第47話 第3章-第8話
20170423公開
3-08
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-14d5h01m46s 白石 玲奈 viewpoint
「玲奈ちゃん、のど飴、要る?」
そう言って、私に声を掛けて来たのはバイト仲間で同い年の平山亜里沙ちゃんだった。
私と違って、おっとりとした性格で、いつもニコニコとしている印象が有る子だ。
気配りも出来る子で、レジ操作に不慣れだった頃は先にバイトを始めていた彼女には色々とお世話になった。
今もきっと考え込んでいた私を気遣って声を掛けてくれたのだろう。
まあ、手のひらに乗せて差し出している飴が、女子高生にしてはオジサン臭さ過ぎる『龍●散のど飴』でなければ良かったとはかなり真剣に思う。実はここだけの話、彼女のロッカーの中には箱買いしたのど飴の山が有る事を知っている。 まあ、私も好きだけどね・・・
「あ、それだったら、里璃亜もキャンデー上げる」
そう言ってくれたのは同じくバイト仲間で同い年の牧野里璃亜ちゃんだ。
亜里沙ちゃんと違って、彼女の場合の親切は計算から来る面が強い。特に男性の前ではこっちが引いてしまう程に自分の可愛さをアピールしている。
それだけなら私が苦手な裏表の有る子なのだが、女の子同士の時には同じく引くくらいの剽軽な一面を惜しげもなく見せ付けるので、これまで苦手意識を持った事は無い。
たまたま『召喚時』に休みだった、これまた同じ高1の関根淳子ちゃんも含めた私たちレジバイトの4人は大の仲よしだった。
バイトが終わった後にファミレスに行ったり、それぞれが抱える悩みも相談した事も有る。
中学時代に痛めた右膝の為に高校では陸上部に入らず、余った時間を持て余した私にとって、みんなに会えるスーパー織田のレジバイトは救いでも有ったと思う。
「うーん、里璃亜ちゃんのキャンデーは残り少ないから、亜里沙ちゃんののど飴だけ貰うね」
「はい、どーぞ」
ニッコリ笑ってのど飴をくれる亜里沙ちゃんが、これまた可愛い。私が男の子ならお近付きになりたいくらいだ。うん、女の子で良かった。告白なんて私には無理だ。
「そろそろ到着するよ。忘れ物には気を付けてな」
狭い馬車の中で向いに座っている神崎彩先輩が声を掛けて来た。
返事は3人同時だ。彩先輩は私たち女子高生バイトのリーダーだ。
それに、彩先輩は私たちにとって、本当に頼りになる存在だ。
みんなの頼れるお姉さんと言って良い。
特に亜里沙ちゃんは昔から隣に住んでいるという事で小さい頃から懐いていたそうだ。
「アヤネエ、次の町ですぐに晩ご飯を食べるられる? そろそろお腹が空いた」
「どうだろ? ミユキ、分かる?」
「ん。なんとなく無理な気がするなあ」
彩先輩の隣に座っている深雪さんが瞑っていた目を開けて答えた。
この人は何と言うか、別世界と言うか、規格外と言うか、凄い女性だ。
こっちの世界に来る前は、いつも閉店30分くらい前に半額処分の食材を買いに来る、店長さんの妹さんという接点しか無かった。
まあ、彩先輩もだけど私と同じ高校の先輩で有名な女性だから、顔と武勇伝は知っていた。
曰く、曲がった事が嫌いで彼女の前で嘘を吐くと呪われるとか、超能力を持っているだとか、子供の時から1度も泣いた事が無いとか、根性で起こせない奇跡は無いと言ったとか、小学校から一緒だった仲良しグループは親衛隊でソフトボール部の部員は武闘派組織深雪組の構成員だとか・・・
ほとんどの噂は誇張されたものと思っていたが、こっちの世界に来てからの深雪さんを見ていると、噂の方が控えめだったという事が理解出来た。
よく分からない内に、見るからに凶暴そうな怪物に襲われる様な異世界みたいなところに連れて来られたのに、怖がる素振りも無く平然と戦う姿を見れば誰でもそう思うはずだ。
ましてや、私たちはリリシーナ様(私たちの間での別名はリリちゃん。中学生くらいなのにこっちでは一番偉い可愛らしい少女だ)を護衛したニューランド行きの途中で、深雪さんが戦った体長4㍍の『災獣』の死骸を見ている。
有り得ないでしょ?
でかい、怖い、強そう、と三拍子が揃った怪物相手に肉弾戦を仕掛けて勝つなんて・・・
有り得ないでしょ?
