第6話 第1章-第6話
20160922公開
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「うわ、何これ!?! マジ?」
突如、信じられない、という感情がこもった声がみんなが居る辺りから上がった。
あの声は、惣菜・ベーカリー部門担当の松浦宇宙君だな。
彼も結構なオタクだった。
声が上がった方を見たら松浦君がキョロキョロとしていた。そして俺と川島君を見付けると、転がり込む様に走って来た。
俺たちの前まで来ると息を整えるためか下を向いて大きく肩を上下させた。身体能力自体は上がっている筈だから、彼の気持ちの問題だろう。
彼はどちらかと言えば背が低い。多分165㌢くらいだろう。俺が183㌢有るから、この状況では後頭部どころか首筋まで見える。
やっと、息が整ったのか、俺を見上げた。
ん、目が異常に煌めいているんだが? 顔も上気して赤い。
「店長って、特戦群に居たんですか?」
直球過ぎるだろ?
「さっきの射撃も異常に速かったですし、狙いも正確だったし、何より撃ち慣れしてましたよね?」
「いや、だからって、どうして特戦群って話に結び付くんだ?」
「アプリ見たら分かりますよ! 僕にはほとんどのアプリはインストール不可でしょうけど、あのラインアップって、ネットで特戦群が導入してるかも? って言われている装備ばっかじゃないですか!」
彼は『鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス』派と思っていたが、意外と『鳴かせてみせよう』派なのかもしれない。
そのタイミングで、もう2人、こっちに走って来た。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、もしかして特戦群に居た?」
先に辿り着いた深雪が松浦君以上にキラキラとした目で俺に訊いて来た。
ミユキ、オマエモカ・・・・・
そう言えば、この姿になった時に妙に嬉しそうな顔をしていた。
おまえ、軍オタだったんだな・・・ 誰の影響かを聞くのが怖い・・・
「どうりで、自衛隊に居た頃の話をしたがらなかったんだ・・・ ね、ね、特戦群に居たんでしょ?」
その頃に最後の1人が辿り着いた。
深雪と一緒に居た少女だった。
「ミユキお姉ちゃん、ひどい! かすみを置いていきなり走り出すなんて!」
「あ、ごめんごめん。でも、聞いて! お兄ちゃんがすごーく強いって分かったの! なんたって、あの、特戦群よ! 陸自唯一の特殊部隊で最強の部隊よ! よし、これで勝てる!」
いや、その、根拠も無く楽勝ムードに浸るのは止めてもらえる、深雪?
確かに訓練は、『常識? それ、食べれるの?』 と云うくらい常軌を逸していたし、きつかったが、決して超人になれる訳では無い。まあ、世界的に見てもそれなりに精強だと思うが・・・
それよりも紹介くらいしてくれてもバチは当たらないと思うぞ。
「深雪、その子を紹介して欲しいんだが?」
「あ、そうそう、河合佳澄ちゃん、ピチピチの小学5年生だよ。で、こっちのでかいのが信之お兄ちゃん。さっきも言ったけど、メチャクチャ強いんだよ!」
その自信を少し俺にも分けて欲しいくらいだ。
それに小学5年生を表現するのにピチピチって、オヤジじゃないんだから止めろ。
もっとも、ピチピチと聞いてまな板の上で暴れる鯛を連想してしまった俺はもしかしてなんらかの職業病なのかもしれない。
「しかし、最近の若い子たちって、凄いですね。自分も店長の射撃の腕を見て、ひょっとしたらって思いましたが、知識だけだったら負けそうです」
周囲を警戒しながら川島君が感心したように呟いた。
ちなみに彼は未だ30歳になったばかりだ。
「川島三曹にもばれてたか・・・ まあ、よく考えたら、こっちの世界では防秘は関係無いか・・・」
事実上、特殊作戦群に在籍していた事を認める発言だった。
俺は自分で言うのも何だが、かなり素質が有ったと思う。
だから、海外の製品を部隊に装備するかどうかを試す試験には常に引っ張り出されたし、おかげで試験導入したほぼ全ての銃などを最初に試射していた。
群長にも目を掛けて貰っていたが、両親を事故で亡くした上におばあちゃんまで倒れた時に退職を願い出た。店の事もそうだが唯一残った家族の深雪の事が心配だったからだ。
Sの隊員は個人情報の隠蔽もそうだが、身辺調査も厳しい。当然だ、個人情報が漏洩すれば本人は勿論家族もテロの標的になる可能性も有るし、下手すれば他国からの浸透に繋がるからだ。常にチェックされていると思った方が良い。
だから、群長も俺の実家の状況を掴んでいた筈だ。
最後は、『本当に惜しい・・・ だが、娑婆に行っても、精神だけは我が群に居ると思う様に』と言って送り出してくれた。
俺の我儘を許してくれた恩返しの意味も含めて、俺たちの店が即応予備自衛官を積極的に採用した由縁だった。
「さあて、そろそろ全員のアクティベイトとアプリのダウンロードが終わった頃だな。川島三曹、引き続き警戒を頼む」
「了解です」
みんなの所に戻ったら、あらかたの人間がダウンロードを終えた様だった。自分の手の中に有るガバメントを恐る恐る触っていた。
「あ、深雪、遅い! ねえ、何を選んだらええの? てか、深雪はなに選んだん?」
「ごめんごめん。私はもちろん89式5.56㎜小銃を選ぶで。もちろん〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉も装備するから、恰好だけやったら女性自衛官そのものや」
オイ、チョットマテ! ナンデ、ソコデハチキュウノナガデテクル?
