第51話 第3章-第12話
20170510公開
20170516役割一部修正 ソラ⇔ニュー
3-11
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-14d5h25m03s 白石 玲奈 viewpoint
『アヤッチ、倉庫区画の2頭が東門を突破したで。念の為に気を付けてや』
深雪さんが警告してくれたのは、接近して来ている『災獣』がこの町の城壁の南西の角を曲がる数秒前だった。
ウソ!?
思わず『カメラシンク』の画像を見てしまった。
そこには木で作られていた東門の残骸を踏み越えて市街区画に侵入した2頭の『災獣』が映し出されていた。
どこかで発砲音が聞こえたが、遠い場所の出来事にしか思えない。
後で聞いたけど、東門は町の外と直接に接していなかった為に、かなり傷んだ状態で長い事放置されていたそうだ。私たちの誰もが知らなかった情報だった・・・・・
その事を知った時にはやりきれない気持ちと、怒りを向ける鉾先が見付からない苛立ちと、それらを上回る悲しみに包まれた・・・・・
『ミユキ、悪いけど・・・』
『先に近付いて来るのを何とかした方がええで、アヤッチ』
彩先輩の呼びかけを遮った深雪さんの言葉に全員が前に意識を向けた。
その視線の先には、角を曲がってこちらに全身を晒している『災獣』が居た。足の動きからするともう加速に入っている?!
そして姿勢を低くして、シルエットを最少にしている事も分かった。
この姿勢の意味を私たち全員が知っている。
これは深雪さんが教えてくれた、『災獣』が警戒しながら突っ込んで来る時の姿勢だ。
頭が邪魔な上に身体も角度がきつくて弾かれてしまい、せいぜいが胴体の左右にはみ出ているように見える両足しか有効な射撃ポイントが無いという厄介な状態だった。
「全員、撃て!」
彩先輩が命令を出したのに合わせて、全員が発砲を開始した。
でも、動揺が収まる前に私が撃った弾丸は掠りもせずに城壁に穴を開けただけだった。
ヤバい!? もともと最初に対した『災獣』の時は80㍍の距離が有ったし、相手の姿が見える前から待ち構えていた為に冷静さを保てた。
だが、今回は60㍍の距離で、気が付けば加速を始めた後だ。
全てが後手を踏んでいる。
2発目は踏み出した右太ももに命中して、剛毛が揺れた。
レバーを操作している間に右足は後ろに半ば引かれていた。半歩近付かれたと言う事だ。
3発目は5㌢下側に命中した。右足は引かれ切っている為に角度が悪い。きっと脂肪層で止められている。
4発目は右足のヒザ辺りに掠っただけで弾かれた。
5発目は右足の太ももに当たったけど角度が悪くて辛うじて剛毛と少しの皮膚を抉っただけだ。
6発目は胴体に掠って弾かれた。
『災獣』の後ろに緑色の何かが一瞬だけ見えたので気になったが、そんな事よりも早く7発目を撃たなきゃ・・・
『発砲止め! 退避しろ!!』
深雪さんの声が『ボイスパーティ』を通して聞こえた。
『災獣』はもう目の前に迫っていた。加速が終わって最高速になったのだろう。一気に距離が縮まった様に感じる。その後ろにもチラッと『災獣』らしき影が見えた。
『アヤッチ、動け! 逃げろ!』
「退避!」
慌てて彩先輩が声を上げた。
『災獣』との距離はもう10㍍も無い・・・
命が危険に晒されたせいか、時間がゆっくりと感じられる。
『災獣』が身体を起こそうとしている事に気付いた。
それと、それまで身体の下で揃えられていた両手の内の右手が動いて、身体から離れてゆく。
なんとなく、あの手で私たちを薙ぎ払おうと考えている事を理解してしまった。
動こうとして重心を下げ始めた時に、左横から衝撃を受けた。
なに? どうして?
『災獣』の右手は未だ数㍍先だ。
動く為にバランスを右足に掛けていた事も有って、私の右側に並んでいた亜里沙ちゃんと里璃亜ちゃんを巻き込んで倒れてしまった。
何かが覆いかぶさっている? と思ってそちらの方を見たらニューさんの顔が見えた。
私たち3人をまとめてタックルの要領で倒してくれた上に覆いかぶさってくれた?
ニューさんの直ぐ上を何かが横切った。
ああ、『災獣』の右手だ・・・
でも、右手が届くと言う事は左手も届くと言う事だ。
すぐに左手の薙ぎ払いかスピードが乗った身体で跳ね飛ばされる。折り重なるように倒れている私たちには避ける術は無い。
何故か冷静に次の瞬間に襲って来るだろう衝撃に覚悟を決めたが、現実は予想と違った。
「当たったらご免!」
深雪さんの声が聞こえると同時に、甲高い発砲音が数㍍と離れていないところで鳴り響いた。ほぼ同時に私から1㍍離れた地面に黒い液体がぶちまけられて、その中心が弾けた。彩先輩とソラさんが頭を下げてしゃがんでいるほんの50㌢前だ。2人とも黒い液体が少し掛かっている。
発砲音がした方向は上空だ。
上を見ようとしたら、何か重い物が崩れ落ちる音がして地面が微かに揺れたと思ったら、前衛の2人に何かがぶつかって、6人一緒に3㍍ほど強制的にスライディングをさせられた。
また深雪さんの声が聞こえた。
「大丈夫、みんな? 大丈夫やったら、早う起きて逃げてや。でっかいのんがすぐに来るで」
私たちはギリギリ助かった?
まさしく、ガバっという音が聞こえそうなほどみんなが同時に起き上がると、彩先輩とソラさんの間に突っ込む様な形で『災獣』の顔が在った。
思わず、小さく悲鳴を上げたけど、それは亜里沙ちゃんと里璃亜ちゃんも一緒だった。
目には薄い皮膜が掛かっているから完全に死んでいる。
「ほら、早う、下がってや」
深雪さんはそう言った途端にハチキュウを構えて連射を始めた。
撃っている先に、一番大きな『災獣』がこちらに向けて走っている姿が有った。
距離は30㍍先くらい?
顔面に連続で弾着して弾いているが、表情からは怒りを浮かべている気がした。
「ええと、有り難う、ミユキ」
「構へんって。残りの2頭はゆっくり中央広場に向かってるで」
「分かった」
「じゃあな!」
深雪さんはそう言うと、射撃を2倍速に切り替えた。
左足のすねに被弾した『災獣』の速度はさっきの『災獣』よりも遅い。
見れば、左足からは大量の血が流れている。
1人でここまで痛めつけたって事?
そういえば、もう1頭は?
もしかして、もう倒したの?
さっき聞こえた発砲音がその時の音?
「みんな、馬車まで後退しよう」
彩先輩の指示で移動を開始する前に見た『災獣』の死体は、頭上に生えている筈の右耳が無かった。代わりに耳が有った筈の周囲が血で濡れている。
まさか、尻尾から身体の上を駆け上がった挙句に頭上から耳の穴に撃ち込んだ?
マンガや映画じゃないんだから、そんなアクロバチックな事なんて出来ないと思う反面、深雪さんならやりそうという事も考えた。
走り出しながら、チラッと見た深雪さんは同じ位置で射撃を繰り返していた。
もう、何というか、凄過ぎる・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




