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第4話   第1章-第4話

20160917公開

1-4


 Web小説という言葉を知ったのは、今年の春に新規採用した松永晃まつながあきら君の履歴書の趣味蘭に書かれていたのが最初だった。

 どの様なものか分からなかったので、面接の時に訊いたのだが、5分近くも熱く語られてしまった。

 さすがに面接中に熱く語るのはまずいと気付いた彼が『やらかしてしまった』という表情で謝ったのだが、意外と悪い印象を抱かなかったのは彼の人徳なのかもしれない。

 それ以外の受け答えは落ち着いて自分の言葉で話していたので採用したが、入社後も色々な機会にWeb小説に関する熱弁を聞かされた。まあ、1/3は自分で執筆している小説の解説だったけど。

 その影響か、実は俺も今では結構なユーザーと言って良い。

 さすがに自分で投稿する事は無いが、あらかたのランキング上位の作品は一通り目を通していた。

 何が言いたいかと言えば、俺たちの状況に近い作品は読んだ事が無いと言う事だ。

 転生や召喚モノが人気だったサイトを愛用していたが、『コピペ召喚』は読んだ記憶が無い。




「異常に気付いたのは半年ほど前の事だ。『害獣』を駆除しているにも拘らず、放牧している家畜の被害が徐々に増えて来た」

「その段階で調査はしたのだろう?」

「勿論だ。だが、なかなか尻尾を掴めなかった」


 そう言って、モンゴロイドとは明らかに違う掘りの深いバタ臭い会話相手は、いかにも欧米人がしそうなゼスチャーで肩をすくめた。

 今ここで目の前の美男子と言って良い男性から状況を聞いている俺は、日本に居る俺とは別モノだ。




 あの時、俺たちのスーパーで行われた事は、素粒子レベルのスキャニングだった。

 召喚モノの欠点は、物質を転送するエネルギーや技術の描写が不足している事と、人類や人類に類する生き物がどうして他惑星や異世界にも存在するのかという理由が明らかにされない事が多いというのが最大の問題だろう。

 結局、それを説明するのに使われるのは『神様』や『女神様』という存在を出す事で、「この作品はそういったテンプレ作品ですよ」という作者と読者の相互理解に依存している。

 なんともあやふやな存在に頼らなければならないのは現実主義者の俺にとっては、ややマイナス点だ。

 と言いながらも、その手の小説が好きだったりするのだから俺も日本のサブカルチャーに親和性が高いのだろう。松永君、少なくとも君が異世界モノを教えておいてくれたおかげで俺の中の混乱は最小限で済んだ。ありがとう。


 話を戻そう。

 俺を含めた人間や店の中に有る食品を始めとする物資や建物など、ここに在る日本のものは全て宇宙船が自身の技術で再現したモノだ。

 そう、全てコピー&ペーストされた物質だ。

 本物の俺はきっとお客様の誘導を思い浮かべた後で、何事も無かった様に正常に戻った状況にきょとんとした筈だ。それでも気を取り直して店内の状況を確認しただろう。

 まあ、もしかすれば怪奇現象として雑誌などに取り上げられるかもしれない。風評被害が心配だな。

 そして、スキャニングしたデータを基にして俺たちを自身の生産施設で造った存在だが、神様でも女神様でもなかった。

 人類が造り出した途轍もなく高度な機械だ。

 人類と言っても、俺たちのオリジナルが生きていた時代から2世紀近く経った未来人だが。

 その頃の人類は太陽系の開発に成功して、繁栄の絶頂から徐々に衰退し始めた時期にあった。

 自らの遺伝子を弄り倒した結果、進化の袋小路にはまってしまっていたし、新しい革新的な理論も技術も50年ほどの間出て来ず、ズルズルと文明が後退し始めた頃に提唱された計画が有った。

