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第9話   第1章-第9話

20160930公開

1-9


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

-48m23s  織田 深雪 viewpoint


 やっぱり、お兄ちゃんは凄いわ。

 テレビで特集された自衛隊の市街地戦闘訓練の映像とは状況は違うけど、少なくとも安心して先頭を任せられると思わせてくれるくらいに動きがキレキレや。

 我が兄ながら頼もしいの一言や。

 でも、うちのまわりはあかんわ。ビビり過ぎや。

 まあ、隣を歩いてる佳澄ちゃんが、物音がする度にビクっと反応するのはかまへん。お化け屋敷で隣を歩く付き合ってる自分の彼女がビクってするのを可愛がる感じや。当然経験無いけど。こんな場合やなかったら、手を繋いで上げたいくらいや。

 問題は大人たちや。お兄ちゃんに教わった通りにガバメントを地面に向けて歩いているのはええけど、顔色は悪いし、落ち着きなくキョロキョロと周りを見渡し過ぎや。見てるようで見てないのと一緒や。それじゃ却って変化を見逃すで。神経質そうにヘルメットの顎ヒモを何回も調整したり、顔の汗を拭おうとして何度もヘルメットに邪魔される人や、背嚢の位置を直そうともぞもぞとしている大人も()る。

 そんなに緊張してると却って動きが悪くなるで。軽い緊張くらいが丁度ええんやけど、命掛かってるからしゃあ無いんかもしれんけどなぁ・・・

 列の真ん中を歩いてる小さな子供たちも大人たちがビクビクしてるから怯えてるやないか。可哀想に。 


 元々、頼りになる戦力が少な過ぎる事くらい、分かってた事や。

 護衛対象が90人を超えるのに、護衛する人間が11人しか居ない段階で無事に済む筈が無いんや。

 だから、覚悟が出来てたんやろう、5匹の『害獣アロ』の気配に気付いてしばらくしてから姿が見えた時は、意外と冷静やった。

 問題はその前を現地の女の人2人が横に並んで逃げて来ていた事やった。


「撃てないぞ!」

「なんでや?」

「やばい!」


 グランドを出発する前にお兄ちゃんが言っていた『フレンドリーファイヤー防止』の事は、みんなの頭から抜けていたみたいや。

 一番近い位置に居た《即自》の岡さんが射線を確保しようと右に動いたんで、気が付けば、うちは反対側の左に行こうと勝手に身体が動いてた。 

 左端の『害獣アロ』がこちらを見た。真正面に向いている小さな2つの目玉にはなんの感情も見えん。まるで魚の目の様や。

 うちの右手人差し指は反射的に引金を引いていた。

 わざと薙ぎ払う様に身体を捻りながら右側に向けて89式を振る。

 一瞬だけフレンドリーファイヤー防止の為に発砲が停まるが、すぐに反動が右肩を打つ。

 3匹の『害獣アロ』が5.56㎜弾を受けて黒い血を後方にまき散らして勢いを落としたけど、2匹が無傷やった。岡さんも、うちと同じ様に64式小銃を右から左に薙ぎ払った。うん、ナイスフォロー。

 でも、偶々現地人の2人がうちらの射線を遮る位置関係に居たせいで2匹が無傷だった。1匹が右側の女の人の左の太ももの裏に齧かじり付いた。

 絶望に満ちた絶叫が通りに響いた。後ろに居るみんなが悲鳴を上げたのが聞こえた。このままやったら、パニックになる・・・ そう思った時にはとっさに叫んでいた。


「怖かったら、拳銃を撃ってや! 当たったら、ちゃんと殺せる!」


 生き残ったうちのもう1匹の『害獣アロ』は狙いをこちらに向けたのか、女性たちに見向きもせずにこちらに向かって来たけど、この段階で何人かのガバメントが火を噴いた。うちは倒れた女性に更に噛み付こうとしている『害獣アロ』に照準を定めた瞬間に発砲した。1発目と2発目で致命的なダメージを与えたんか、3発目が当たる前には身体から力が抜けてて、当たった瞬間には後方に飛ばされた。

 うずくまって動かん無事な方の女の人を無視して、視線を左に移すと、こちらに向かっていた『害獣アロ』が、ガバメントの弾が着弾する度に衝撃で身体を震わせて血をまき散らしてた。これもすぐに力尽きて倒れた。ふっと息を吐いた時に気配を感じると同時にいきなり後ろから悲鳴が上がった。

