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国王の興味

 マクバニーとの一件を聞いたのか、エドウィーナから会いたいという一報を受けた。


 ルシールから受け取った書状には、色々と話をしたいから王城でディナーをどうか、といった内容が書かれていた。


 いよいよ、国王と顔を合わせる機会を得たということだ。


 だが、問題は国王の思惑である。何を考え、私をどうしたいのか。まさかエドウィーナとの関係などで私を呼ぶようなことはしないだろう。


 邪魔なら何かしらの理由を付けて排除すれば良いし、何処の誰かも分からない私をエドウィーナと婚姻関係に据えようなどとは決して思うまい。


 私は幾つかの予想を立てて、国王との晩餐に赴くことにした。





「さぁ、こちらでございますわ」


 何処か浮き足立った様子のエドウィーナに案内され、私は巨大な城の前に立った。


 現代に残る日本の城に匹敵するような大きな城だ。窓の配置を見る限り三階から四階建てだろうが、一つ一つの階がかなり大きいように見える。


 壁には装飾は少なく、縦長の窓が無数に並んでいる。門も巨大であり、その周りには鎧を着た兵士達が立っていた。


 馬車から一番に降りてきたエドウィーナに目を丸くしつつも、兵士達が声を張り上げて門を開く。


 開かれた門の向こう側は僅かに薄暗い。その中へエドウィーナはルシールを連れて入っていった。


 兵士達からの視線を受け流しながら城内へ入ると、微かに湿気を含んだ風が頬を撫でていく。


 石と木の香り、硬い足の裏の感触。響く足音。これらが普通の家屋とは大きく違う雰囲気を作り出していた。


 エドウィーナの案内で通路を抜けて階段を上り、二階に上がった途端、通路には分厚い絨毯が敷かれていた。赤と白、金色を使った豪華な模様の絨毯である。


 暫くその通路を進むと綺麗な鎧を着た二人の兵士と鈍い金属製の扉が姿を現した。


「開けてください」


 エドウィーナのその一言で兵達は無言で会釈すると、扉を開放した。


 その先に広がるのは謁見の間などでは無く、装飾や照明の一つ一つにまで気を配られた広間だ。部屋の真ん中には長いテーブルと椅子が置かれており、テーブルの向こう側には長い金髪の上に王冠を載せた初老の男が豪華な椅子に座り、こちらを見ていた。


「お父様、レイジ様をお連れ致しました」


 エドウィーナがそう口にすると、男は目を細めて私を眺める。


「ふむ。彼がそうか……私が、レイマン・ジン・テリオース・キレデリク。この国の王である」


 国王を名乗るレイマンはそう言って口の端を上げた。そこには優しげな父の雰囲気を持ちながら冷徹な思考を併せ持つ、厳しい為政者の目が覗いていた。


「……お初にお目にかかります、陛下。私はレイジと申します。以後、お見知り置きを……」


 私は静かにそう口にしながら、その場で跪いて頭を下げる。


「良い。今は国王でなく、エドウィーナの父としてこの場に座している。さぁ、晩餐を……というには少々物足りないが、夕餉を共にするとしよう」


 厳かに告げられたその言葉に、私はただもう一度頭を下げて返事の代わりとした。


 テーブルの前にある椅子に座り、食事が運ばれる。


 並ぶのは肉や魚料理だけでなく、スープ、果物や野菜など、様々な種類の料理である。長いテーブルを埋め尽くすような品の数々はどう控え目に見ても豪勢な晩餐だった。


 最後に自分の前に置かれた器に注がれた白いワインを横目に見ていると、レイマンが口を開く。


「さぁ、乾杯をしよう……そうだな。噂に名高いレイジ君と会えたことに乾杯するとしよう」


「わ、私ですか」


 レイマンの悪ふざけにも似た台詞に私は思わず聞き返してしまった。すると、レイマンは口元を緩めて子供のような笑みを浮かべる。


「さぁ、乾杯だ。ようやく、レイジ君の肩の力が抜けたようだしな」


 そう言われ、私は苦笑とともに器を片手で持ち上げた。


 肩の力と一緒にせっかく貼り付けていた仮面まで剥がされてしまった。これは中々油断できないディナーとなりそうだ。


 私は気を引き締めようと顎を引いた。


 ある程度食事も進み、様々な話をレイマンと交わした。この国のことや民の暮らしぶり、孤児院の様子といった話題を皮切りに、話は私の知識、教えについてへと移り変わっていく。


「なるほど。大国であるブルグッド帝国の王侯貴族にも負けない知識をと思って子供達に教育を与えてきたが、エドウィーナが手放しで絶賛するだけはある。レイジ君の知識は想像以上のようだ」


「いえ、元々は私の知識ではありませんから」


「謙遜せずとも良い。しかし、先程の、なんといったか……民主主義、だったか。あれはかなり難しい思想では無いかね? 国民が誰か一人を選び出すのにもかなりの時間と費用がかかるだろうし、公正を期すのは更に難しい。それに、選ばれた者が正しい(まつりごと)をするとも限らん」


 レイマンのその言葉に、私はゆっくりと頷く。


「はい。それ故の学問です。多くの国民が一定水準以上の教育を学び、善なる心を育てる為に私の教えを伝えていきたいと思います」


 私の考えを聞いたレイマンは静かに目を瞑り、じっくりと数秒以上考え込んだ。


 そして、目を開いて私を見る。


「……なかなか難しい話だ。なにせ、それらを実際に行うには時間も費用も掛かる上に、予測もし難いだろう」


 そう呟き、レイマンは……いや、国王は私の目を真っ直ぐに見据えた。


「……君のその教育や教えは、我が国で続けていくのは厳しいと言わざるを得ない。王国としては、教育の一部と教えの大部分を改めることを要求させてもらう」


 国王は硬い声でそう言い、エドウィーナが立ち上がって声を上げた。


「そんな……! どうしてですか!?」


 エドウィーナのその怒りを含んだ声に、国王は眉根を寄せてエドウィーナを見る。


「……何故そんなことに答えねばならん。この国を見守ってきた私がそう決めたのだ。他に言葉は無い」


 国王のその言葉は重く広間に響き渡り、その後に静寂が広間の色を暗く塗り替えた。


 暫く言葉を発せずにいた私は、鼻で空気を吸い、口からゆっくりと息を吐き出して国王に顔を向ける。


「ザハウィー教団の為、でしょうか?」


 私がそう質問すると、エドウィーナも国王に顔を向ける。だが、国王は首を左右に振るのみだった。


「……お父様、確かにザハウィー教団の力は無視出来ないほど強大かもしれません。しかし、それでもレイジ様ならザハウィー教団の権威を失墜させることも出来る筈ですわ」


 エドウィーナがそう説得すると、国王は目を細めたまま溜め息を吐いた。


「ザハウィー教団の力は私とて知っている。だが、ザハウィー教団の力に恐れをなした訳では無い。むしろ、レイジ君の教えと教育があれば、数年後にはレイジ君の方が大きな権力を握っている可能性は高いと見ている」


 国王のその台詞に、エドウィーナは困惑する。


「それでは何故……」


 エドウィーナがそう口にすると、国王は目を細め、鋭く私を睨んだ。


「彼の語った思想が、あまりに危険だからだ。特に、我が王国にとっては劇薬となりうるだろう」



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