第45話 第3章-第6話
20170416公開
3-06
『即自のみんなは俺の所に集合してくれ。それとヤツラの映像が入って来た』
俺は情報を共有する為に深雪以外の全員にも『カメラシンク』と『ボイスパーティ』を繋いだ。
『店長、何と言いますか、こりゃあ、ヤバいッスね』
『ヤバいって言うか、明らかにラスボスクラスの群れですよね?』
『まともに当たるんは考えもんやな』
『出来れば正面から当たりたくないですね』
思わずというか、呆れた様な声が一斉に出ていた。声からすると深雪たちだ。
だが、しばらく見ていると弱点も分かって来た。
『自重が増えたせいで速度は落ちている様に見えますね』
『うーん、小回りも利かないみたいかな?』
『速度だけなら、私たちより下の様なんで、ちょっと安心したかも』
画像を見る限り、通常の『災獣』よりも走行にスムーズさが無い。画像上の巨大『災獣』は秒速6㍍くらいで走っているが、増えた体重を何とか増強された脚力で補っているという印象を抱く。全力で走ったとしても秒速8㍍に届くか届かないかという所だろう。
遺伝子操作とピコマシンによる底上げで、俺たち全員が地球上の世界記録を上回る脚力を発揮出来る。
あの人類最速のボルト選手よりも速く走れるという事だ。
まあ、ちゃんとした短距離走のフォームで走ればという仮定が付くし、実際の所は個人差も有るだろうけどもそれでも遅くとも秒速10㍍は出せるだろう。
最悪でも機動力にものを言わせて逃げ切れそうという推測はかなり精神的な余裕を齎す効果が有った。
『機動力で側面を取れれば、いける気がして来たかもしんない』
『でも、連携が難しくなりそうじゃないですか?』
『その辺はお互いに声掛けすれば大丈夫』
『ミユキ、頼りにしてるで』
『任せといて』
見張り塔で周辺を監視していた即自の6人は、こっちに向かいつつも敢えて発言をしていなかった。
現第階では画像から得られる情報を少しでも増やそうとしているのだろう。
どっちにしろ、接触までに検討を重ねる時間は多少は有る。
あまり『カメラシンク』の画像に集中し過ぎれば躓きそうなものだが、器用な事に全員ともにしっかりとした足取りで走って来た。
「店長、なかなか頑丈そうなヤツですね」
1番乗りした、射撃徽章準特級持ちの小沢士長が苦笑いを浮かべながら言った。
「ああ。それにここまでナリが変わっているとは思わなかった」
「89式小銃では益々歯が立ちそうにありませんね」
2番目に到着した奥田一士がぼやいた。
ほぼ同時に到着した小沢士長も頷いている。
「最初はロクヨンの連射で叩いて様子見だな。ダメなら単射で装甲の薄そうなところを2倍速に上げて狙い撃ちだな」
「そうですね」
84mm無反動砲を使えば確実にやれるだろうが、インストール出来ているのが岡一士と俺の2人だけなのと、取り回しが悪くなるので今は使わない。
画像をチェックする限り、体形が変わったせいでこれまでに判明している弱点が通用するかが微妙だった。
「遅くなりました」
最後に一番遠い北側の見張り塔に居た川島三曹がやって来た。
揃ったので出発しようとしたところに、やや歳を取った中年男性を連れた教団職員のリーダーがやって来た。
「済みません、忙しいと思いますが、この町の町長が状況を直接訊きたいとの事でして」
リーダーは申し訳なさそうな顔だった。
まあ、中央から来ている教団の人間と言えども、地方の長を下手に扱うのは避けたいのだろう。
俺は頷いて、目を合わせてから自己紹介を素早く済ませた。
言外に時間が無いと伝える為だ。
だが、町長は気付かなかった。
結局、彼が引き上げたのは1分後だった。
この1分間で『災獣』の群れは更に400㍍近くこちらに近付いてしまっていた。
「急ごう」
俺たちが入って来る時に使った南門から出た頃にやっと警鐘が鳴り出した。
そして直後に南門が閉じられて行く。
途中で寄ったオンセの町と同じく、素人に毛が生えたレベルの自警団しか居ないこの町で籠城するのは悪手だろう。肝心の城壁が心許ない為にすぐに破られる。市街地戦になった場合、装備が貧弱で練度も低い自警団では蹂躙されるのが目に見えている。
政治的な理由が無ければすぐにでも深雪たちを避難させるべきだが・・・・・
俺たちがドセの町から出て北に走り、道沿いの丘に展開したのは2分後だった。
俺が飛ばしている『球体観測機(試Ⅱ型B)』に気付いた偵察隊が、ワザと収穫が終わったばかりの麦畑に乗り入れて時間を稼いでくれた。でなければ、もっと町から近い場所で陣取る事になっていただろう。
その際に更に巨大『災獣』の機動力に関する情報が増えた。
やはり速力も足回りの能力も落ちている。
偽装工作を諦めて、丘の上で伏せる頃には、もう偵察隊と『災獣』の集団は目の前まで迫っていた。距離は200㍍も無い。幅3㍍の舗装されていない道の上を縦に伸びた形で偵察隊、隙間、『災獣』の順番でやって来ている。
全員がロクヨンを召喚して、二脚で照準がぶれない様に固定して装填も済ませる。
この位置からなら側面からの射撃が可能で、射線上に偵察隊が入って来ない。150㍍ちょっとと手頃な距離だ。
理想的とも言える射撃ポイントだった。
「俺と小沢士長、奥田一士の3人で先頭の『災獣』から順番に狙う。残りの4人で最後尾から狙ってくれ。1秒で次の目標に移ろう。弱点だった腹を狙おう。連射用意・・・ 撃て!」
ハチキュウを使った後ではロクヨンの連射速度は若干遅く感じるが、おかげで連射時でも反動を抑え易くて命中率もいい。合計7丁から発砲された7.62x51mm NATO弾は吸い込まれる様に命中した。
普通の人間と違う俺の時間感覚のおかげも有り銃撃の効果がすぐに分かった。
通常の『災獣』に存在した下腹部の上下20㌢幅90㌢の装甲が薄い部分はほぼそのままのサイズで残っていたが、巨大になった為に狙い難くなっている。
その弱点以外に当たった銃弾の効果はやはり下がっているみたいだ。角度の問題も有り脂肪層を突破出来たかどうかという所だった。
群れがこちらに進路を変えるまでに倒せた『災獣』は5頭だった・・・・・
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