第40話 第3章-第1話
20170320公開
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その報告は突然もたらされた。
昨日、無事にニューランドから帰って来て、これでやっと本格的にファーストランドの衛兵の再編成と懸案事項に関する会議を開催出来るな、と考えながら衛兵本部に顔を出した途端にカルロス・ヒル准尉に会議室に引っ張り込まれた。
そこで聞かされた話は密かに危惧していた新たな危機の顕現だった。
「本当か? 場所は? 目撃された『災獣』の数は?」
「たった今入った情報だ。デメティールの北西の端だ。疎開を渋っていた村が確定ではないが子供2人を除いて丸ごとやられた。姿を消したと思われる村人の数は27人。疎開の説得に向かっていた教団職員4人が現地で保護した子供の話では夜中に襲われたそうだ。だからヤツラの規模は分からん」
「だが、夜中に襲われたとしたら『災獣』かどうかなんて分からんだろう」
「助けられた子供たちは兄妹だったが、2人とも大人たちが『災獣』がやって来たと叫んでいるのを聞いている。まあ、助かったのはプラント様の御加護としか思えんがな。2人は自分の家で使う為に小麦を保存していた部屋の奥から見付かった」
「小麦が目隠しになったのか?」
「多分そうだろう。ただ、気になる証言もしてくれた。大人たちの叫び声の中に普通よりも大きい、というものが有ったそうだ。報せを届ける為に先に戻って来た教団職員の証言もそれを裏付けている。全部の家が破壊されていたが、その跡から推測される大きさは通常よりも大きいそうだ。詳しくは残りの3人と子供たちが戻ってからだな」
これまでにも『災獣』による被害はデメティールでは数年に1度のペースで起きていた。
ただ、人間の目に触れる『災獣』は全て単独だった。多分、群れからはじき出された「はぐれ」だったのだろう。
その度にファーストランドの衛兵から選抜された合同討伐任務部隊群が派遣され、確実に討伐を済ませていた。
そういう経緯から体長4㍍と言う事は知られていたし、住居が破壊された時の被害も知識として持っていた。
俺はカルロスの話を聞きながら、プラント教団が作ったデメティール地域の地図を引っ張り出した。
地図には色々な線が書き加えられていた。衛兵本部が軍事用の情報を追記している為に少し見難い。
宇宙船の情報を使えればもっと精巧な地図が作れる筈なのだが、残念ながら大体の位置関係が分かる程度の精度だった。
「場所はこの辺りだ。東側に在る村の疎開が済んでいたのが救いだな。でなければ被害は3倍や4倍になっていたぞ」
カルロスが被害に遭った村の位置を最初に指差した後に、位置をずらして幾つかの箇所をトントンと音を立てて示した。
「デメティールに『災獣』が出たって本当か?!」
バウティスタ・ゴンザレス少佐が声を上げながら会議室に飛び込んで来た。
ルーカス・ロドリゲス中尉、ベルナルド・サレス中尉、ニコラス・ソウザ中尉も直後にやって来た。
最後に会議室に到着したのはロレンゾ・ジョビン大尉だった。
「偵察の兵を出して来た。ニューランド偵察をした3人だ。『益獣』の脚なら早ければ今日の夕方には戻って来るだろう」
「了解した。悪い、カルロス、さっきの話をみんなにしてくれ。気になる事が有るので、考えを纏めたい」
「分かった」
カルロスがみんなに説明をしている間に、俺は頭に引っ掛かり続けていた問題を新たな情報を加味して考察をした。
もともと、ニューランドを襲った『災獣』は、ファーストランドの北西に在る高原で異常繁殖した群れが高原から北東に流れる川に沿って移動したと推測していた。海岸に達した群れは海岸伝いに移動し、ニューランドに達したと考えると、距離的に近いファーストランドでなくニューランドを襲った理由は納得出来る。
問題は、消えた衛兵遠征軍だ。
500人からの部隊が忽然と音信を断って、3週間だ。
そして、今回出現した巨大な『災獣』と関係しているとすると結論は最悪だ。
500人の人間を食べた『災獣』の群れが最大の脅威に進化した可能性が消し切れない。
そんな短期間で進化するなんて信じられないが、異星の生物だから有り得るのかも知れない。
もしくは、元々進化した群れが有ったのかも知れない。
宇宙船に情報の開示を求めたが、結果は拒否だった。
リリシーナも予定されていた謁見を取りやめ、緊急会議が始まったのは30分後だった。
会議は最初に、新たに犠牲になったであろう村人の無事を祈り、実際に村の状況を目の当たりにした教団職員の報告が続いた。
その村では、これまでにない規模の破壊が行われていた。
「全ての家屋が破壊されていました。家はもちろん、こちらに出荷する小麦を貯蔵していた倉庫も、材木を集積していた小屋も破壊されていました。これまでにも『災獣』の被害に遭った家屋を見た事がありますが、明らかに破壊の大きさは上です」
「推測で構わないから、サイズなり数なりはどうだろうか?」
「1頭や2頭ではないでしょう。少なくとも群れている事は確実です。サイズに関しては、残されていた爪痕の高さから1.5倍から2倍くらいは有るのではないでしょうか?」
「6㍍から8㍍のサイズということか・・・ 俄かには信じられん。だが、実際に被害を見た人間の言葉だ。素直に信じよう」
報告を終えた教団職員は明らかにホッとした表情を浮かべた。
彼が背負っていた重責は、この会議の参加者に委ねられたのだから仕方がないだろう。
彼が退室した後の会議室はしばらく沈黙が漂った。
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