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危険思想の男、異世界へ  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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メルブレイン子爵

 貴族の晩餐会。


 その名に相応しい、豪奢な料理の数々がテーブルに並んでいる。


 そのテーブルを囲むのは冒険者ギルドなる組織の支部長と、商人組合の代表の数名など、何かしらの肩書きを持つ者達である。


 そんな中、私はエドウィーナの私兵とルシールを連れて案内された席に座っていた。


 かなりの広さを持つ広間だが、この館の主である子爵と我々以外の存在によって圧迫感を感じる。


 兵士達だ。


 金属の鎧を身に付けた兵士達が広間の壁に沿ってズラリと並んでいる。そして、私の座る後ろにも、明らかに他の者達とは違う雰囲気の者達が立っていた。エドウィーナの手配してくれた兵達である。


 呼ばれた客の中で兵を連れてきたのは私だけのようだった。


 子爵以外のテーブルに付いた者達が私の後ろにも居並ぶ兵達を盗み見する中、ホストたる子爵が作り笑顔で私を見た。


「立ち振る舞いを見て分かりますな。精強な兵をお持ちだ」


 挨拶もそこそこにしたばかりだと言うのに、子爵は第一の話題として私の連れてきた兵達を挙げた。子爵がそう口にすると、招待された他の客達も堂々と私の後ろに立つ兵達に目を向ける。


 牽制と探りを入れてきたのだろうが、私としては正直に答えた方がメリットは多いのだ。


 そう考え、素直に首を左右に振って子爵の言葉を否定すると、私は自分の連れてきた兵達を手のひらで指し示す。


「いえ、彼らはエドウィーナ王女様が手配してくださった兵達です。やはり、王女様の私兵ということもあり、並大抵な鍛え方では無いのでしょう」


 私がそう言うと、子爵は感心するように息を吐いた。


「ほう……エドウィーナ王女殿下の? 噂には聞いておりましたが、レイジ殿は本当に殿下と仲がよろしいのでしょうな」


 子爵は軽い調子でそう言って笑い、細めた目で私の様子を窺う。


 さて、かなり直接的な言葉を選んできたが、これは私を貴族では無いからと圧を掛けてきているのか。それとも、エドウィーナと仲が良いなら間接的な繋がりとして利用しようとしているのか。


 私は子爵の感情を感じさせない眼を見つめながら、静かに頭を巡らせる。


「いやいや。王女様は孤児達のことに心を砕かれているだけですよ。私の孤児達への考え方や孤児院の経営方法に興味を持っていただけたようですから、それで兵達を預けてくださったのでしょう」


 私がそう言うと、子爵の眉が動いた。


「殿下はお優しい方ですからな。いや、それにしても私の邸宅にまで兵を送られるのは少々悲しいものです。よく悪人顔とは言われますが、レイジ殿の身を案じられたのでしょうか」


 子爵がそう言って笑うと、他の客達の目に僅かに鋭利な光が宿った。


 私は眉根を寄せ、まるで申し訳無いと書いているかのような表情を作って頭を下げる。


「申し訳ありません。本当は道中の護衛の為に預けてもらったのですが、初めてこのような立派な邸宅に招待されて舞い上がってしまい、入り口で待っていて欲しいと言い忘れておりました。先程閣下が来られる前に尋ねましたら、問題は無いと言われましたので、良かったらこのままでお願いしようかと……」


 私がそう言うと、子爵は一瞬広間の中にいる十人ほどのメイドの一人を見たが、すぐに笑みを作って私に顔を向けた。


「そうでしたか。いや、勿論殿下の所有物たる兵達を追い出すようなことは致しませんよ」


 子爵はそう口にして快活に笑うと、片手を挙げた。すると、我々の前に順番に料理が並んで行く。どうやらフランス料理のコースのように順番に出るのでは無く、中華料理のようにテーブルいっぱいに料理を並べるようだ。


 豪華な料理の数々が並び、自分の前に置かれた薄っすらと白いガラス製のグラスに赤い液体が注がれていく。


「それでは、乾杯といきましょう。今日の日に」


 子爵が手早く音頭を取り、晩餐会が始まった。


 最初は子爵からの質問を各々が答えるような形で始まり、細かく街の中での事や、それぞれの組織での事などを子爵が聞いて頷いていた。


 この晩餐会開催の名目通りではあるが、何か小さな違和感を感じる。まるで、既に出来上がっている芝居の台本を読み合わせている光景を目にしているようだ。


 私がそんなことを思いながら、渋みの強い赤ワインを口にしていると、子爵が私に顔を向けて口を開いた。


「いやぁ、良い話を聞けて良かった。そういえば、レイジ殿は今や街の顔役の一人と認識していますが、どうやってこの短時間でそのような地位に? 大変失礼ながら、私がレイジ殿の事を知った時にはレイジ殿は孤児院を幾つか管理している状態でしたからな」


