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危険思想の男、異世界へ  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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23/25

国王の誤算により…

 点々とある壁に付けられたオイルランプの灯りを頼りに、薄暗い通路を進む。


 外の風は冷たく、月明かりと共に私の身体を冷やした。


 目の前で揺れるエドウィーナの流れるような銀髪を眺め、次に私の斜め後ろを歩くルシールの頭を見る。


 私の視線に気が付いたルシールは、静かな怒りと苛立ち、それに僅かな羞恥を綯い交ぜにしたような眼で私を睨んだ。


 私はその目に皮肉げな笑みを返し、また前へ顔を向ける。長い通路を歩き続け、ようやく国王の私室がある扉の前に立つことが出来た。


 エドウィーナがノックをし入室の許可を貰う。


「それでは参りましょう」


 私が頷くと、エドウィーナは私から扉へ向き直り、扉を開けた。


 扉が開かれると、広い部屋があった。紋様の入ったクリーム色の絨毯と暗い茶色のカーテンが目に留まる。奥から歩いてくる国王はナイトウェアらしき薄着であった。


「こんな時間にいったい……む、お前は……!」


 国王はすぐにエドウィーナの後ろに立つ私に気が付き、声のトーンを落としつつ口を開く。視線は私からルシールに移すが、ルシールはそっと国王から目を逸らした。


「……そうか、エドウィーナ。お前が邪魔をしたのだな?」


 国王がそう口にすると、エドウィーナは目を細めて国王を睨み返す。


「……レイジ様はこの国を救ってくださる預言者様です。どうしてそれが分からないのですか?」


「まだそんな世迷い言を言っているのか。良いか。そもそも預言者などという不確かな存在を盲信することがいかんのだ。自らの力で国を守る気概を……」


 国王が厳しい態度で語り出したのを見て、私はルシールに視線を向けた。ルシールは何処か悔しそうに唇を噛み締め、国王へと近付いていく。


「……ルシール? まさかとは思うが、この私を殺すつもりか? もしそうであるならば愚かと言わざるをえないだろう」


 国王はルシールから私に向き直り、低い声で話を続けた。


「私を殺してもエドウィーナが入れば此処からは脱出出来るだろう。だが、必ず追っ手が掛かり、国外にまで逃げることはできん。自殺に見せかけて殺してもバレる可能性は高いし、国王には第一王子がなる。貴様が私に取って代わるようなことは絶対にあり得んぞ」


