プロローグ1・双頭の烏は嗤う
空野昇。そう白い塗料で俺の名前が刻まれた黒いミニ墓石のような物が飾られているのは厳粛な机の上だ。
いや、机と言ったら語弊があるかもしれない。それは俺らの生活に使うようなものではない。むしろ、祭壇のようなものだからだ。
それを一段下から見上げている形の人々は、白が基調の部屋だというのに人々はみな黒い衣服を身にまというつむいて黒髪で肌を隠すものだから暗かった。
「私の――むす、こは元気で、活発で、親にもやさし、くて…とてもいい子でした」
やめてくれよ、親父。何で泣くんだよ。おふくろが死んだ時も強かったあんたなのに。
ていうか、俺ももらい泣きしてしまいそうだよ。やめてくれよ、男から貰い泣きするなんて。最悪じゃねえか。
でも、もっと最低なのは俺が死んでいるってことかな。
俺は今、自分がどうなっているかはわからないが、何故か自分の体を天井から見下ろしている。
意外と冷静に俺はこの事実を受け止めていた。
理由は多分、自分でも呆気のないほどに死んでいったから。
「な、んで、死んでしまったのか、ぁ、私が、とめられたことなのでじょうが」
――いつもの通学途中、信号を無視したわけでも道の車が暴走したわけでもなく、止められていたトラックの荷物が落ちて死んでしまった。
あーぁ、呆気ない終わりだった。だが、俺にとってこの人生は味気のないものではなかった。
人よりも少し苦難が多かっただけの俺の人生は、それでも俺にとっては幸せな人生だった。
だから、死にたくないというよりも、生きたいな。生きたい。生きてぇよ。
誰か、誰か誰でもいいから。俺の脚を引っ張って地上につけてくれないか。
――だが、無理だ。俺は手放された風船のように、しかし天井なんてものを無視して空に上昇していく。しかし、意外だな。俺って天国に逝けるんか。いや、どうでもいい。天国だろうが地獄だろうが、どちらにしても俺の行きたい場所は違う。
俺は必死に抵抗しようとするがそもそも俺には体がない。じゃあ、今の俺って魂なのか。そうかもしれない。だったら本当にこれで終わりかよ。
「いや、まだ終わりにしなくてもいいんだヨ」
なんだ!?俺は多分目があったら見開いてそちらを見たことだろう。
そこには黒い二つの首を持ったカラスが飛んでいたのだから。
「おおっト。ふふふふフ、今驚いたでショ。いいネ、その反応。毎回楽しいのだヨ。いやァ、この姿でもお得があるネ。女の子には嫌われそうだけド」
なんだよ、このカラスは!?しかもバリバリ人間の(下)心あるじゃねえか!?
「説明すると長くなるかナ。とりあえズ、今のキミをなんとかしないとネ。というわけで」
どういうわけで、どうなるんだ、という当然の疑問を抱いたが生憎魂には口がない。
「取引をしないかナ?」
カラスは腐ったリンゴのような舌を漆黒の口からのぞかせて、残酷に不自然極まりなくにいっと嗤った。
「うふふぬふふフ。今さーらーにビックリして怖かったでショ。いやいヤ結構。こういう人材を探していたのだヨ」
どういうことだ、っていうか話脱線しまくりじゃねえか。
ていうか、もう取り返しがつかないほど天高く舞い上がっちゃてるんだけど。
「げふフォ!こ、ここ酸素薄っ!やばいヤバイヤバいヤバいヨ!死ぬ!酸素…が、がががっ」
おいおいおいいぃぃ!こいつも昇天しちゃうの!?
「というのは冗談…でもないかもしれなくもないネ」
結果的に冗談じゃないってことだろ、複雑にしてごまかそうとしてるんじゃねぇ!てか本人はどっち言ったか分かってない!
「…真剣に話そウ。まったク…」
ふう、っておま…!
「――生きたいのなラ、あるゲームに参加すればいいのだヨ。それでもし生き残れたラ、キミは生をつかみとれるわけサ」
生き残れたら、という語句にわずかに違和感を感じながらも俺はもう答えを決めていた。
そいつはそれを知ってかしらずか、カラスは双頭の片方ずつ、二つの眼をつむってウインクしてみせた。
「なぁニ、簡単サ…」
あまりにも気軽にカラスは当然のように言った。
「殺人鬼6人から66日間逃げ切ればいいのサ」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
一応主人公である昇の登場です。この小説はグロ、ホラーですが明るいコメディチックなキャラで進めていきたいと思っています。
次話は殺人ゲーム始まる前日ということになりますので、おそらく次の次の話から殺人ゲームが始まると思いますのでしばらくお待ちを…。
あとがきも読んで下さった方ありがとうございます。がんばりますのでご支援していただければ幸いです。