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ワールド・エンド・ホライズン  作者: キツネ
第一章
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第一章閉幕 番外編 可憐な女子高生の一幕

第一章閉幕 番外編 可憐な女子高生の一幕



珍しい。

そう感じた少女は手元の時計を確認して首を傾げた。


入学式から三日たった。


何時もなら、彼は待ち合わせ場所に来る時間なのに来ないのだ。


(遅いな~優)


彼氏である滝澤優を待つ少女、野村凛子は口元を尖らせて不貞腐れた様に足元の小石を蹴飛ばす。

時間ギリギリまで待っても来ないのは珍しい、特に、今日みたいに連絡も無くっと言う日は滅多にないのだ。


(家の用事かな?)


ふと、優の家庭内事情を想定して、そう結論づけた。

優の家は少々特殊ではあるから仕方ない。


そう割り切って、学校へと向かう事にした凛子。


久しぶりの一人での登校だった、凛子は気分を変えるべく鼻歌を歌いながら歩いて行く。

寂しい時に出る癖、髪の毛を弄る事も無意識で行いながらだ。


(そういえば....この銀髪嫌だったんだよね)


髪を弄りながら思わず苦笑いを浮かべた。

元々嫌いだった髪の色を一番最初に褒めてくれたのは優だったっけと考える凛子は自然と機嫌が良くなる。


時間ギリギリと言う事もあってか、同じ学生服を着た生徒は居ない。

それが、凛子の枷を外したのか、ご機嫌でスキップまで始めた。


いつもはこんな事はしないのだが、誰も見てないなら大丈夫と割り切った凛子。

だが、当然周囲の警戒(?)は行っていた凛子。

だからこそ....だろう。

ふと、路地裏を見た凛子は先程までと変わって真剣な表情で物陰に身を寄せて注視した。


(あれは....絡まれてる?)


凛子の視線の先には男性複数人、ザッと見た感じ4人に絡まれている同じ学校の女子生徒が居た。

女子生徒は既に囲まれていて逃げ場が無さそうであり、状況が最悪だと舌打ちする凛子。


(距離が遠い....これじゃ、銃を使っても無理)


もし万が一、此処で飛び出せば、と考えて首を横に振る凛子。


(だめ、下手に飛び出せば彼女に被害が出る....それに仮に能力者狩りなら私だって危ない)


あらゆる可能性を考えて救出が不可能だと考えた凛子。

もし、仮にこの場に優がいたなら可能だったかもしれないが、今は自分しかいない。


能力者狩りなら、私の手には負えない。

犯罪者の中でもトップクラスである組織であり、下手すれば殺される危険だってあるのだから。


(でも....)


苦虫を噛みしめた様に凛子は男性達を睨む。

今の所は、口論しているだけ....いや、女子生徒が精神力を極端に放出させて近寄らせない様にしているので膠着状態ではある。


だが、それも時間の無駄だろう。

徐々にではあるが、精神力の放出が弱まっている。


(警察に連絡しても....多分間に合わない)


連れ去らわれる可能性が高い現状、早めに手を打たなければっと思考している...と、何の因果か、神様の悪戯か、不意に横から視線を感じた凛子が慌てて振り返ると、つい最近知り合ったばかりの友達が不審者を見る様な目で眺めていた。


