻るスヴェア、ベルタにホットドッグとコッペパンを預けアンナリーナ様に届けてもらい、朝のお仕事は終了。
皆には午前中の仕事に入ってもらいリーダーはミミリィに任せ、エレオノーラと伴に冒険者ギルドに行き価格交渉することになった。
「またデートですね。」と、満面の笑みを浮かべるエレオノーラと手を繋ぎ、冒険者ギルドへと向かうが、やっぱり道々の視線が痛い。
冒険者ギルドのドアを開けると、もう依頼を受け出かけて行った様であまり人が居なかった。飲んだくれもいなかったよ。
「おはようございます。」と受付にいるアイノさんに声を掛けてみたが、アイノさんの視線はエレオノーラと繋いでいる手を刺すような視線で見た後、「おはようございます。今日はどの様なご用件でしょうか。」と、昨日とは打って変わって事務的に返事があった。
「昨日、言われました甘太郎の商談に来たのですが、お忙しい様でしたらまた今度にしますけど・・・。」
「あ、その話ですね。では、サブマスターが担当しますので、奥へどうぞ。」と事務的に曰い、席を立ち奥の部屋に案内され、サブマスター室のドアを叩く。
「サブマスター、甘太郎の商談に太郎様がお見えになりました。」
「入ってもらって。」と返事をもらい、「失礼します。」と二人で部屋に入ると異世界ものでは鉄板の、大量の書類に埋もれた事務机でサインをし続ける男性と、ソファーで優雅にお茶をしている妙齢の女性がいた。
「まあ、こちらに座ってくださいな。」と、女性に勧められるままに着席する。
「あ、おはようございます。間橋太郎です。こっちは事務を担当するエレオノーラです。」
「お初にお目にかかります。太郎様、そしてエレオノーラ=アンドレアソン公爵令嬢様。ギルドマスターをしていカルロッタです。そっちは事務方を全部任せているサブマスターのクルトです。」 うん、鉄板どおり、事務を丸投げするギルドマスターとしわ寄せを一身に受けるサブマスターだね。
「カルロッタマスター様、訂正をお願いします。今の私はただの太郎様の妻「エレオノーラ=間橋」であり、アンドレアソン公爵家とは無関係です。」
「あ、そうね。婚姻したんですっけね。それはゴメンナサイ。いや、公爵令嬢が本当に平民に嫁いだっていうのかちょっと信じられなかったのよ。」
「まあ、そうですよね。で、時間も有りませんので、本題に入らせていただきます。アイノさんからは、用意出来る範囲内で早朝甘太郎をギルドに納品。常温と冷凍でと言われておりますが、それでよろしいでしょうか。」
「そう聞いているわ。」
「数量等の確約はできないということも大丈夫ですか。」
「そう聞いているわ。実際のところどの位納品していただけるのかしら。」
「おおむね200個位です。当方の生産体制と売れ行き次第ではありますが、現状では売り切れ状態が続いていますのでギルド用に別途生産は難しい状態ですね。」とエレオノーラが回答する。
「それで、納入価ですが、ギルドではいくらで販売するつもりなんですか?」
「納入価に適正な利益を乗せて販売するに決まっているじゃない。」
「そうですよね。僕的には、早朝買える、冷凍してあるから夕食でも大丈夫という付加価値、ギルドの利益を含め甘太郎2個で大銅貨3枚位かと思っています。なので、当方としてはギルドへの納入価は定価を予定しています。まあ、此所までの搬入は当面サービスですね。」
「あら、割り引いてはくれないのね。」
「当方としては、余分仕事なのでしなくてもいいかとも考えています。ですので定価販売が適当かと。それに割り引くと冒険者の手に渡らない可能性もありますよね。アイノさんとかアイノさんとか(笑)」
「そうね、中抜きされる可能性が高いわね。分かったわ。クルトそれでどうかしら。」
「ウチとしては、それで売れるなら利益がでますから良いのではないでしょうか。200個位でしたら、たいした数ではありませんが、朝購入できるのはメリットですしね。もし売れなかったら私が妻子に買って帰りますから損は出ませんよ。」
「何言ってんの、残ったら私が全部買うわよ。私だってアイテムボックス持ちよ、甘太郎の一年分位ストックできるわよ。」うん、そんなに残るようなら納品止めますから大丈夫だと思う。
「あ、はい。では売り切りで200個、納品できるときということでよろしいですね。エレオノーラ大丈夫。」
「はい、問題はありません。ただ、冷凍分の温度管理はちゃんとお願いします。食べようとしたら痛んでいたでは、当家の信用に関わります。」
「それは大丈夫よ。ウチにも魔術師がいるから氷魔法で温度管理はできるから、大丈夫よ。」
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします。」
と挨拶して帰ろうとしたら、エレオノーラがおもむろに
「ちなみに、太郎様は現在ギルド資格停止中と聞いておりますが、資格停止中の者がギルドに便宜を図るというのは如何なものかと思われますが。」
「あ、その件ね。うん、そうね資格停止期間は私の権限でどうにでもなるから、販売が軌道に乗ったら「ギルドへの貢献」ということで、資格停止期間を短縮するわよ。解除した後は朝の納品をギルドの依頼とさせてもらうわ。少しだけどポイントがたまるわよ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
改めてギルドマスターとサブマスターに挨拶をし部屋を辞して、受付でアイノさんに挨拶して帰ろうとすると、
「太郎様、ちょっとお話があります。」と、呼び止められ、エレオノーラと一緒に別室に案内される。なんかすごーく怒ってる。なにか悪いことしたかな。