 慌てて振り返ると2匹の『害獣アロ』が建物の中から飛び出して、隊列の反対側に飛び込んだところやった。あかん! 1匹が三宅さんの喉に噛み付いてる。喉元が真っ赤に染まってる。もう1匹はすぐ横で最後に加わった宗教の人たちの女性の左腕を噛み千切ってた。

 みんなが惨劇の現場から遠ざかろうとして混乱してる。いや、パニックになってる。最初の被害者の女性を助ける事を後回しにして、三宅さんの所に行こうとしたけど、逃げるみんなに邪魔されてしまった。バランスを建て直して、ダッシュする前に発砲音が2発鳴り響いた。

 松永さんが続けさまにウィンチェスターライフルで『害獣アロ』の頭部を撃ち抜いていた・・・・・


 三宅さんは気道を喰い破られていた。呼吸をしようにも傷口が大き過ぎて、うちが両手で覆った隙間からヒューヒューという音が漏れてる。

 ピコマシンの修復も行われている様やけど、間に合わないのか、泡混じりの吐血が止まらんかった。

 あかん、あかんて、逝ったらあかん。明来あきちゃんが悲しむやんか? もう一度会いた無いんか? あ、もう会えんのや。でも、でも、それでも逝ったらあかん・・・


 本人も最後が近付いている事が分かっているのか、気丈にも後を任せたとでも云う様にみんなに目を合わせて頷いた。

 三宅部門長は間もなくして死んだ・・・・・

 最後の最後に、うちに感謝するかのように2度ほどうちが傷口を抑えてる両手をタップしてから力が抜けた。

 店でのいつものエプロン姿に戻った事で、本当に死んだんだと思い知らされた。

 うちよりも付き合いの深い男の店員のみんなが泣くのを我慢しているけど、全員の目が真っ赤だった。

 店の女性スタッフ陣は泣いていた。アヤッチも泣いていた。

 もう1人の犠牲者の女性も、最初に足を噛まれた現地の女性も直後に亡くなった。失血死かショック死だろうと富田さんが言ってた。

 1度に3人もの死者を見たせいで、みんなの気力が底を尽いた事を実感したけど、さすがにどうすればいいのか分からん。それでも考えたけど、答えなんて出えへん。自分は無力だと落ち込んでいる時にお兄ちゃんがやって来た。そう言えばさっきまで隊列の前の方で発砲音が続いていた気もする。

 お兄ちゃんは3人の遺体に両手を合わせた後、みんなに聞こえる様に提案をした。

 その表情は、うちも初めて見る表情やった。

 無表情と言う名の表情や・・・


「全員を弔いたいですが、時間が無い。そちらの女性はせめて屋根のあるところに連れて行って上げましょう。いいですね?」


 最後の言葉は、生き残った女性に向けた言葉やった。そのひとは一度亡骸を見た後で頷いた。頷いたまま顔を上げる事はなかった・・・

 お兄ちゃんの言葉と女の人の動作でみんなが動き出した。

 うちは、佳澄ちゃんが生活魔法ファイノムの「給水」でうちの両手を洗い流してくれてるのをぼんやりと見てた。なかなか爪の間に入った血は取れへんみたいで、佳澄ちゃんがむきになってわざわざ自分の歯ブラシを取り出したところで止めさせた。


「佳澄ちゃん、ありがとう。助かったわ。でもこれ以上きれいにせんでええよ。三宅さんの血やから汚い訳や無いし、それに・・・・・」


 言葉が詰まった。

 続けて言おうとしていた言葉は、「それに、一緒に連れて行くみたいな気がするんや」だった。


 ごめん、三宅さん。うちがもっと上手く戦えていたら、死なんで済んだかもしれんな。

 ごめん・・・・・ ごめんやで・・・・・



 名も知らない現地の女性の遺体は、住人が居なくなった通りに面した住居のベッドに安置された。

 三宅さんと信者の女性の遺体は、その家のカーテンで包んだ上で、信者の人たちが運ぶことになった。



 うちは即応予備自衛官のみんなと一緒に外縁部のポジションに就いた。

 戦力は使ってナンボやからな。

 もちろん志願してのことや。

 お兄ちゃんは一瞬、複雑な顔をした後で、うちの頭を撫でて『すまんな』と言った・・・・・

 すまんことないで、お兄ちゃん。

 これはうちのケジメや・・・




お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m



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