表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/65

第5話   第1章-第5話

20160918公開

1-5



「ところで、君たちは『プラント様』が呼び寄せてくれた救世主という事で良いのか?」

「そういう事になる。もっとも、本格的に戦闘に参加出来るのは7人しか居ないので、戦力としてはそれほどのものでは無い。むしろ非戦闘員の方が多いので、助太刀出来ないと考えた方が良いくらいだ」


 話し合いをしているカルロス・ヒルは、この都市の叩き上げの下級将校だった。自衛隊で言えば准尉と言った所か。

 彼は後手に回った事で崩壊してしまった防衛線から入り込んだ害獣に蹂躙されそうになっていた市民を助けた後で、部下を率いてここまで逃げる様に後退して来たらしい。その過程で部下は1/8にまで減っていた。

 しかも、ここは聖都『ファーストランド』の最深部らしいので、袋小路に嵌まったと言っても良い状況だった。

 ちなみに、聖都と呼ばれているのは第3陣の植民者が最初に降り立った土地に築かれた都市だからだ。『プラント教』の発祥の地で教団本部が在ると言う事も大きい。

 都市に残っていた守備兵は、こちらの編成で言えば1個大隊500人ほどだ。

 だが、想定外の事態に指揮系統は寸断され、各個撃破されている可能性が高い。

 目の前のカルロスから聞いた状況から考えて、ここから脱出する事はかなり厳しい。

 かといって、ここで籠城するにしても(食料は有るが)、最終的には入り込んだ全ての『害獣アロ』や『災獣レックス』を相手取る危険性が残る。言い方は悪いが、市民が残っている事で敵が分散している状況で脱出する方がこちらの被害は少ないだろう。


 実は、このスタジアムを失う事は俺たちをコピペ召喚した宇宙船プラントにとって、切り札を失う事と同じ事だった。

 コピペ召喚をするには、様々な条件が必要らしい。その内の1つが、ペーストする人類を転送する場所で、このグランドしか送り出せない事だった。その他の条件も時空を捻じ曲げる技術を持つ宇宙船でさえ少なくとも1年もの期間を準備に当てて初めて成り立つレベルの条件らしいが、さすがに理論は理解は出来なかった。

 どうして俺たちのデータを強引に採取しようとしたかだが、理由は俺たちの遺伝子に有った。

 俺たちは200年未来の人類と違って、遺伝子は弄られていない。

 宇宙船にとっては弄り放題の素材という事らしい。

 だから、強引に過去の時空に干渉して(光年単位の距離の位置関係なんて宇宙船にとっては只の数値でしかない。航宙の期間を含めての数千年単位の位置修正も簡単に割り出せるだろう)、俺たちのデータ-をコピーしたのだし、こちらの世界で造られる際にはかなりの改造を施されていた。

 具体的には、身体能力の向上や長寿命化、こっちの人類よりも多いピコマシンの埋め込みや改造度合いに合わせた追加機能の付与などだった。

 『害獣アロ』1匹なら女性でも片手に持った金属バット1本で相手に出来る程の遺伝子操作を受けていた。

 この危機に対する解決策は有るには有る。

 俺たちのデータを基にペーストを再度すれば良い。可能なら何度もすれば、かなりの戦力になる。

 だが、実際は複数回のペーストは宇宙船に与えられている人類に対する干渉の限度を超えるので無理な様だった。




 俺は状況の説明と相談する為に一度みんなの所に戻る事にした。


「富田様、状況は最悪です。ここにも『害獣アロ』や、下手すれば『災獣レックス』が押し寄せて来る可能性が高い」


 みんなが取り囲む様に寄って来た中で、俺はカルロスから得た情報を数分間を掛けて説明した。

 富田さんは放置されている『害獣アロ』の死体に視線を飛ばした。

 俺も視線を向けた。やはり恐竜と犬が混じった感じに見えた。体長は1㍍50㌢程は有る。全身が黒くて短い毛に覆われている。あれではモフる事は不可能だ。

 横たわっている『害獣アロ』の死体は異常に薄く感じる。

 なんとなくだが、戦闘ヘリの横幅を薄く作る理由を連想した。視認性を抑えて、被弾率を下げると云う奴だ。真正面から向かって来られると照準し難いと思う。特に狙われているプレッシャーを感じている状況では尚更だろう。