 その台詞に、私は酷く傷付いたような表情を作り、首を左右に振った。


「そのように思われていたとは心外です。私はただ、陛下に話を聞いてもらいに来たのですから」


 私がそう告げると、国王は眉根を寄せて顎を引いた。


「……話を、聞く?」


 その表情からは、私の台詞から何かしらの意図を探り出そうとしているのがありありと見てとれる。


「ルシール」


 私が名を呼ぶと、ルシールはそっと国王の手を取り、1人掛けの椅子に座るように言った。


 抵抗する気は無いのか、それとも私の手の内を明かすつもりなのか。国王は無言で椅子に座り、私を見上げる。


「それでは、まずは私の理想とする世界についてお話をさせていただきます」


 私がそう口にすると、国王は顔を顰めて顔を上げた。





 こうして、私は国王を洗脳した。





 それから半年が経ち、すでに私の傀儡となった国王は次々に私の指示した政策を打ち出していった。


 貴賎なく有能な人材を登用し、これまでの家柄だけで選出されてきた者達を退場させた。


 税金を見直し、一部商人と他国から来た者には優遇措置を与えた。


 農民には優れた農具の知恵を授け、農業改革を行った。


 子供達の学校は王都以外にも建てていき、そこで私の教えを広めた。


 罪に対する厳罰を徹底し、犯罪を抑止すべく動いた。


 途中、改革に費用をかけ過ぎた為、これまで国の金を横領し続けてきた貴族から私財を没収した。


 大国の側で協力的な姿勢を崩さずにいた為、他所の国から侵攻される可能性は低いが、それでも著しく変化している最中のこの国は脆いだろう。


 私は更に改革を急いだ。


 一年が経ち、幾つもの貴族の名家が潰れ、代わりに大商人と呼ばれる成金が生まれた。


 景気が良くなったというわけではなく、国が背中を押して持ち上げたのだから当たり前の結果だ。


 様々な商売をする余裕が生まれた商人達は、更に金を稼ぐ為に隣国に手を出した。


 物価が高騰していく我が国で物を売る為に、近隣諸国から奴隷などを買ってきて、人件費を抑えようとしたのだろう。


 私は奴隷解放宣言を発令し、奴隷を扱う商人達を大々的に取り締まった。


 財を築いた商人達の一部が破産に追い込まれたが、自業自得だろう。


 しかし、奴隷の解放をしてしまった為に、一時的に大勢の難民を抱えてしまうような状況になってしまった。


 改革の最中であった為、予算は厳しい。


 その為、王家の私財を投じて補填した。


 それでも金は足りず、一部の元奴隷は餓死した。他にも大量に人が増えたせいで食い詰めた最下層の者達も幾らか死んだ。


 可哀想だが、人口のバランスは良くなっただろう。


 国の制度はかなり私の理想に近付いてきた筈だ。


 誰もが勉強でき、自由に仕事を選べる。富裕層から下流層に向かってお金が流れる仕組みがもう少し整えば、自然とこの国は豊かになっていくだろう。


 国民の能力的な水準を上げつつ、貧富の差を無くし、血筋による差別をも無くす。


 今はまだ貧富の差が激しく、商人が急速に力を付けているが、そこは税金や補助を使って調整するつもりだ。


 私は王城から見える景色に、浅い息を吐いた。夜の冷たい空気に冷やされて、私は背筋を僅かに震わせる。


 この国を理想郷とし、次に隣国に手を付けよう。


 私がそんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音が響いた。


 入室の許可を出すと、現れたのはエドウィーナとルシールであった。二人は強張った表情でこちらに歩み寄り、私を見上げる。


「一部の貴族と商人による反乱が起きました」


 ルシールにそう言われ、私は首を傾げる。


「私兵は解体したし、常に過剰な武力は持てないようにしていた筈だが……」


「彼らは民を扇動して即席の兵としております」


「貴族と商人が協力し合うのは今回の増税の為かもしれんが、なぜ民が協力する? 大きな借金を抱えた者達か?」


「……それは分かりませんが、時間がありません。この王城を守る兵士達の一部にも裏切り者が現れました」


「この王城を守るのは昔から王家に仕える一族の出の者達では無かったか?」


 私がそう尋ねると、エドウィーナが口惜しそうに俯いた。


「申し訳ありません……彼らの忠誠が絶対のものであると思い込んでいました。金で転んだのか、それともこの国を乗っ取ろうとする貴族の甘言に騙されたのか……どちらにせよロクなものではありませんわ」


 憤怒を滲ませるエドウィーナは手を握りしめ、指の隙間から血を滲ませた。


 その様子に、ルシールは心配そうに眉根を寄せてエドウィーナの背中にそっと手を添える。


「姫様、冷静に……お腹の御子に影響があるやもしれません」


 ルシールがそう言うと、エドウィーナはハッとした表情になり、自らの腹部に手をあてた。エドウィーナの腹は僅かに膨らんできている。


「そうですわね。レイジ様との大事な大事な赤ちゃんですもの……これくらい何てことはありませんわ」


 陶酔したようなエドウィーナのその台詞に、ルシールは無言で深く頷き、私に顔を向けた。


「再起は可能です。今はすぐに王城から脱出致しましょう。国王と王子にはレイジ様のお逃げになる時間を稼ぐように申し付けてあります」


 ルシールはそう言うと、扉に向かって早足で移動した。


「……ここまできて邪魔が入るとはな。反乱も織り込み済みではあったが、思いの外口惜しいものだ」


 私はそう言ってエドウィーナと共にルシールの後について行った。


 これまでも反乱しそうな貴族はわざとあぶり出し、反乱させておいて徹底的に潰してきたが、今回のは完全に予想外だった。


 よくもまぁ、このルシールの目を掻い潜って反乱の準備を進めたものだ。


「こちらでございます」


 ルシールはそう言って、王城から秘密裏に逃げる為の地下通路への道を指し示す。


 もし何かが起きた時に備え、私は様々な準備をしてきた。


 これもその一つである。


 元々ある隠し通路なぞ、誰が知っているか分からない。その為、ここは私が自ら孤児達を使って用意したのだ。


 隠し通路を使って王城から出ると、そこは私が用意した学校の中だった。かつて反乱をした為に潰した貴族の邸宅を利用しており、広いだけでなく防犯性も高い。


 中には教室だけでなく、私が完全なる洗脳を施した子供達が住む寮もある。


「それでは、皆を集めて参ります」


 ルシールの台詞に頷くと、エドウィーナが心配そうにこちらを見上げた。


「人数が随分と増えてしまいましたが、それだけの大人数で街から出ることは出来るのでしょうか……」


「大丈夫だろう。十人程度で別れ、それぞれ別方向に脱出する。目的地さえ把握していれば問題無いだろう。その目的地にも一人だけ残し、その者だけが私の場所を知っていれば良い」


「なるほど! 流石はレイジ様です!」


 嬉しそうに笑うエドウィーナに微笑み返し、私は顔を上げる。


 全員が来てくれるとは限らないが、十組から十五組の班が作れたらまず大丈夫だろう。


 彼らが囮となり、私の脱出を助けてくれるはずだ。



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