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第44話  第3章-第5話

20170415公開

3-05



 急に慌ただしく動き始めた俺たちに気付いたのだろう。急ぎ足で教団職員の3人がやって来た。各自が結構な荷物を背負っている。

 その顔は緊張感で強張っていた。


「先行していた偵察隊が、襲われた村周辺で『災獣レックス』と接触した様だ。俺たちの内7人が向かう。馬車は4台とも置いて行くから、荷物を積み終えたらいつでも出発出来るように待機しておいて欲しい。何か質問は?」

「この町の町長へは私から伝えても?」

「むしろ、そうして貰えると助かる」

「それと、出発の判断は誰がするのでしょう?」

「ニコラス中尉に判断は任せる」


 実際はファーストランドで俺たちから情報を受け取っている上層部が判断するが、リーダーの立ち位置から考えるとニコラス中尉経由と言っておいた方が分かり易い。


「分かりました。現時点から我々はニコラス中尉の保護下に入ります。『人類の守護者様』にプラント様の御加護が有ります様に」


 そう言って、彼は手早く祈りを捧げた後、部下を連れて新たに自分達が乗る馬車の方に向かった。

 2人の部下も俺の横を通る時に同じ様にお祈りを捧げてくれた。効けばいいんだが、実像を知っている俺からすればこれ以上の『御加護』は望み薄だ。

 幼い兄妹を連れて馬車に向かった深雪たちと入れ違いにニコラス中尉がやって来る。

 途中で教団職員たちに馬車を指差していた。

 その後でこちらを振り向いた表情はちょっと思案顔だ。

 近くまで来て、周囲に聞かれない様に声を抑えて口を開いた。


「オダ、念の為に確認するが、優先順位をどうする?」


 元々の予定が偵察だった為に、優先順位は明確だった。

 最重要項目は新たに現れた『災獣レックス』の情報収集だ。

 次に教団職員と保護した兄妹の安全確保。

 最後に現地に居る住民や疎開途中の住民の保護。

 最重要事項の『災獣レックス』の情報はこれから俺たちが収集するから予定通りと言える。

 2つめと3つめは微妙な問題になる。

 2つめを優先するなら、今すぐここを出発させれば良い。

 統治に係わる事だから俺たちには無関係だと割り切って、軍事的な要素だけで判断するとそれが正しいだろう。

 だが、そうすると、この町の住人は俺たちと教団から見捨てられたと受け取ることは確実だ。 

 『災獣レックス』と接触する前なら問題は無かったが、接触後では問題になる。

 俺自身もどちらになっても大丈夫なように指示を出している。勿論、個人的には深雪たちを危険に晒さない為にすぐに退避させたいのが本音だが。

 まあ、幸い、俺たち被召喚者にはこちらの住民には無い強みが有る。

 富田様は着信と同時に出てくれた。


『織田です。偵察隊が例の村近辺で『災獣レックス』と接触した様です。予定通り7人で偵察に出ますが、ニコラス中尉たちの支援部隊、深雪たち、教団職員と例の兄妹をどうするかの方針を決めて下さい』


 単刀直入に用件に入った。この異星に来てからさんざんやり取りして意思疎通は余計な言葉が要らない程にはばっちりだ。状況も変化が有り次第逐一メールで送っている。


『現状を考えるとそのまま待機させてくれ。今の段階で退避させるのは政治的にまずい』

『了解です。以降、支援部隊からの情報提供は深雪からさせます』

『分かった』

『こちらも何か有れば連絡します』

『全員には、いざとなれば自分たち自身の安全を優先する様に言って欲しい』

『はい。では、自分達は準備ができ次第出発します』

『ああ、くれぐれも気を付けてな、信坊』


 さすがに富田様は俺たちの価値を理解している。 

 ここに来ている14人の被召喚者は、自身の体重に等しいゴールドに勝る価値を持っている。

 2度と手に入らないと考えると、簡単に失う訳にはいかない貴重な戦力だ。召喚された初期の段階で三宅部門長という犠牲者が1人出ているだけに失いうるという事実は切実な問題だ。

 この問題は被召喚者の間でも微妙な影を落としつつある。

 何故ならば、60人居た被召喚者の内、俺たち14人が突出した戦歴になってしまっているからだ。

 俺と即自の6人は良い。もともとの職業から戦力として使われるべきだからだ。

 だが、深雪たち7人は違う。立場は他の被召喚者と同じにも拘らず、戦いに身を投じて来た。

 子供が一緒に召喚された親たちは仕方ないが、それ以外の被召喚者はどうなのだ? という問題だ。

 このままではこちらの住民の間で、彼らに対する態度に影響が出てもおかしくない。

 まあ、強制する訳にはいかないので、簡単な解決策は無いと言えるのだが・・・


「ニコラス中尉、表向きはこの町の防衛を格上げする。だから、ファーストランドからの承諾が出るまではここで待機だ」


 言外にいざとなれば退避を優先と滲ませる。


「分かった」

「辛い役目を押し付けるが頼む」

「仕方ないさ。責任を取るのは偉い者の務めだ」

「では行って来る」


 ニコラス中尉が敬礼をする。

 それに答礼した時に、『球体観測機(試Ⅱ型B)』の映像が新たな情報をもたらした。

 『益獣ゴドルフィン』に騎乗した3騎の偵察隊を追い掛ける13頭の『災獣レックス』の姿をカメラが捉えたのだ。



 この島最大の生物の『益獣サンプソン』を軽く超える巨体になっている事は予測していたが、体格が通常の『災獣レックス』とここまで違うとまでは予測していなかった。

 第一印象は『ごつい』だ。

 更に四肢のバランスが違っていた。

 脚の筋肉が増えていて、増えた自重を余裕で支える事が出来そうだ。

 これまでの『災獣レックス』を中戦車とすれば、この新しく現れた『災獣レックス』は重戦車だ。装甲もパワーも格段に上がったと想定しなければならないだろう。

 腕も大きくなり、しかも長くなっていた。

 兵装として考えるなら、強力な顎による噛み付きが主兵装で腕は補助的な兵装だったのが、腕も主兵装並みとして考える必要が出て来た。間合いもより深くなり多重的になったと言える。

 地球のティラノザウルスなどの肉食恐竜に比べて寸詰まりの様に短かった尾も長くなっていた。

 だから、体長は1.5倍から2倍ではなく、2倍から2.5倍くらいになっていた。

 長くなった尾も新たな兵装として使って来るなら、戦闘力はかなり向上している。

 全体的な身体の大きさを強引に比較すると2倍強の大きさになっていると考えて良い。

 それを3乗すれば体重がどれほど増したか分かる。実に8倍を超える巨体になったという事だ。

 確か4㍍クラスの『災獣レックス』の体重は500㌔弱だった筈だ。

 という事は、4㌧弱・・・・・

 地球上の現生最大の陸生哺乳類のアフリカ象には及ばないが、アジア象に匹敵する。

 そんなサイズの凶暴な肉食生物が、新たに現れた『災獣レックス』だった。


 そして、何頭かの『災獣レックス』には、何十本かの弓矢が力なく垂れ下がっていた。

 刺さっている訳では無く、縮れてごつい毛に絡みついているだけだ。


 


 衛兵の遠征隊を喰ったヤツラだとこの瞬間に確定した・・・・・ 







お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m

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