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第56話  第4章-第1話

20170613公開


【20170616一部手直しと被召喚者の現状の描写を追記】

4-1


 

 宇宙船プラントは人類をヘキサランドという『揺りかご』から出さない気だ・・・


 俺は目の前で行われている作業を眺めながら、以前からの推測を確信に変えた。


 赤い炎を上げる薪の火力で鉄の棒を熱したところで、鉄は黄色っぽく見えるまで加熱されない。

 確か薪の火力で得られる温度は600℃から700℃程度で、鉄が加熱されて黄色みを帯びるのは1000℃くらいの筈だ。

 この惑星に生えている樹木から作られた薪が特別に火力が高いとしても、『何か』が介在していない限り炎の色と温度の関係は地球と変らない筈だ。

 勿論、その『何か』とは宇宙船プラントが管理下に置いているピコマシン群という事になる。


「店長、はやり、店長や松浦君の推測どおりだったな」

「ええ。推測が当たっても嬉しくはないですが」


 富田様の言葉に、俺は頷きながら答えたが、2人の会話とは無関係に剣の鍛造作業は進んだ。

 昔見た日本刀の製作工程を追ったドキュメンタリーでは、暗くした鍛冶場で焼き入れを行う程に温度管理は厳密だったが、ここではその辺りはいい加減だった。

 ピコマシンが最適な温度になる様にコントロールをしているからだろう。

 これでは人類の知識が間違った形で定着してしまう。

 きっと、大航海時代の様に広い海原を越えて、このヘキサランド以外に人類が版図を広げようとしても、科学知識が歪む様に誘導されている人類は足枷に捉われて一定以上の進出は出来ないだろう。最悪は撤退になる。

 産業革命は勿論、大規模な製鉄など夢の話だ。どこかで宇宙船プラントに介入されてしまうだろう。やり方は色々と有る。御神託を使うも良し、ピコマシンを使って技術の発展を妨害するも良しだ。

 それ以前に、この島以外でのファイノムの使用を止められれば、火力をファイノムに頼っている人類はお手上げだ。

 俺たちがどれだけ干渉出来るかは不明だが・・・


 視察させてくれた鍛冶場の主にお礼を言って、プラント教団の本部施設に戻る帰路での会話の半分以上は、この惑星の人類がいかに歪な文明を築いて来たかの確認作業の様なものだった。

 その辺りの事を宇宙船プラントに質問しても、答えはいつも同じだ。


『個体名織田信之の質問を確認。回答拒否』


 質問の方向性を変えても同じだった。最終的に浮かび上が来たのは、人類の科学文明を一定以上には発展させないという宇宙船プラントの方針だった。

 もっとも、宇宙船プラントがその方針を取っている理由は松浦君がつい最近になって解明してくれていた。

 分かれば簡単な事だった。

 この惑星に人類を送り込む事になった『人類変革計画』にその要因が潜んでいた。

 松浦君が掴んだ突破口は、人類の星間移民というか異星開拓という、言わば片道切符の旅に参加した人間が全て或る新興宗教の教徒だったという事実だった。

 その新興宗教の教義は、一言で言えば『人類は自然に還るべきだ』というものだった。

 まあ、余りにも文明が発展し過ぎると反動としてその様な考えが出て来るのも理解は出来る。

 俺たちの時代にも、方向性は違うと思うがヌーディストやベジタリアンが居た。行き過ぎた文明に対する抵抗と考えれば、理解は可能だ。

 ただ、自然に還ると言っても、その頃には地球は開発され尽くしていて、原初の自然など何処にも残されていなかった。

 その様な状況で持ち上がった『人類変革計画』は、表面上は人類の新たな可能性への挑戦と人類拡散計画となりながらも、実質は宗教の儀式となった。

 まあ、そうでなければ、成功の可能性が宇宙的規模に低い星間移民などに誰も参加しない。

 計画に参加した人間全てが新興宗教の教徒という事で様々な歪みが生じていた。

 特に顕著だったのが、移民参加者の高度な医療行為拒絶だった。

 ピコマシンの前身のナノマシンによる医療や、クローンによる欠損部位の移植、副作用の無い腫瘍根絶投薬などの高度な医療を全て拒否したのだ。

 輸血さえも拒否していた程だ。

 おかげで、宇宙船プラントの技術がいくら進んでいようとも、ヘキサランドにおける医療行為は解体新書レベルの知識まで後退していた。

 もっとも、その教徒たちも頂点に達していた遺伝子操作のおかげで、21世紀の元の俺たちとは比較ならない程に病気になり難い身体と長寿を得ていたのだが・・・



 教団本部への帰路の途中からは、会話の流れは今後の俺たちの方針についてだった。

 『大獣災』による爪痕は各都市や各町に残されたが、復興の段階は終わっている。今は富田様や根本様も策定に協力した『防災』計画を実行に移している最中だ。

 ファーストランドで言えば、2人の幼い兄妹を残して全滅した開拓村に新たな駐屯地を造営した。

 25㍍四方と小さいが、防壁は高さ8㍍にして、ファーストランドの防壁よりも強度を上げているので前線の砦としては十分に使える。

 防壁を破られたドセの町も同じクラスの防壁を新たに増築したので、これでデメティール地帯北方の守りはかなり固まったと言える。

 実際に、これまでに4度現れた『大型災獣マウス』の撃退に成功している。


 俺たちも身の振り方を考えた上でそれぞれの進路を選んだ。

 俺を含めた自衛隊部門7人は、引き続きこちらの世界の衛兵の補佐をしている。

 ただし、現在は防衛任務に志願した深雪たち16人を含めた23人を3つの班に分けて、任務・訓練・休暇のローテーションを回している。

 俺たちのスーパーの店員は、田中副店長おやっさんと彩君の母親を除いて全員が防衛任務に就いている。戦闘訓練を受けていなくてもこちらの人類に比べて、身体的にもピコマシン容量や処理能力的にもチートなので、貴重な戦力になっていた。お客様も8人が志願して来た。

 おやっさんと彩君の母親は年齢や適性を考えて、残り少なくなってきたスーパーの商品の管理と、プラント教団から無償で提供される生活物資の配給を行う『お店』の運営に回って貰った。

 

 お客様も1人を除いて、大人は育児や教育班に就いたり、自身の知識や技術を基に教団内部でオブザーバーとしての仕事を得ていた。

 そして、一番就いた人数が多い仕事は意外な事に医者だった。勿論、大学の医学部を出ていないのだから無免許医師だが、こちらの世界にはファイノムが有る。引退した町医者だった飯塚夫妻がアプリ化した医療魔法(Mファイノム)の使い方の講習を受けた後に教団直属の医療団として今ではニューランドからも治療に受けにやって来るほどに地位を確立していた。

 



 プラント教の教団本部に戻る直前に、ニューランドに出張している根本様から富田様に電話が掛かって来た。

 どうやら、新たに問題が発生した様だが、かなり深刻そうな様子だった。

 通話の中で発せられた4つの言葉が俺の耳に飛び込んで来た。



 『現地人』、『帆船』、『難破』、『救助』だった。

 



 俺たちが宇宙船によって『コピペ召喚』されてから、132日目の出来事だった・・・・・ 






お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




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