第49話 第3章-第10話
20170429
3-10
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-14d5h22m38s 白石 玲奈 viewpoint
この町の居住区は南北が100㍍、東西が120㍍、居住区とは区分けされている西側は木製のクレーンや艀が並ぶ港湾区画で、東側の城壁の向こうには木材や小麦などの倉庫区画になっている。
居住区には4方の城壁に有る門を結ぶ様に東西と南北にメインストリートが走っていて、そのメインストリート以外にも道路が走っている。南北はメインストリートを含めて20㍍ごとに道路が走っていて東西は30㍍ごとに道路が走っている。
その南北の門を結ぶメインストリートの南北通りの南側に私たちが居る。
『カメラシンク』の画面に映っている北側の城壁には、今では5頭の『災獣』が取り付いていた。残りの2頭は倉庫区画の城壁に取り付いていた。
居住区の城壁は、もうもたないと思う。
一番大きな『災獣』は1頭で圧し掛かっているけど、10㍍ほど離れた両側で2頭ずつが圧し掛かっているからだ。
「アヤッチ、後は任せたで!」
そう言って、深雪さんが駆けだした。
速い!
陸上部出身で、しかも身体強化された私でも、深雪さんの様に防弾チョッキを着て『ハチキュウ』を下に向けながら走ったら100㍍を13秒台で走れれば御の字だろう。
でも、深雪さんは重武装と言う事を感じさせない加速を見せた。
まあ、ソフトボール部なので元々の脚力も有るし(あ、そう言えば陸上部の知っている先輩が勧誘と言うか、助っ人を頼むほど短距離走が速かったわ、深雪さん)、私たちのiPSE級よりも更に強化されているiP6s級という事も有るとは思う。
で、速度が乗ったと思ったら、教団の人達が乗っていた馬車の運転席(で良いのかな?)を踏み台にして、道沿いの店の屋根に跳び上がっていた。
「スタントマン顔負けね・・・ さあ、みんな! 店長たちが帰って来るまで、ここを守るよ!」
彩先輩の掛け声に、私たち3人は「はい!」と声を揃えて答えた。
うん、きれいに揃った。
こういう何気ない事が、意外と恐怖心を減らしてくれる。
こんな事はこっちに来て初めて実感する事だ。
まあ、2人ほど後ろで野太い声で答えていたのは無視だ。
『あと、1分ほどでそっちに着く。状況は?』
「南門前手前に馬車を配置して、その前に6人で阻止ラインを引きました。深雪ちゃんは1人で遊撃に出ています。今は屋根の上を走っている筈です」
ソラさんが店長さんからの問い掛けに答えた。
『また、深雪は無茶する気だな。分かった、俺たちも城壁を越える前にまた声を掛ける』
「了解です」
『カメラシンク』からの映像が変わった。高度を上げた様だった。
深雪さんは? ・・・・・ 居た!
「いやいや、それは危ないって・・・」
深雪さんの狙いが分かった瞬間に声が出ていた。
深雪さんの姿は、今にも城壁を押し潰そうとしている東側の『災獣』2頭の右手すぐそばに映っていた。右膝を地面に着けて、撃つ態勢を取っていた。
城壁は『災獣』2頭分の体重に耐えられずに幅5㍍に亘って半ば崩れている。
深雪さんに近い方の『災獣』が深雪さんの気配に気付いたのか、顔を左に向けた瞬間だった。
深雪さんのハチキュウが跳ね上がった。
同時に『災獣』の顔が跳ね上がった。
「え?」
全員が声を揃えて、同じ一文字を吐きだした。
直後に銃声が聞こえた。
初めて聞く甲高い銃声だった。思わず視線を北の方に向ける。
ほんの少しの間が空いて、もう1度銃声が響いた。
慌てて意識を『カメラシンク』に戻した。
撃たれた『災獣』は身体を震わせた後、身体から力が抜けたせいで城壁に全体重を預けた。重心が城壁の外に有るせいか、ズルズルと身体が下がって行き始めた。
もしかして・・・
2倍速以上の初速で撃った?
