テロの脅威編 現実の世界2
この話には多少のグロ表現があります。
見やすいグロだと思いますが一応グロ注意です。
「君は強くない....確かにワールドエンドと言われるステージ8なだけはある。それに見合った力もだ」
「だが、それだけだ。俺には勝てない、気付いたのだろう?今まで俺は本気ではない」
グッと足に力を入れたルドルフを見て本能的に危険を察知した少年は過去最高の集中力を発揮して接近する。
頭の中では、先ほどの結果を分析しながら。
(さっきの剣を受け止めた事から....恐らく今後全ての攻撃は鎧でも受け止められない)
両者共に間合いに入った双方は同じタイミングで剣を振り受け止める。
先程と同じように金属音を奏でて確かな手ごたえを感じ取った少年は不気味な、何処か人外染みた目の前の男に焦りを感じた。
(だが、なんで俺の攻撃を受け止められる!?....俺の能力は全てを溶かす力があるのに)
奥歯を噛みしめながら高速で剣を振るうが、その全てをまるで、子供の相手をするかのように受け止め、流していくルドルフ。
その一挙を全て正確に分析しながら先の攻撃を分析していくが全く思いつかない少年は歯がゆさを感じながら最高速の蹴りを放つ。
だが、それすらも予想通りだとでも言いたげに、軌道上に土で出来た壁を作り上げる。
今迄は、受け止めたとしても瞬時に消滅させていた壁だったのだが、受け止めた瞬間に轟音を轟かせ、そして消滅せずに残された壁を確認した少年は思わず舌打ちをした。
「どうなってる」
ルドルフに問いかける訳でも無く思わずっといった様子で呟いた少年に容赦なく剣を突き立てていたルドルフは少年の真後ろ、
ほぼゼロ距離に鉄の槍を作りだして打ち込む。
考える暇も与えず、次々に攻撃を仕掛けるルドルフに形成不利と判断した少年は真後ろに炎の壁を作り出し、同時にルドルフの剣劇
を思い切り弾きながら真後ろの槍を吹き飛ばす。
ゼロ距離の攻撃であったが、それでも少年の反射速度は寧ろ今までよりも増していて、何とか弾くとすぐさまルドルフの剣による攻撃を回避する。
膠着状態ではあるが、それでも着実に少年は追い込まれていく。
この状況をイラついた様子で受け止める少年にもう一つの現実が訪れた。
(これは....母さんの能力!?)
有り得ない事が起きた少年はすぐさま飛びのきルドルフから距離を取ろうとするが、逃すまいと接近するルドルフ。
対する少年は既に集中力は完全に途切れかかっていた。
(この感覚は確かに母さんの....不死の力)
自身の中に入り込んできた異物に顔を歪めて理解した少年はルドルフが新たに呼び出した鉄球や、土の槍、水の槍と言った
全てを弾き、回避しながら内心では戸惑いを感じていた。
(これが発動したと言う事は、母さんは見ている。この状況を何処かで....そして俺はこの戦いに負ける。)
それは、戦争前に言われた事でもあり、それが更に、少年の集中力を途切れさせる事に拍車を掛ける。
結果、極限の集中状態によって誤魔化していた疲労が急激に自身に降り注ぎ、思考を鈍らせていく。
この人外通しの戦闘はあまりにも一瞬で、それでいて、あっけなく終わった。
集中を切らした少年の背後から突如衝撃と猛烈な痛みが襲い、一瞬足を止めた少年の右足に今度はそれを凌ぐ痛みと喪失感が襲い
バランスを崩した少年は何回転も転びながら自身の剣を手放してしまう、と同時に少年の「あああぁああ!」っと言う痛みによる叫び
と苦痛がこの戦場に木霊して、そこで初めてルドルフは攻撃を中断した。
「良くやった....が此処までだ。忌々しい事に君は死ねないのだろう?」
痛みで朦朧とした意識の中、ルドルフの声が少年に響いて来る。
その声は、内容に反して、何処か冷たく、何処までも見下した声色だ。
「ホントに困った物だよ。だが....そうだなこうしようか?」
空を切り裂く音が聞こえた。
それと同時に何かが宙を舞うのと、肉を切り裂く音、そして痛みが一瞬遅れて少年の意識に突き刺さる。
もう叫び声をあげる程の余裕も無く、痛みと猛烈な悔しさで頭の中はグチャグチャになっていた。
残っていた左足さえも切断され、地面に転がった自身の足だった物をルドルフによって消滅させられた。
奇しくも、消滅させたそれは、灼熱の炎だった。
意識が僅かに残る中、自然と涙が頬を伝い、初めて自身の扱う炎がとても怖い物だと思った少年。
その中でもほんの僅か、心の奥底で僅かに残された意思と憎悪を奮い立たせ、ルドルフを睨みつける少年。
涙と、泥で醜くなった顔でルドルフを睨んだ。
(必ず....必ず殺してやる。お前を必ず)
