メルヴィンク王国とブルグッド帝国の行く末
逃げ切った。
追っ手は二度私達に追いついたが、全て問題無く対処した。
気が付けばブルグッド帝国領土への国境線に辿り着き、私は手紙でやり取りを続けていたマクバニーの手を借り、秘密裏にブルグッド帝国の地に足を踏み入れることが出来た。
残念ながらマクバニー本人とは会えなかったが、帝国兵に案内されて帝国最南端の街、ジムグリの一角にて休むことが出来た。
予定通り、信頼のおける孤児の一人に残ってもらい、我々は帝国兵にも知られていない場所へと移動する。
ルシールが交渉し、町の外れの家を買い取ったのだ。いずれバレるだろうが、長く住むつもりも無い。
それから僅か三日で大半の孤児達がジムグリに辿り着いた。結局集まったのは百人弱である。まだ身を潜めている者もいるとのことだが、合流出来るのはそれほど多くはならないと思っていた方が良いだろう。
私は簡単にどうこう出来ない人数になった孤児達を集め、活動を再開した。
やることは簡単である。まずは帝国内で動きやすくなるように大きな商会の者と貴族の洗脳だ。
エドウィーナの元王族という肩書きと、ルシールの助けもあり、それらの者達と会う機会はすぐに得ることが出来た。
次々に有力者を手駒にしていき、勢力を拡大する。
前回の失敗は自身が目立ち過ぎた事であると分析した私は、徹底的に表舞台に立たずに動いた。
結果、誰にも知られずにジムグリの街は私の手に落ちる。
ここで先走れば元の木阿弥だ。
目指すは一つ。
ブルグッド帝国の掌握である。
今、帝国の目は内乱が起きたメルヴィンク王国へと向いているのだから、その間に帝国の深部へと潜り込んでいかなければならない。
一日でも早く。それが成功の鍵となるだろう。
こうして、私は帝国の南部を中心にジワジワと有力者達を洗脳していった。
帝都に辿り着くまでにどれだけの力を得ることができるか。数は力である。
僅か一年。
八つの街の領主と騎士団長、各ギルドのギルドマスター等、街のトップといえる人物達を手駒にすることが出来た。
そして、徐々に民衆に今の帝国に対しての不信感を植え付けていく。
他の国に比べて遥かに裕福な国の筈なのに、帝国民は抑圧され、不当な扱いを受けているという噂を流したのだ。
その噂は行商人や衛兵などから少しずつ広がり、その街のトップまでもが噂を肯定する。
周囲の人の考えや感情に少なからず影響を受け、否定的だった者達の中からも徐々に流されていく者が出てくるのだ。
集団心理や群集心理というものである。
その国を形成する民が反旗を翻せば、ブルグッド帝国という大国であろうとも内部から崩れる可能性は充分にある。
「レイジ様」
声を掛けられ、私は顔を上げる。
そこにはいつもと変わらぬ表情で立つルシールの姿があり、私の隣に座って赤ん坊を抱くエドウィーナを横目に見ていた。
「メルヴィンク王国が完全に崩壊致しました。旧王国貴族派に対して新貴族派の勢力が上まりました。ですが、レイジ様の予想通り、急激に弱体化した王国を近隣の国が無視するようなことはありませんでした」
「やはり、帝国の一部になったか」
「今現在はまだですが、やがてそうなると思われます。三つの国が国境線に進軍しておりますので、新しい国王となったルキ侯爵はブルグッド帝国に援軍の要請を行うでしょう。そうなれば、メルヴィンク王国と同盟を結んでいた帝国が喜んで参戦します」
「後は帝国の支配下に置かれて事実上の帝国の領土に……か」
私はそう口にして、エドウィーナに視線を向けた。
「……私の力が足りないばかりに、君の祖国を救えなかったな。申し訳ない」
そう言うと、エドウィーナは首を左右に振って困ったように微笑む。
「いいえ、レイジ様は悪くありませんわ。全ては王国を我が物にしようとした馬鹿な貴族達のせいですもの。その結果、帝国の忠実な飼い犬になるのですから……」
エドウィーナは口元を手で隠して暗い笑みを浮かべ、ルシールは浅く頷く。
「つまり、これからレイジ様が静かに帝国を塗り潰してしまえば……」
ルシールはそう言ってこちらを見た。
私は頷き返し、口を開く。
「帝国も王国も私の手中だ」
私はそう言って、静かに口の端を上げた。
こうして、レイジは少しずつ、されど確実に国々を掌握していく。
その行きつく先は破滅であろうとも、歩みを止めることはない。
彼にとっての神は、自分なのだから。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
シリアスな話を書いてみようと思い、頑張ってみましたが、ちょっと心が折れました_:(´ཀ`」 ∠):
次にシリアスな話を書く時は、もう少しコメディも入れつ丁度良い塩梅の話になるように考えてみます。