「何してるんだ?こんな所で」


車椅子に乗りながら絶妙なタイミングで現れた白馬の王子様(?)の様に凛子は見えた、神楽 湊が居て鬼気迫る勢いで手招きする。


「静かに、アレ見て....何とか出来る?」

「ん?....あーありゃヤバいな」


凛子の視線の先を見た湊が端的に感想を述べた。

その様子に若干苛立ちながら凛子は期待の籠った眼差しを向けていた。


「何を期待してるかしらないけど....普通は無理だからな?」

「でも...警察だって間に合わないし、私達しか今居ないんだよ?」


食って掛かる様に反論する凛子に大げさに肩を竦める湊。


「だから、普通は無理って言ったんだ。....まぁ見てて気分が良いとは言えないからな」


大げさにため息を吐きながら車椅子を路地へと向ける湊を茫然と凛子は眺めた。

助けて欲しいとは言ったが、普通に入っていく湊に若干茫然とした様子の凛子は直ぐに気を取り直す。

彼の後ろを追いかけながらどうしようと考えたが直ぐにそれが無駄だと判断した。

湊が能力を使った瞬間、男たちの身動きを取れなくする様に炎の牢獄が出来上がったのだ。


「え?何....これ」


茫然と眺める凛子と、一瞬何が起きたか理解できていない様子の男達。

最初に復活した男が、自身の能力で牢獄を破壊しようとするが、直ぐに無理だと理解して、叫び始める。

だが、そんな事は一切、気にも留めない湊はゆっくり女子生徒の方に近寄った。


(これが...ステージ4の実力って言うの!?)


凛子の頭の中は既にパニックだ。

あんな一瞬で、此処までの密度を作り出すなんて有り得ない。

そう凛子は考えたが、直ぐに気を取り戻した。


「大丈夫か?」

「え?えぇありがとう」


凛子が女子生徒に近寄ると見た事がある顔で、あ!っと声をだした。

「もしかして、七海茜さん?だよね。同じクラスの....怪我とか無い?」

「え?あー野村凛子さん...だよね?うん大丈夫」


入学式でも掛けていた紺色の眼鏡を直しながら答えた少女は男性に絡まれていたにも関わらず冷静な様子で凛子にお辞儀する。

相変わらず、騒いでいる男達を一瞬睨んだ凛子だったが、直ぐに湊と茜に向き直った。


「神楽君もありがとう。おかげで助かったよ」

「ん?あぁ礼なら凛子に言ってくれ、それよりもこいつらは?」

「分からない。なんかいきなり絡んできたから」


茜のお礼を受け流して湊が聞くと茜も男性を見ながら答えた。

それを聞いた湊は、男性達をジッと眺めながら何か考え込んだ様子で、それが凛子には何故か恐怖心を煽り、背筋に冷たい汗が流れた。


「そう言えば凛子、今日は一緒じゃないのか?」


一緒じゃないのか?と言う意味は恐らく優の事だろうと理解した凛子は肩を窄めて至って普通を装って否定した。


「いつも一緒って訳じゃ無いわよ。それよりコイツらどうすんの?」

「そうか....コイツらは警察に引き渡せば良いだろう。此処まで首を突っ込んだんだから後は俺が処理するから、二人は先に行っててくれ」

「え?でも神楽君だけだと、警察への説明どうするの?」

「アレがあるから大丈夫だろう」


アレと称した先には監視カメラが設置してあったのだ。

治安は悪くなったとはいえ、防犯は強化されている現代なら当然だった。

凛子も茜もカメラを確認すると納得した様に頷く。


「すまないが、凛子達は先に行って学校に説明しといてくれ、俺も後で行く」

「そうね....三人揃って遅刻はマズイか、茜ちゃん一緒にいこうか」

「うん。神楽君、本当にありがとう」


ペコっとお辞儀をした茜に軽く手を上げて返す湊を置いて、二人は路地を出て急ぎ足で学校へと向かった。


(それにしても....さっきの湊君変だったよね?)


不審感をもった凛子だったが、気にせず横を歩く茜へと笑顔を向ける。


「茜ちゃん今日は災難だったね~、ね!今日一緒にお昼どう?」

「え?あぁうん。野村さんが大丈夫なら」


「あーダメダメ!私の事は凛子で良いからさ」

人懐っこい笑みを浮かべた凛子に、ぎこちなく笑った茜は大きく頷く。

可憐な女子高生の、ドタバタな一日はまだ始まったばかりだった。

裏で一体何があったのかは知らぬまま。


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