声も、出せず、只睨むしか事しか出来ない少年は僅かに「ぐっ!」や「うっ」っと言った嗚咽を発しながら確かにそう強く
ただ、強く目の前の男を睨んでいた。
「そう睨んだ所で何も変わらない」
「貴様程度の憎しみなど、俺は何度も見て来た」
「貴様は今、俺を恨んでいるみたいだが、それは貴様が殺した俺の部下、仲間、もしくは、その家族、恋人、両親が等しく
味わっている感情だ」
「自分だけが、特別だと感じているみたいだが、そうではない。貴様はこの世界では少し強いだけの、それも覚悟も、信念も、情熱も
己が戦う理由すら存在しない偽物だ」
「君の様な奴を見ていると吐き気がする」
「君の様な三流でしかない能力者が、一体何を勘違いした?」
「だが、これで安心した」
「両足を失った貴様は、騎士では無い」
「騎士では無い君はもう、只の一般人だ」
「能力者でありながら君は、非能力者よりも劣る存在になり下がるのだ」
――――――――――――
「どうしたの?湊君....なんかうなされてたけど?」
パッと意識が覚醒して慌てた様子で湊が凛子を見る。
それを心配そうに見つめる視線が三つ。
一人は声を掛けた凛子。
後の二人は、優と茜だった。
(あの感じは尋常じゃない)
そう茜は感じていた。
それは二人も同じだったが湊は平然と「大丈夫」と端的に告げた。
お昼休みが終わりに差し掛かった頃、疲れていたのか、湊は寝てしまった。
その様子を最初は珍しそうに眺めていた凛子と優だったが途中から汗や苦しそうな声を聞いて
起こした方が良いのでは?っと茜も交えて相談していた程であった。
「えーっと....まぁうん。大丈夫ならいいんだけど」
「だけど、すげー汗だったぜ?保健室行くか?」
「いや....心配は有り難いが、まぁよくある悪い夢だ。それよりも次の授業は歴史....だったか?」
あくまでも穏やかに湊が返事を返したので二人は戸惑いながらも安堵した。
だが、茜だけは何かを感じ取っていた為に心配そうに見つめていた。
「なら良いんだけどよ、次の授業は歴史だぜ?」
「うん。でも本当に気分が悪かったら無理しないようにね?って次の授業歴史なの!?」
今度は凛子が慌てる番であった。
「やっば!」と大慌てで次の授業の準備を始めると、先日の課題が載っているファイルを選んで開く。
この学校の授業は基本的にPCを使う。
一昔前では考えられない事だが、化学技術の発展に伴い、一種のアナログ授業は衰退している。
とはいえ、未だ、地方の学校では筆記用具とノートを使う所もあるが、国が力を入れているこの学校ではそんな物を
持ち歩いている生徒は殆ど存在しない。
「やばい。マジでヤバい!ちょっと優、一生のお願い!課題コピーさせて」
「その一生のお願い何回目だよ。つーか自業自得だろそれ」
「だって~!ねぇ?だめ?ちょっとだけ!少しだけでいいから!」
「ダメだ!甘やかすとキリがない」
『ぐぬぬ!』と効果音を出しそうな勢いで恨めしそうに睨む凛子は「こうなったら最終手段!」と言い、湊と茜を真剣に見つめると
バンっと机を叩きながら深々と頭を下げた。
土下座みたいだなと湊や、茜は若干引いていたのだが、凛子はそれに気付いていない様子で、鬼気迫る表情で顔をズイッと二人に
近付ける。
「茜ちゃん!湊君!お願いします!コピーさせて!」
「湊、コピーさせない方が良いぜ?何時もの事だからよ」
優は凛子を指さしながら呆れた口調で、どうやら本当に何時も課題を忘れているのだろうと思った湊は仕方なく肩を竦めながら
自身のPCから課題のファイルを開いてデータをコピーする準備をするが「あの?」と隣からオドオドした声が聞こえた。
それは、どうやら茜だったようで、茜は既にコピーが入ったUSB端末を凛子に差し出していた。
「あ、茜ちゃん!これって課題ファイル!?」
「え、えっとそう。さっきの休憩中に課題出来てないって言ってたから」
(よかった。一応用意しておいて)
ビクビクした様子の茜だったが、凛子には如何やら女神か何かに見えた様子で目をキラキラと輝かせながらガシッと両手で、茜の
手を握りしめる。凛子の心情を表すと『おぉ神よ!』と言ったところだろう。
「あーあのとき、確かに言ってたもんな....でも良く用意してたな」
「え、えっと、困ってたみたいだし....こんな物で良ければ」
「聞いた!?優、茜ちゃんチョーいい子!もう後で何でも奢る!」
ニコニコしながら茜にお辞儀する凛子に「う、うん今度は忘れないようにね」と茜は一応注意しておくが、優の発言を聞いていた
茜は、多分また忘れるだろうな~っと苦笑いを浮かべた。
どうやら、湊も同じことを考えた様子で首を小さく横に振っていた。