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ワールド・エンド・ホライズン  作者: キツネ
第一章
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入学編9


東京都能力者軍事訓練所

都心から離れた場所にある訓練所は、東京では珍しく、周辺はのどかな田園風景が立ち並ぶ場所にあった。


元々はこの場所も都市特有のビル群が立ち並ぶ近代的な場所だったのだが、第三次世界大戦による爆撃により、壊滅的被害を受けた場所だった。


今でこそ、面影は無いが、当時の残骸が発掘されることもあるこの場所は日本にとっては重要な場所であった。


訓練所の周囲には厳重な監視網が引かれ、ゲートを開くには専用のパス、指紋認証、声帯認証を行う徹底ぶり。勿論、それだけでは無く、警備兵によるボディチェック、内部では電子機器は特殊な暗号を入力しなければ使用できない等、ある意味では不便ではある。


そんな、訓練所の一室に軍服を着た女性が紅茶を飲み、手渡された資料を眺めていた。


「そう。この外国人が....それにしても、湊も調べていたの?」

「いえ、調べた....と言うより、偶々、眼に着いただけです」


女性の前で珍しく、車椅子から降りている湊は綺麗な姿勢で女性からの質問に答えていた。

湊の様子をジッと眺めていた女性は、手を大げさに振って湊に姿勢を崩す様に合図する。


「良いわよ。今は他人の眼は無いんだから....一体誰に似たのかしら?」

「....はぁ。今回の件についての処理は誰が行う予定でしょうか?」

「もう。だから今は....まぁいいわ。この観光客についての処理は貴方に任せます。でも、気を付けなさい、私達も調査対象については調べている所だけど....ちょっと厄介な相手だから」

(厄介な相手....国絡みか)


女性の話し方から察した湊は眉間に僅かに皺を寄せて思考した。

この女性、湊の母であり、国家自衛能力者大隊ハヤブサ少尉 神楽 優菜が厄介だと言う相手であれば限られてくるのだ。


母の先を見る力はある意味能力者より厄介だと自身の隊だけで無く、世界からも警戒されている。

未来予知能力者だと、一部では勘違いされる程なのだから。


湊は母の力で何度も命を救われた。

文字通りの意味で、だからこそ、母が気を付けろっと言った意味は十分に理解していた。


「承知しました。注意致します....それで、今回招集された要件とは何でしょうか?」

「えぇ。お願いね....そうそう、今回呼んだ理由は特に重要では無いのだけれど」

(...?)


首を僅かに傾けながら疑問を浮かべる湊に、親子らしい、いや、茶化すような笑みを見せた優菜。

その笑みに、思わず苦笑いを浮かべた。

急に呼び出された湊は、親友(?)と思われている優と凛子の誘いを上手く断って急いで来たのだが、どうやら失敗だったと頭の片隅で思考した。


「学業の方はどう?順調かしら?」

「順調、と聞かれてもな、入学してまだ二日目だから何とも言えないよ」

「そんな事じゃ無くて....友達は作れた?」

(まさか...あの二人は母さんが仕向けたのか?)


ジト眼で優菜を睨む湊は、漸く親子らしい会話を始めた。

とは言え、先程までは仕事と割り切って話していた為に敢えて堅苦しくしていたのだ。

優菜の性格を知っている湊は此処で話し方を崩さなければ母が不機嫌になるのは知っていたのだ。


「何かしら?....そんな目で見つめられる覚えは無いのだけれど?」

「惚けないでくれ。滝澤 優と野村 凛子は、母さんが仕向けたんだろ?」

「....はい?ぷっ!まさか!そんな訳ないわよ。と言うより誰?その二人は?」


眼を丸くした優菜はタップリ時間を空けた後、面白そうに笑って口元に手を当てた。

これが、本気で笑っていると理解できるのは家族である湊だけだろうと理解しているので、困惑した様子だった。


(母さんの感じだと....俺の勘違いだったのか?)


「誰っと言われてもな....成り行きで知り合ったとしか言えない」

「成り行きって....ほんっと、湊はお父さんに似て素直じゃないのね」


さも、面白そうに眺めている優菜だったが、目元は幾らか笑っていない。

何か気になる事でもあるのだろうか?と湊は不審感を募らせる。


「何か二人について気になる事でも?」

「え?...いえ、何でも無いわよ。それよりも、学生にはバレてないのよね?」


バレてない、と言うのは湊の本当の実力についてだろう。

それを理解している湊は、曖昧ではあったが、肯定の意味を込めて頷いた。


「実力は隠してますよ....とは言え、何人かには既に怪しまれているみたいですが」

「怪しまれるって....何があったのよ」

「何があった....と言われても、新入生代表として、上級生と干渉力を競ったとしか。勿論、手は抜いたんだが、どうやら、最低二人には怪しまれたかな」

「あぁ、アレね。そう言えば今年からだったわね....まぁ手を抜いたなら大丈夫よ。学生の域を超えていると思われても....まさか貴方が国の殲滅級能力者、破滅の使徒(ワールドエンド)だとは思われないだろうから。でも、一応調べておくから、その二人の名前を教えてもらえないかしら?」


殲滅級能力者(ワールドエンド)、つまり、京極樹と同じ地位に居るのだが、勿論これは非公式だ。

未成年を戦場に投入した事が世界に知られれば、国の情勢が悪化する。

湊の存在は国にとっては、諸刃の剣なのだ。


「一人は二年生、京極 沙綾、もう一人は....これはあまり気にする必要も無さそうですが、同級生の七海 茜と言う人物です」


二人とも女性であるのは、名前を聞けば直ぐに理解出来た優菜は面白そうに笑って紅茶を飲んだ。

悪戯っ子の様な笑みを浮かべた優菜に眩暈を覚えた湊は、困った様子で首を横に振った。


「わかったわ....アノ怠け者の妹、はともかく、七海茜ちゃん?とは仲良くしなさい」


急に悪戯っ子の様な笑みから一転して目元の一切が鋭く尖った優菜の笑みに自然と背筋を伸ばした湊。

湊は優菜の言っている仲良くしなさいの意味を考え、そして結論付けた。


「つまり....仲間、軍に引き込めと?」

「ふふっ。そこまでは言っていないわ....でもそうね、仲良くして不利になる事は無いわね」

(随分と曖昧だな、と言うか、そう言われると対応に困るんだがな)

「わかりました。努力してみます」


故に、努力と言う実に曖昧で抽象的な返答に努めた。

優菜はそれを、面白そうに見ながら獰猛な視線を崩さない。


「えぇ。努力しなさい....あ、そうそう、今日は訓練していくのかしら?」

「いえ、訓練は人目の付かない場所でしか行えないので今日は帰ります」

「そうだったわね....貴方は特別だったわ。どう?神々の黄昏(ラグナロク)の調子は?使い方はマスターしたのかしら?」

「順調ですよ....能力の同時発動も慣れてきましたので、そろそろ実戦で使おうかと」


淡々と無表情で告げた湊に、優菜は一層笑みを強めた。

本来使えるはずの無い力を得た湊の今後をどうしていくか?それが楽しみでもあったからだ。


「そう....じゃあ今回は丁度良い実験動物もいる事ですし、楽しみにしておくわ?」


その表情は最愛の息子を見る親の視線とは違っていた。

優菜の息子を見る目は、殲滅級能力者であり、世界初の存在、魔人、怪物、死神、兵器、そう言った者を見る眼だった。





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