入学編3
能力は自然法則に従う―入学編
入学式を無事(?)終わらせた湊は、電子手帳に記された自分のクラスへと移動した。
学校設立当初は能力の違いによるクラス分け....要は、強い能力者と弱い能力者を分けるっと言ったクラス編成を行っていた。
だが、近年の世界情勢から平等なクラス分けを行い、能力者を均一に伸ばす手法が主流になった今では寧ろ能力によるクラス分けは皆無に等しい。
同時に、それはどんな能力者でも有事の際には戦場に送り出すっという国のメッセージでもあった。
「お!同じクラス!よろしくな湊」
「....あぁ、よろしく」
湊の心情を言葉で表せば『マジか』と言った所だろう。
まさか入学式早々に目を付けられた(?)滝澤 優と野村 凛子が同じクラスなのだから。
そんな湊の本心は声を掛けた少年、優には分かる筈もなく、人懐っこい笑みを浮かべながら隣の席に座った。
クラスの席は基本自由という高校のスタンスに若干苛立ちを覚えるが、優は基本的に良い奴だろうと頭で理解している湊は無下にするような事はしない。
ついでっとばかりに凛子も優の後ろの席に座られた為、諦める事にした。
「二人は隣同士じゃなくて良いのか?」
とは言え、少しは反撃しようと湊は、茶化す口調で口撃をしかけるが、直ぐに無駄だと悟った。
(仲が良いって言っても此処まで来ると凄いな)
そう感じた理由は、単純に二人が頭に疑問符が見える程、不思議そうな顔をしていたからだ。
「え?何で?」
「変か?」
どうやら、付き合いは相当長いんだろうなっと湊は考えながら、この二人には違う口撃手段が必要だと頭にインプットした。
「いや....仲が良いんだな」
降参とばかりに、苦笑いを浮かべたが、やはり不思議そうな二人。
「まぁ、そんな事よりさ。今日は授業も無いし、上級生の演武だけだろ?終わったらどっか行こーぜ」
「あ、賛成!確か昼前に終わるんだよね?あ、湊君も来るでしょ?」
やっぱりかっと内心思った湊。
学生なら大体が経験する必須イベントなのだが、こうも早く起こるとは思わなかった様子。
正直な所どっちでも良いのだが、今日は特にやる事も無い湊にとっては断りにくい。
それに、二人にはデートと言う概念が欠如しているのは見てわかった湊は尚更断る事が出来ない。
結果。
「今日は特に用事も無いから大丈夫だが」
断れなかった湊だった。
(まぁ既に、クラスは殆どグループが出来てるみたいだし....一匹狼を気取って浮くのは避けるべきだろう)
チラっと辺りを見回して悟った湊は、この二人とは暫く共に行動する事になりそうだと感じた。
――――――――――
能力者の学校とはいえ普通の授業は確かに存在する。
此処で言う、普通の授業とは一般的な5教科の勉強だ。
だが、やはり....と言うか当然と言うべきか此処は、能力優先なのだろうっと湊は広い講堂で感じていた。
講堂に集まった新入生と在学生の中には見るからに素行の悪そうな者もいる。
(まぁ臆病者は戦場ではそれだけで不利になるからな)
達観した様子でザッと見回しながら湊は考えた。
普通の人が見れば大した事ない青年であり、車椅子に乗っている体の不自由な人....と感じる湊だったが雰囲気は違った。
また、その雰囲気に気付いたのも湊自身と、隣に並ぶ同学年の女子だったのだが、敢えて気にしない事にしたようだ。
「では、これより新入生歓迎、能力演武を行います」
パッと檀上が明るくなると檀上に司会進行役と思われる女子生徒がマイクを片手に高らかと声を出す。
(あの生徒....何処かで)
自然と湊は警戒する様に視線が鋭くなった。
あの生徒は見た事ない筈だが、何処かで似た雰囲気を知っていると感じた湊。
「では、まず改めまして、司会進行役は生徒会副会長、京極沙綾が務めさせていただきます。
今年度、我が校に入学した皆さんは近年でも稀に見る優秀な成績者が多くいます。
そこで....と言う訳では無いのですが、少しサプライズを用意致しました、今から呼ばれた新入生は前へ。」
ザワザワと先程の静かさが嘘の様に騒がしくなった講堂で、別の意味で驚いている湊は眼を大きく見開いて檀上の女子生徒を見た。
確かに、彼に似ていたし、彼と似て美人ではあった。
彼特有の深海を想像させる様な髪色であった。