 子爵がさも興味深そうにそう口にすると、他の面々も私に顔を向け、口を開いた。


「そういえば、私も気が付いたらレイジ殿という御仁が孤児院を経営していると話を聞きました」


「私が聞いたのは、とても為になる話をしてくださる相談所なるものをレイジ殿がされていると……」


 話をしやすい空気になっていたお陰か、子爵の質問に便乗して他の者達も随分と踏み込んだ質問をし始める。


「いやいや、本当に偶然ですよ」


 と、私は軽く謙遜を交えながら相槌を打った。


 そして、そのやり取りの中で商人組合の代表の一人という男が好奇心に目をギラつかせて口を開く。


「やはり、王女殿下と密接な関係であるという噂は本当なのですな? そうでないとレイジ殿が管理する孤児院は手に入りますまい。なにせ、あそこは闇ギルドの……っと、いやいや、何でもありません」


 男はうっかり口を滑らせたと苦笑いを浮かべ、私から視線を外す。これは、聞かねばならない流れだろう。それが子爵の筋書きの筈だ。


 私は怪訝な顔を向けて、声のトーンを落として聞き返す。


「闇ギルド、ですか? それは、いったいどのような組織なのでしょう? いや、世間知らずでお恥ずかしい限りですが、本当に分からなくて……」


 私がそう言って苦笑すると、面白くない冗談か何かと思ったのか、何人かが失笑して顔を見合わせた。


 しかし、子爵が至極真面目な表情で頷いた為、笑い声は消えていく。


「闇ギルドを知らない、と。やはり、レイジ殿はこの国の方では無いのですな……いや、みなまで語らずとも構いません。とりあえず、闇ギルドについてお話ししましょう」


 子爵はそう言うと、厳しい顔付きでテーブルの上に肘を乗せた。


「闇ギルドとは、組織だった犯罪者集団のことですな。窃盗団や盗賊などと違う点は、何かしらの方法で依頼を受けたり、裏で違法な商売を手広くやっていたりするので闇の中にあるギルド、つまり闇ギルドという名称で呼ばれているというわけです」


 子爵はそう解説をすると、顎を引いて私を真っ直ぐに見た。


「今現在、レイジ殿が管理をされている孤児院の前任者の者が、《黒い布を巻いた者達》という犯罪者集団と繋がりを持っておったのです。そいつらはこの王都でも最大規模の闇ギルドであり、危険な物品を取り扱ったり、暗殺依頼を受けたりと、様々な犯罪に手を染めております。そして、孤児達を販売したり、あまり褒められたことでは無い使い方で金を稼がせたりしていました」


 子爵のそんな説明に、私は軽く頷いて口を開く。


「なるほど。しかし、前任の者が退任した際に、その孤児達が働かされていた場所も潰されたと聞きましたが」


 私がそう尋ねると、冒険者ギルドの支部長を名乗っていた男が口を開いた。


「そこは私が説明しましょう。《黒い布を巻いた者達》は巧妙にギルド員達を庇い合い、出来る限り表に出ないようにしています。挙句に、貴族の依頼者も多く、奴らを助ける輩も大勢おります」


 男がそう言うと、子爵が静かに顔を下に向ける。


「……残念ながら、我々の持つ私兵や、騎士団、衛兵の中にも何人も協力者が紛れ込んでいるようですな。検挙する為に出動した者達の中に敵が紛れていたのでは、どうやったって捕まえることなど出来ません」


 沈痛な面持ちで呟かれた子爵の言葉に私は成る程と頷く。闇ギルドという名前だが、大きなマフィアのような組織ということだろう。


 さて、こういった場でそんな怪しい話題を続け、何処に着地点を設けているのか。


 私が興味を持って子爵に目を向けていると、子爵は申し訳無さそうに私を見返した。


「……正直に話しましょう。私は今回の話をレイジ殿にする為に、我が邸宅に来てもらったのです」


「私に、今の話を?」


 子爵のその言葉に、私は眉根を寄せてそう聞き返す。すると、子爵は頷いて顔を上げる。


「私が知るエドウィーナ王女殿下は、情に溢れるお優しい方です。その殿下が認め、殿下が最も大切にしていた孤児院を託したレイジ殿の人柄を見させて頂きました。勿論、結果は最高のものです。貴方ならば、私は信じられる」


 子爵はそう熱く語ると、上半身を乗り出して私に強い視線を向けた。


「私達と共に、悪逆非道なる闇ギルド《黒い布を巻いた者達》を潰しましょう! その為にレイジ殿の力と、出来ることならば殿下の力をお借りしたい!」


 子爵がそう言うと、他の者達も深く頷いて私を見た。


 成る程。こういう流れか。


 随分と詳しく闇ギルドの行いを語る子爵が、これまで闇ギルドに手を出さなかった理由は何か。そして、闇ギルドを潰すことで、子爵にはどんな利益が生まれるのか。


 恐らくその答えが、この話の裏側だ。


 私は柔らかく微笑み、椅子から腰を上げて子爵に顔を向け、頭を下げた。


「善良なる市民や孤児達を想う優しい御心……閣下の素晴らしい正義感に感動しました。是非とも、私にも協力させていただきたい」


 私がそう言うと、子爵は笑顔で何度も頷き、周りの者達は盛大な拍手を送る。


 そんな中、私の視界の端に立っていたルシールが静かに目を細めて我々を観察していた。



次の話が気になる!という方は是非画面下部から評価をお願いします!

評価してくれた方にはルシールのメイド喫茶へご招待!

……凄く怖そうなメイド喫茶だ……

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