 富田さんは5秒程した後でこっちを向いた。


「店長、最終的な判断は任せるが、俺は大人全員を武装させた方が良い思う。その上で脱出した方が良いと思う」


 確かに不足する戦力を補う為にはそれしか無い。


「お兄ちゃん、私も武器が欲しい。何も出来ずに守って貰うのは性に合わんし」


 深雪の性格ならそう言うだろう。なんせソフトボール部では2年生ながら先輩を含めた全部員を引っ張る主将だからな。

 どちらかと言えば『鳴かぬなら鳴かしてみせようホトトギス』派に属している。


「聞こえていたら教えて欲しい。人類に対するフレンドリーファイアを回避する事は可能か?」

『個体名織田信之の質問を確認。可能。設定終了』


 これまでの事を考えるとおバカな印象を抱いてしまう宇宙船プラントだが、サポート役には適している様だった。

 俺は決断した。

 というより、生き延びる可能性を上げるにはこの方法しか無い。


「皆さん! 今から皆さんにはアクティベイトという名の能力解放をして頂きます。アクティベイト後は『ファイノム』という一種の魔法が使用可能になります。現状でも身体能力と反射速度の向上が確認されていますが、更に『ファイノム』の1つに拳銃を使える様になる《アプリ》が有ります」


 あ、《アプリ》って言っちゃった。なんか人間離れして行く(スマホそのものになった様な)気がして、避けようと考えていたんだが・・・・


「危険ですから高校生以上の方のみ拳銃を使える事にしたいと思います」


 確か、高校生以上でないとスマホは契約できなかった筈。だからある程度の判断能力と責任能力も有ると見做せるし、純粋に高校生を除外すると戦力が落ち過ぎる。


「お分かりだと思いますが拳銃を使える様になっても銃口を絶対に人に向けないで下さい。暴発したら、本当に人を殺す事になります。常に銃口を地面に向けておいて下さい」


 一旦、言葉を区切った。フレンドリーファイヤーは出来ない設定にしてくれているが、万が一は常に身近に潜んでいる。

 みんながお互いに視線を交わしている。


「時間が無いので、拳銃が使える様になったら、すぐに試射を行って感覚を掴んで頂きます。その上でここを脱出します。質問の有る方は居ませんか?」


 手を上げたのは松永君だった。

 俺は頷いて、質問を促した。


「店長、拳銃以外は選べないのですか? 例えば戦闘ヘリコプターとかは?」


 さすが松永君だ・・・

 その発想は完全にWeb小説の無双モノとしか思えない。

 そう言えば彼が書いている小説は『俺TUEEEEE』系だった・・・

 『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』派だな。


「選べるのは多分ウィンチェスターライフルかコルト・ガバメントくらいの筈だ。まあ、それでも『害獣アロ』相手なら有効と思う。身を守るという意味ではガバメントを選ぶ方がいいな」


 それ以外は実際に手にした事が有る人間にしか召喚出来ない。

 実物が無い状態から創造したので、使用者の記憶(宇宙船は俺たちが忘れている記憶さえも吸い上げていた)で補完しているからだ。

 だから、89式小銃を全員に装備させられないし、俺のハチキュウを渡しても撃てない様になっている。


「他に質問が有る方は居ますか?」


 さすがに居ない様だった。

 まあ、宇宙船プラントの説明を全員が強制的に理解させられたから当然なのだが。


「では、アクティベイトと口に出して下さい」


 俺はみんながアクティベイトを受けている間に、川島君の所に向かった。

 即応予備自衛官の6人が片膝を着いた姿勢で無防備なみんなを守る様に散らばって全周を監視していた。

 うん、さすがに即応予備自衛官に応募するだけあって優秀だと思う。

 相手側の下級将校と話し合う前の目配せ1つでちゃんと状況に対応している。

 さっきの射撃も、あの状況下で初弾で当てろ、というのが無茶なんだろう。


「川島三曹、分かっていると思うが、この後もみんなをまとめてくれ」

「了解です。ところで店長、レンジャー徽章持ちだったんですね。初めて知りました」


 川島君は俺の左胸に付けられているレンジャー徽章に目をやった後で言った。

 そう言えば言ってなかったな。


「これでも第一空挺団に居た事も有ったからな」


 さすがにこれ以上は口に出来ない。

 Sに居た事は退役後も守秘義務が課せられていた。


お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