第61話 第4章-第6話
20170704公開
4-6
俺たちがニューランドに到着したのは午前10時過ぎだった。
いつもならニューランド市街地への入街手続きは、南門を3つのパーテーションで区切って、3つの窓口で手続きが行われている。
偶に大教士などのプラント教団の高位者の公式な訪問などで、その内の1つを一時的に独占使用するが、今回の訪問も、根本様が事前に根回ししてくれていたのでそれに準じた扱いだった。
あっという間に手続きは済んだ。手続き自体は時間にして10秒も掛かっていない。
もっとも、それまでが大変だった。原因は『益獣』に騎乗した深雪たち5人だ。
俺自身が当事者と言う事も有り、『プラント様が遣わした援徒』という存在の知名度と人気を甘く見ていた。
目立たない様に教団の馬車を使わずに衛兵隊の物を使ったのに、3台の馬車を守る様に囲んで進む『益獣』に騎乗し、独特の装備品に身を包んだ5人は、一目で『プラント様が遣わした援徒』と分かる。
しかも全員が年若い女性だ。目立たない訳が無い。
俺たちの隊列に気付いた1人が膝をついた途端に、2列に減らされたせいで出来た行列に並んでいた一般人が一斉にその場で膝をついた。中には祈りを捧げている人も居た。
下手に囲まれて立ち往生するよりも良いのかも知れないが、精神的に何かを削られる気がした。
「人気が有る事は良い事だよ、店長」
わざわざ南門前広場で出迎えてくれた根本様とニューランド主席行政官のセルヒオ・ナバーロ氏に再会の挨拶を交わした後で、先程見た光景の愚痴をこぼすと根本様に笑顔で返された。
「人類の歴史上、300を超える『災獣』に街を囲まれた事が無かったですからね。我々の絶望感はあの時に居合わせた人間の心に深く刻まれています。それをあっという間に一掃した『プラント様が遣わした援徒』様に対する感謝は当然です」
「そうそう、こっちではその時の街の中の様子を描いた劇も有る位だぞ。俺も観たが、ありゃあ名作だな。最後、街が解放されるシーンなぞ、思わず鳥肌が立つほどだぞ。店長も時間が有れば観た方が良い」
「その気になれば観てみる事にしますよ。まあ、周囲の観客にばれて取り囲まれる未来が見える気もしますが」
すぐにでも話し合いたい話題に触れず、俺たちは再び乗り込んだ馬車の中で会話を続けた。3人の教士も挨拶を済ませた後は、笑顔を浮かべて俺たちの会話を聞いているだけだ。
窓の外を見れば、きっとさっきと同じ様な光景が見える気がするので、敢えて目を向けない。
「そういえば、来月からさっきの劇の第2弾が開演する筈ですよ。『プラント様が遣わした援徒』様が如何にしてファーストランドを解放し、更にはニューランドもどの様に解放したのかを主題とした内容になると噂されています」
ナバーロ氏の言葉を聞いた俺の顔が余程面白かったのだろう。
根本様と富田様が噴き出した。
「いや、まあ、当事者の店長が嫌がるのも分かる気がするけど、そこまで嫌がらなくていいじゃないか?」
「お二人とも偶像崇拝の当事者になれば、自分の気持ちが理解出来ますよ。でも、詳しい事は伝わってない筈ですよね? 下手したら、だれ、その超人? なんてとんでも劇になりかねませんか?」
「オダ殿、表立っては言えませんが、その話には教団も絡んでいます。詳しい部分はぼかしていますが情報提供をしています」
「え、本当ですかクレスポ1等教士? 政治の世界ですね」
「まあ、教団も『プラント様が遣わした援徒』を持ち上げる事で利益を得るからな」
「大人の世界は汚いですね」
とは言え、俺も結構根回しと言うか茶番と言うか、そう言う事もしたので純真とも言えない。
要するに俺も汚れた大人の一員という事だ。途中から根本様と富田様にその辺りを丸投げしたからこそ、自由に動けた部分も有る。
あまり被害者面をするのも不公平だろう。
イーストランドに向かっていた渋谷一也様からイーストランド到着の連絡が根本様に入ったのは、ニューランド人民議会議事堂に着いて、会議室に移動する途中だった。
イーストランドはニューランドからの移植者が多く、影響も大きく受けている。
普通ならもっと早くニューランドに一報が入る筈だったのだが、事が想像外の出来事だった為にイーストランド行政府も情報の確認に時間を取られてしまったせいで1週間も掛かったそうだった。
渋谷様と一緒にイーストランドに派遣されたニューランド行政府の職員からの報告も渋谷様経由で行われた。
この方法の利点は、双方向に瞬時に行える情報の伝達だ。
おかげで大体の状況が掴めた。
まず、漂着した帆船に乗っていた者で生き残っているのは79名。本来の乗員数は不明。
知的生命体の身体的特徴は、身長1㍍70㌢ほどと日本人の平均身長と変らない。
完全な2足歩行で、手足は左右1対ずつ。尻尾は40㌢ほどの長さ。体形はややずんぐりとしている。
顔は『害獣』と『害獣』を足して3で割った感じらしい。要するに独自の顔つきと言う事だ。目はやはり左右2対の計4つ。
毛髪は人間の様に退化したのか、頭部と背中、尻尾に分布。
服装は重ね着をしている事と上下で分かれている事くらいしか分からない。
食性は雑食の様で、難破船を発見した村が行った食料の炊き出しでは、野菜と貝類、『益獣』の肉を食べたらしい。
雌雄の区別は現状では分からず。これに関しては多分だが、雌、すなわち女性は居ないと思う。いや、もしかすれば隠している可能性も有るが、超長距離を航海するのに閉鎖空間の船に女性を乗せるのはトラブルの基だからだ。
「渋谷さん、食べた中に牛や豚、鶏などの地球産の動物は含まれていないんだね?」
『はい、それに関しては何度も確認しました』
「今後も出さないない様に徹底して貰う様にイーストランド政府に伝えて欲しい」
『分かりました。それで、これから漂着した現場に向かう船を1隻用意してくれるそうです。ニューランドの担当者と共に向かいます。到着は明日の朝の予定です』
「ふむ、くれぐれも気を付けて欲しい」
『では、何か分かればまた連絡します』
「ああ、頼んだよ」
やっと、一歩前進したが、これからの事を思うと、千里の道の最初の一歩を踏み出したくらいだろう。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m
お知らせ1
この作品は第6章までの構想で、プロットと最終のシーンのイメージは作っています。
ただ、どうもモチベーションの維持に苦労しています。
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お知らせ2
mrtkの悪い癖が再発です。
モチベーションが下がると新規連載に手を出してしまいますが、今回もやってしまいます(><)
思いっ切り「異世界召喚モノ」ですが、本人の性格が反映される為に変化球です。
ただし、こちらの作品への影響を減らす為に1話1,000文字程度で1時間から2時間で書けるくらいに抑えます。
こちらは時間が掛かるので休日に書くとして、これまで通りに週に1話か2話更新を目途とする予定です。
引き続き、ご愛顧のほどを(^^)/




