表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/65

第43話  第3章-第4話

20170412公開


【注意:第2章と第3章の間に閑話を挿入しました】

【爪痕と足跡について少し追記しました】

3-04



 最初に向かった先はファーストランドの北東に在る町だった。

 湖の最北端に流れ込む川に面していて、漁港と良質な貝もどきの産地として栄えている。

 漁港の沖合200㍍に設置した定置網漁で獲れる湖魚は体長30㌢ほどの淡水魚だが、味も良く、更に湖の食物連鎖の頂点に位置する為に湖に流れ込むピコマシンを豊富に含んでいる為に名産品だ。姿かたちはサメに似ている。しかも選りにも選ってシュモクザメに似ている。英語圏でいうHammerhead sharkだ。身は白身に分類していいと思う。味は脂の乗ったカレイが近くて、俺たち被召喚者もお気に入りの魚だ。

 この町はファーストランドに一番近いせいも有り、現在のところは疎開対象に入っていない。

 町を囲う城壁はファーストランドと同等の8㍍ほどの高さだ。害獣相手はもちろん、通常の『災獣レックス』相手なら十分対応出来る強度を持っている。

 ただし、これから接触する予定の巨大な『災獣レックス』の脅威度によっては疎開対象になるだろう。

 住民による自警団が城壁の上で俺たちに手を振って来たので、軽く振り返した。

 ファーストランドが害獣に包囲された時には恐慌状態になったらしいが、今は疎開対象では無いせいも有り恐慌状態の面影も無いほどに長閑のどかな空気が感じられる。

 俺たちはその城壁に添う様に北上して、そのままデメティール西部を北から南に流れる川沿いに敷かれた道を目指した。

 『災獣レックス』に襲われた村は、この道の最北端に位置している。直線距離としてはここから11㌔だが、途中で蛇行しているので15㌔ほどの道程となる。

 その途中に人口1,000人クラスの町が2つ在り、その他にも数十人から百人前後クラスの村や町が幾つも在る。

 

 しばらく行くと、疎開の為に南下して来る馬車とすれ違う様になって来た。

 1台の馬車に2から3世帯の最大で10人くらいが乗っている筈だ。疎開の効率を上げる為に、手荷物だけに絞ってギュウギュウ詰めにしての数字だ。

 疎開計画が発動して1週間が経過しているが、まだまだ全員が疎開した訳では無い。

 50台を超える馬車が動員されているが、1日に3往復が限度なので1日当たりでは1,500人くらいが疎開している計算だ。やっと半分の疎開が済んだところだった。

 