みんな、初速を上げられると分かってから試したけど、2倍速を撃った時に全員が思った事が有る。
『これ以上は危険だ・・・ きっとこれ以上は何が起こってもおかしくない・・・・』
だから、誰も2倍速以上は試していなかった。
ソラさんから聞いた受け売りだと、弾丸の威力は重さや材質も重要だけどスピードがかなり重要と言っていた。『運動エネルギー』は2乗するとかなんとかだった筈。
初速を1.4倍にすると『運動エネルギー』が約2倍になるし、2倍にすると4倍になるから、『災獣』相手なら初速を上げるのが有効だという結論だった。
その時に出た話では、ソラさん曰く、私が使っているウィンチェスターライフルの威力が1000だとすると、深雪さんたちが使っているハチキュウが1700、自衛隊部門が使っているロクヨンが3300らしい。
深雪さんのハチキュウを2倍の初速で撃つと1700の4倍だから、6800になってロクヨンの2倍以上のエネルギーになるけど、それでも巨大『災獣』の頭蓋骨を正面から撃ち抜けないだろうと言っていた。理由として巨大『災獣』の頭蓋骨は鉄板で言うと1㌢から2㌢くらい有ると考えておいた方が無難だろうという事だった。
しかも、ウィンチェスターライフルやハチキュウの初速をいくら上げても徹甲弾では無いので、弾頭があっさりと砕けるか弾かれるとも言っていた。
それを撃ち抜いたという事は、誰もが危険だと感じた2倍速以上を使ったのだろうか?
【ここで無理せんで、いつ無理するんや?】
深雪さん、無理し過ぎ!
「相変わらず、深雪ちゃんは凄い事するな」
ソラさんが思わずという感じで呟いた。
彩先輩が問い掛けた。
「ソラさん、どういう意味ですか?」
「1発目で顔を上げさせて、2発目で喉元から脳に銃弾を叩き込んだんだと思う。確かに重装甲の戦車でも底の部分は装甲が薄いからな」
誰も答えられなかった。というより、理解が出来なかったというのが正しいと思う。
「詳しく言うと、1発目は下顎の先の骨に当てたんだろう。硬いから止められるけど運動エネルギーがそのまま伝わってボクシングのアッパーみたいに顔が跳ね上げられたと・・・ ここまでは分かるよね? で、この状態なら剥き出しになった喉元から脳までには装甲になる様な物って皮膚と脂肪層と薄い骨しかない。すかさず本命の2発目を叩き込んだんだろう。言うは易しだが、実際にやるとなるととんでもない難易度だろう」
『カメラシンク』の画面上では、深雪さんに殺された『災獣』がゆっくりとずり下がっていくところだった。
深雪さんがどうしているのかと探すと、ゆっくりと後ずさりながら普通に連射を始めた。
多分、手前側の『災獣』が邪魔にならなくなったからだと思う。
同時に、城壁も幅10㍍に亘って倒されてしまい、撃たれていた『災獣』が遂に町の中に入って来た。かなり怒っているのか、身体をくねらせ尻尾を地面に叩きつけていた。
上空から見ているから気付けたけど、顔を斜めを向けている。
ああ、そうか・・・ 左側に在る2つの目を両方とも潰されたんだ。
それで怒っているんだ。
深雪さんがどうするのかと思ったら、いきなり反転して走り出した。
でも、遅い?
それを追って、『災獣』も走り始めた。
ワザと?
ワザと追わせている?
深雪さんの狙いを考えて首を捻った時に、深雪さんが速度を落とさずに反転した。器用に後ろ向きに走りながらまた撃った。
でも、外れたみたいで『災獣』に変化は無い。
あ、違う・・・・・・
遂に城壁を越えた1番大きな『災獣』が左に向きを変えて走り出した。
さっきのは、ワザと追い掛けている『災獣』を避けて、奥に居た1番大きな『災獣』に当てたんだ。
1人で3頭も相手にするなんて・・・・・
どこまで凄い女性なんだ・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m