俺の視線に気付いたのか、俺が訊く前に深雪が視線をこっちに向けた。
「だって、今年の春の信太山駐屯地祭で89式触ったんやで。だから資格有りって事や。アヤッちも一緒に行ったから、アヤッちも選べるで」
そして、何故かドヤ顔でピースサインをされた。
「あ、だから89式小銃のアイコンが暗くなかったんや・・・ だったら、ここは一択で」
一緒に戻って来ていた松浦君の嬉しそうな声が聞こえた。
そちらの方に目を向けると、いきなり現れたハチキュウを掴み損ねて地面に落としている松浦君の姿が在った。
慌てて拾った彼は、点検もそこそこに銃床を肩に付けて射撃姿勢を取ったりしていた。
「松浦君、先に手入れをして欲しいだが? 万が一部品のかみ合わせがおかしくなっていたり銃口や内部に泥が入っていたら暴発するかも知れないぞ」
「でも、どうすればいいんですか?」
「貸してごらん」
俺は受け取ったハチキュウを分解して行く。異物が入っていたり歪みが出ていない事を確認するとバラした部品を組立てていく。
この作業はSに居た頃に暗闇でも短時間で出来る様に徹底して反復練習していたのであっという間に組み立て終わった。
「問題無いだろう。やり方は時間が有れば教える。まあ、それほど難しく無いからすぐに覚えるさ」
松浦君の目が輝いていた。
「やっぱりプロは違いますね」
「くそ、勝ち組がここに居る」
心から口惜しそうな声がしたので、そちらを見ると松永君がこちらを見ていた。
「いいなあ・・・ 僕も駐屯地祭に行っておけば良かった」
「まあ、こればっかりは半分、運みたいなモノだからな。それよりも、松永君に頼みが有る。出来ればみんなのお手本になれる様にガバメントとウィンチェスターライフルの習熟に当たって欲しいのだが?」
ある意味、大人の狡さだった。
彼もハチキュウを装備したがるくらいにはミリタリーへの興味は有るのだろう。
装備出来ない事をいつまでも引きずらせるよりは、新しい役目を与える方が立ち直りも早いし、将来的には武装面でのみんなの世話を任せても良い。
結構、俺は彼を買っているから(Web小説を教えてもらったしな)、今後は何かしらの責任有る役目を与えて成長を期待している面も有った。
「店長がそう言うなら頑張ります。でも、せめて〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉だけでも装備するか・・・」
「もしかして〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉って、全員が装備出来るのか?」
「多分出来るんやないかな。佳澄ちゃん、どう?」
「・・・・・できるみたい」
「なら、装備しとき。さっきコンパニオンのネエチャンに訊いたら元々着ていた服は責任を持って保管してくれるって言ってたし、動き易さは保証するで」
コンパニオンのネエチャンって・・・・・ 我が妹ながら、オヤジ臭過ぎる・・・
第一、宗教が発生する程にエライ存在なんだが(俺たちからすれば諸悪の根源だが)・・・
いい母親になると思っていたが、心配になって来た。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m