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第57話  第4章-第2話

20170617公開

4-2



「店長、どうやら、イーストランドから3㌔ほど南下した所に在る浜辺に、我々人類とは違う知的生命体が漂着したらしい。乗っていた帆船のマストが折れていた様だから難破だな。7日前の事で、漁民が発見して救助をしたらしいが、意思の疎通が出来ない様だ。ニューランド政府もつい先ほど連絡を受けて、根本さんに伝えて来たらしい。根本さんと一緒にニューランド訪問中の渋谷君をイーストランドに派遣して、情報収集をして貰うとの事だ。儂もニューランドに向かう事にする」

「分かりました。自分も同行します。護衛には深雪の班を付けましょう。今では1番戦力が整っていますから、道中の安全は保証出来ますよ。まあ、今日から休みでこっちに帰って来ているのですぐに動かせるのが深雪たちというのが本当の理由ですけどね」


 ベルト帯の安全確保はニューランドの衛兵が受け持っていて、今ではかなり安全になったが、それでも『害獣アロ』と『害獣ラプトル』の群れや、偶に『災獣レックス』が現れる。

 教団側からも情報収集で人が出るだろうし、万が一を考えて護衛は必要だ。

 富田様にはああ言ったが、深雪の班は元からのメンバーを除く4人はまだ訓練の途中だ。

 今回の護衛も訓練の一環として考えれば意味は有るか・・・

 

「深雪ちゃんたちなら確かに安心だな。儂はエイトール行政主任執行官に話を通して来る。店長は護衛の手配を頼む」

「了解です」


 段取りも決まったので、シフト調整の為に川島三曹と小沢士長に連絡を入れる事にする。

 だが、その前に、念の為に確認をしなくてはいけない。


「プラント、漂着した知的生命体に関して何か掴んでいないか?」

『個体名織田信之の質問を確認。回答拒否』


 やはりというか、宇宙船プラントはここでも情報提供を拒んできた。

 静止衛星軌道上に鎮座する宇宙船プラントが知らない筈がない。

 この星で発生した文明を監視して来た筈だからな。


 俺から連絡を受けた2人は共に驚いていた。俺たちがコピペ召喚された「はじまりの日」に聞かされた宇宙船プラントの説明では、この星の知的生命体の文化圏から十分に離れる為に、わざわざ大海原おおうなばらに浮かぶこの島を植民地とした筈だったからだ。最低でも8000㌔から9000㌔は離れていた筈だ。

 だが、第一陣の植民団がこの島に降りてから300年近くが経っている。

 それだけの時間が有れば、1人乗りのカヌーの様な手漕ぎの船も巨大な帆船に進化してもおかしくない。

 おかしくは無いが、心配をせざる得ない。


 地球の大航海時代に南アメリカで起こった悲劇がここでも繰り返されなければ良いのだが・・・・・




『マジ? 今日と明日は佳澄ちゃんとゆっくり出来ると思ってたのに・・・』


 深雪の声はテンションが落ち込んでいた。

 「ort」という言葉が脳裏をかすめた。


「すまんな。準備が出来次第出発するから深雪たちの班に頼むしかないんだ」

『まあ、しゃーないな。貸しやで』

「ちゃんと埋め合わせはする」

『ちょっと待ってや・・・ うん、みんなのOK取ったで。それでどこにいつ行けばいい、お兄ちゃん?』

「多分、教団側の準備は1時間半か2時間は掛かるだろうから、1時半にグランドで待ち合わせにしよう。何か有ったら連絡する」

『うん、分かった。まあ、昼飯を食べる時間くらいは有るだけマシか。ほんじゃ!』


 深雪の方の手配が終わったので、次は衛兵隊本部に行って、情報を伝えて馬車の手配だな。

 『大獣災』後にファーストランドとの連携を密にする為に衛兵隊には馬車が5台追加配備されていた。

 全滅した遠征隊が使っていた馬車が発見出来なかったから本当はもっと多く欲しい所だったが、民間の需要も高まっていた為にそれだけの数を確保するのが精一杯だった。

 まあ、今回は3台も有れば足りるので問題無いだろう。

 衛兵隊本部での手配を終えた俺は、本部の食堂で昼食を摂る事にした。

 カルロス准尉が同席だ。


「しかし、何千キロも船に乗るなんて想像もつかんな。俺だったら御免だ」

「まあ、俺も御免だな。地球では大航海時代という時代が有ったが、その時は1ヶ月か2ヶ月は船に乗っていたそうだ。パンにも虫が湧く様な環境だったと記憶している」


 カルロスが口に入れようとしていたパンを慌てて見詰めた。

 当然だが、虫が湧いている筈も無い。

 それでも恐る恐るという雰囲気でパンを口にした。


「ますます御免だな」

「栄養も偏るから病気にも罹り易くなるし、下手すれば食料が尽きてしまった事も有ったみたいだ。その際には靴なんかの革製品を煮て食べたらしいぞ」


 カルロスの顔が梅干を食べた時の様なものになった。


「絶対に嫌だな。そんな誘いが来ても絶対に断るぞ」

「だが、そんな苦労をしてでも海に乗り出すだけの利益が有ったという事さ。問題は漂着した知的生命体が友好的か敵対的かだが、情報が少ないので判断が付かん。さっき言った地球の大航海時代では、虐殺や略奪も有ったみたいだ。そう言えば病気も広がったという記憶が有るな」

「何も良い事が無かった様に聞こえるぞ。追い返した方が問題が起きないんじゃないか?」

「その辺りの判断は情報を取ってからだな。友好的なら、交易が可能になるかも知れん」


 情報が必要だ。

 大航海時代の時の様な悲劇を繰り返さない為には、情報が重要になる。

 その為に俺も行く事にしたのだ。

 深雪が一緒に行く事になったのは幸運だった。

 松永君の葬儀の後に教えて貰った深雪の特技はきっと役に立つ。

 例え言葉が通じなくても、深雪に観察して貰えば、その色の変化や違いを知るだけでも貴重な情報になるだろう。

 



お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m



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