あんなのが10㍍以内に迫ったら、泣く自信はある。
いや、絶対に泣く。
それだけを聞けば、男性顔負けのゴツイ女子高生を想像されるんだろうけど、外見は日に焼けた美少女というのだから反則と言って良い。もし深雪さんが男の子だったら惚れていたかも知れないと思っているのは、実はレジッ娘3人に共通していたりする。
しかも、佳澄ちゃんに向ける笑顔なんか見た日には、もう、なんというか、その・・・・・
でも、こっちに来てから2週間経ったというのが信じられない。
日本がどれだけ便利なところだったのかをここに来て実感している。
懐かしい便利なモノを上げろと言われたら、きっと1時間や2時間では言い切れない自信が有る。
まあ、人間は慣れる生き物だという事も分かって来た。
だって、5分後に到着したドセという町の周りが城壁で固められている風景が自然に思えて来るのだから。
ドセの町に入っての第一印象はさびれている言うか、ゴーストタウンみたいと言うか、とにかく人が少ないという感じだった。
取敢えず、ここを拠点として新たに現れた『災獣』を探すという事だけど、まずは休憩を取る様に言われた。
確かに腰とお尻が痛い・・・
「甘い飴ちゃん、要る? 美味しいで?」
昔の癖で、陸上部のストレッチをしていたら、深雪さんと彩先輩が小さな男の子と女の子に話し掛けていた。
目線を合わせる為に2人ともしゃがんでいる。
あの赤いパッケージは、はちみつ漬けのりんごで作ったのど飴だ。美味しいんだよな、アレ。
包み紙を器用に手早く剥いて、そのまま深雪さんが自分の口に放り込んだ。
「え?」
後ろから声が聞こえたので振り返ったら、亜里沙ちゃんが驚いた顔をしていた。
そのまま慌てて自分ののど飴をポケットから取り出そうとしている。
きっと上げる気だ。でも、それ、龍角●のど飴だ。
「おいしいの、それ?」
予想外の展開と、微かに香るリンゴの甘酸っぱい匂いの誘惑に負けたのか、男の子の方が思わずと言う感じで訊いていた。
「うん、美味しいで。これは僕の分な、これは妹さんの分や。はい、手を出して」
そう言って深雪さんが男の手に飴を2つ握らせた。
男の子が小さく「ありがとう」と言って、妹さんに片一方を渡した。
2人が苦労しながら包み紙を不器用に剥いて、口に入れた瞬間に笑顔がこぼれた。
「美味しい? 良かったねえ」
彩先輩の顔にも笑みがこぼれた。
だけど、ホノボノとした空気は直後に吹き飛んだ。
大きな『災獣』を発見したらしい。
慌ただしく大人の人達が店長さんを中心に動き出した。
深雪さんと彩先輩も子供を連れて店長さんの所に行った。
ああ、なるほど。
あの小学生くらいの兄妹は親を亡くしただかりだ。せっかく心を開いたのに、置き去りにされたらきっと傷付く。もう心を開いてくれないかもしれない。だから手を繋いで連れて行ったんだ。
やっぱり、彩先輩たちは凄い。
店長さんたち自衛隊部門(ソラさんが冗談交じりで『スーパー織田の新しい部門だな』と言った事から出来た非公式部門のことだ)が町の外で迎撃をするらしい。
『カメラシンク』で見た『災獣』は怖いくらい大きかった・・・
もう、巨大怪獣と言っていいんじゃない?
まあ、動きが『害獣』や『害獣』に比べて鈍そうなのが救いかな。
いつでも逃げれる様に準備するから手伝ってくれとニコラス中尉さんに言われたので、荷物の積み替えを手伝った。
その最中に町のあちらこちらから鐘の音が聞こえ出した。
町を中央を通るメインストリートに住民の人達が出て来た。
みんな不安そうな顔をしている。
町長さんと教えられた大人が家の中に戻る様に大きな声で叫んだので、また住民の人達は家の中に戻って行った。
自衛隊部門の7人が傍に居ないせいで、さすがに落ち着かない。
でも、『カメラシンク』の画像で、着実に『災獣』を倒して行く店長さんたち自衛隊部門を見ていると、安心というか、落ち着いて来た。
亜里沙ちゃん、里璃亜ちゃんの顔も真剣な表情から笑顔がこぼれる様になった。
「ああ、こっちにも7頭来たな。ちょっとやばいかな?」
深雪さんがそう呟くまでは・・・・・・・・
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