 簡易の柵しか持たない幾つかの村と町を通り越して、30分後に城壁が見えて来た。

 1,000人を超える住民が住んでいるオンセの町だった。

 害獣に備えた城壁の高さは4㍍ほどで、『災獣レックス』相手では心許ないとしか思えない。

 まあ、これまでに『災獣レックス』の被害に遭ったのは北部の村や町ばかりなので、仕方が無いと言えば仕方が無いのだろう。

 近辺の町や村に対する連絡を頼む為に立ち寄って、巨大『災獣レックス』に関する情報を伝えてすぐに出発した。

 ここで予定外の問題が発覚した。

 生き残った子供2人を保護してこちらに向かっている筈の教団職員が乗った馬車がまだ到着していなかったのだ。トラブルに巻き込まれた恐れも出て来た。

 彼らはオンセの町を出発して1時間後に到着した同じクラスのドセという町に足止めされていた。

 これまでの酷使が原因なのか、車軸が折れたせいでこの町で修理を受けていたのだった。

 予想外はまだ続いた。


「まさか『人類の守護者様』たちに来て頂けるとは・・・」


 やっと見つけた教団職員のリーダーとお互いに自己紹介した後に言われた言葉がこれだった。

 いや、そんな大層な二つ名は要らないんだが・・・

 第一、俺たちの事は『プラント様が遣わした援徒』に呼称は決まっていた筈だ。


「『プラント様が遣わした援徒』じゃ無かったかな?」

「それは教団の公式な呼称でして、ニューランド解放後はこちらの呼び名の方が有名になりました。それだけの働きをしておられるという事です」


 後ろで軽槍兵小隊小隊長のニコラス・ソウザ中尉が噴き出していた。


「ニコラス中尉、知ってて隠していたな?」

「いやあ、俺も昨日聞いた時にはポカンとしたけど、良い呼び名じゃないか? ファーストランドとニューランドをあっという間に救ったんだし、ピッタリじゃないか?」 

「こういうのを日本では『褒め殺し』っていうんだ。恥ずかし過ぎる」

「いやいや、褒め過ぎではないぞ、オダ。その名に恥じない働きをしている。それにみんな、君達に希望を見出したんだ。それくらい許してやれ」


 これなら、深雪の言った『援軍』の方が何十倍もマシだ。


他人事ひとごとだと思って・・・。それで修理にはどれだけ掛かるのだろうか?」

「明日になるそうです。なんせ、腕の良い職人はもう疎開した後で、独立したての職人しか残っていないらしいんです」

「ニコラス中尉、俺たちを乗せて来た馬車の1台を代わりに出そう」

「構わんが、窮屈になるぞ?」

「構わない。避難をさせた方がいい」

「分かった」


 ニコラス中尉が部下に荷物を降ろす指示を出す為に馬車の方に向かった。


「そう言う事だから、君達も荷物の積み替えを頼む」

「ご配慮に感謝します」

「それで、『災獣レックス』についての情報を教えて欲しい。爪痕が通常の1.5倍から2倍の高さに付いていたと聞いたが間違いないだろうか?」

「実はあの後で、更に高い位置に付いた爪痕を発見しました。2.5倍は有りました」


 この事は色々な意味を持つ。

 1.5倍から2.5倍の幅を持つ爪痕の高さという事実は、個体差が大きいのか、それとも子供連れなのかという推測を導き出すからだ。

 もしかすれば若い個体に狩りの仕方を教育している可能性も有る。

 という事は、かなり社会性が高い可能性も出て来る。


「その他に気付いた点は無いだろうか?」

「足跡も大きくなっていますね。それよりも深さが気になりました」

「というと?」

「深いんですよ、足跡が」

 

 その後、俺が気になる点をいくつか訊かれた後で、教団職員のリーダーも自分達の馬車に向かった。

 そう言えば、深雪たち7人には休憩を伝えていたが、今後の予定を詰めておく必要が有る。

 オンセの町よりも疎開が進んでいるせいで人気ひとけが少ない通りを見渡した。

 俺たちの馬車を停めている横で、深雪と彩君が小学低学年くらいの男の子と女の子と言葉を交わしているのが目に入った。

 深雪と彩君は腰を下ろしている。子供と話す時は目線を合わせる方が打ち解け易いと聞いた事が有るが、2人とも自然に実践しているのだろう。

 城壁に接するように建てられている4つの監視塔に行って貰っている川島三曹とも打ち合わせが必要だ。


『川島三曹、予定が変更になった。悪いが、こっちに来てくれないか?』

『了解です。すぐに・・・ 店長、照明弾確認! 色は赤! 11時の方向! 先行している偵察隊と思われます!』


 川島三曹が見付けた照明弾は俺が飛ばしている『球体観測機(試Ⅱ型B)』のカメラでは捉えていない。

 事前の打ち合わせで先行している偵察隊が『照明弾発射筒』をダウンロードしている事は聞いていた。

 偵察隊が照明弾を上げる可能性は頭をよぎってはいたが、この町の周囲を偵察する為に高度を落として飛ばしている最中に上がるとは・・・

 もう少し高度を上げておけば良かった。


『川島三曹、距離はどれくらいだ?』

『3㌔前後です!』


 という事は、被害に遭った村の近くだ。 

 俺は『球体観測機(試Ⅱ型B)』の高度を上げつつ、北に向けて急行させた。

 この町近辺の村は疎開が進んでいてほぼ無人の筈だが、この町にはまだ200人以上が残っている。

 巻き込まない為には討って出るしかない。


「ニコラス中尉! 『災獣レックス』に偵察隊が接触したみたいだ! 状況が確認出来次第に出るぞ」

「分かった。俺たちはどうしたらいい?」

「いつでも出発出来る様にしておいてくれ。状況は深雪経由で伝える! 下手すれば、ここで籠城も有り得る」

「了解」


 深雪と彩君が、慌ただしく動き出した状況に気付いたのか、子供の手を引いてこっちに走って来た。


「深雪、悪いが支援部隊と教団職員、それとその2人の護衛を任した」

「かまへんで。詳しい状況を知りたいから、『カメラシンク』を繋いで」

「今繋ぐ。どうだ?」

「うん、映像来たわ」

「それでは、頼んだぞ。まあ無理はしないでくれよ」

「お兄ちゃんこそ」




 一気に状況が動き出した・・・・・




お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