 『人類変革計画』と呼ばれていた計画は、新たな環境に人類を置く事で現状打破を図ろうというものだった。

 俺たちの時代では建造する事など無理だった恒星間を渡る事さえも可能な宇宙船に志願者を乗せて、送り出そうと言う無茶な計画だ。

 もちろん、目的は他にも有った。拡散だ。人類を拡散させて、本家が衰退してもどこかで存続させる事も重要な目的だった。

 8万人の志願者は移植可能な惑星に辿り着くまでコールドスリーピングで運ばれる。

 宇宙船(名前は『プラント』。何気に示唆に富んだ命名の様な気がするのは買い被りだろうか?)には人類の英知が全て注がれた。

 なんせ、数千年もの間、稼働しなければ隣の恒星にも辿り着けないのだから、当然と言えば当然だった。

 それで出来上がったのは直径10㌔に及ぶ球形の宇宙船だった。

 長い年月に耐えられる様に自己修復機能を持ち、科学的な探究や新たな技術も生み出せるように設計された、人類が産み出した究極のマシン群だ。

 その宇宙船は、今もこの惑星の静止軌道上に鎮座して我々を見下ろしている。




「いくつかの『災獣レックス』の群れを発見したのが、ひと月ほど前だ。討伐隊を編成し、出発したのが半月前。それ以降は初期を除いて連絡が取れていない」

「伝令が1人も帰って来ないと言う事か?」

「ああ。そこで残った守備兵で防備を固める事にしたんだが、今度はニューランドとの連絡も取れなくなった」

「それも災獣の仕業だったというところか?」

「いや、そちらは害獣の仕業だった」




 この惑星は宇宙船プラントが3つ目に訪れた恒星系の第4惑星だ。地球からは20光年ほど離れている。

 辿り着いたは良かったが問題が幾つも立ちはだかった。


 20光年先の太陽系の人類からの応答が無かったのだ。多分、滅亡したか衰退したのだろう。


 次に、人間が生きていけると言う事は、別の言い方をすれば生命が誕生していてもおかしくないと言う点が2つ目の問題点だった。

 この惑星には生命が発生していて、数千種類の生物が繁栄していた。更にその内の1つが文明を築いていた事が問題をややこしくした。

 人類のままで植民するにはテラフォーミングが欠かせないが、それをするとこの惑星の生物が絶滅の危機に瀕する。ましてや文明を築いている種族が居るのなら宇宙船に与えられた権限(植民コード)では絶滅の危険は犯せない。

 結局、宇宙船の判断は文明を持つ種族の影響圏外の島(四国程の大きさだった)に、この惑星用に遺伝子改造を施した人類を降ろす事だった。


 3つ目の問題は、只でさえ冗長性が少なくなっていた人類の最後のノリシロまで使っても環境への対応に不足した事だった。宇宙船が長い航宙の間に開発していたシンクロ済みの1群で小さな発電所並みの出力を誇るピコマシンを体内に常駐させる事で補う羽目になった。

 当然ながらその様な物質を体内で生成出来ない人類にピコマシンを摂取させる為に、船内に保管されている植物や動物を遺伝子操作して食物連鎖を新たに作り上げる必要に迫られた。

 気象さえもコントロールして、降雨の中にピコマシーンを紛れ込ませて土壌に染み込ませる。

 そのピコマシーンを取り込んだ植物を復元された鶏や豚や牛が食べる事で濃縮させて、その肉を人間が食べる事で摂取させるという循環を創り出してしまった。 


 4つ目の問題は、文明を築いていた種族以外の生命も人類よりも強かったという点だ。

 正直なところ、人類の英知を集めた宇宙船のくせにバカだと判断せざるを得ない。

 最初に植民した第一陣は20年強で絶滅した。

 20000人もの人類が努力の甲斐も無く皆殺しになった。

 そりゃあ、宇宙船には植民コードという縛りが有ると言え、丸腰に近い武装で肉食系の動物が居る場所に送り出したら殺される。

 しかも困った事に第1陣の人類を食べた動物が変な進化を遂げて、知能が増した上に身体も大きくなってしまった。1代限りでなく子孫にも進化が受け継がれた事で、第2陣の植民は数十周期も遅れた(この惑星の公転周期は336日で自転周期は26時間だった)。




「どれくらいの規模か分かっているのか?」

「襲われながらもなんとか辿り着いた隊商の生き残りの証言だと少なくとも数百は見掛けたらしい。そして、害獣の群れに街が囲まれたのが昨日の事だ」

「それで、どうして害獣が街中に居るんだ? 侵入を許したのか?」

「パニックになった一部市民が夜中に脱出を図ったところを逆に突かれた。脱出を図った市民は皆殺しされた挙句に門が開き放しだ。おかげで対処が後手に回っている」


 宇宙船の情報よりも更に悪化していると見て良さそうだった。




 植民第2陣は粘ったというか頑張った。

 宇宙船プラントが伝えた製鉄技術を独自に改良し鋼鉄を産み出して武器や防具を自作したり、城塞都市と言う概念を新たに自ら作り出して身を守ったからだ。

 その他にも、生き残る為に様々な実験を繰り返した。

 だが、それだけだった。

 200年もたなかった。

 いくらDNAを完璧に操れても、魔法のような文明水準の技術を持っていても、宇宙船プラントは根本的な部分で生命の事を分かっていない。志願者も志願者だ。どうして鉄器時代程度の武装で何とかなると思ったのだ?

 残された第3陣40000人は背水の陣で挑む事になった。

 後が無い宇宙船は半ば禁じ手を使った。

 生きて行く為に必要な体内のピコマシンを媒体というかエネルギー源とする魔法ファイノムを人類に授けたのだ。

 便利な生活魔法と、離れた距離からの攻撃が可能となる攻撃魔法だった。

 なんせ生存競争相手には、神経毒に似た成分を分泌した牙を25㍍も飛ばせる『害獣』が存在したからだ。

 「着火」や「照明」などの生活に直結した魔法は人類の役に立ったが、攻撃魔法は微妙なものだった。

 宇宙船の保管庫に有ったM1911(通称「コルト・ガバメント」)とウィンチェスターライフルM1873(通称「西部を征服した銃」)を基とした火力を体内のピコマシンのエネルギーと引き換えに召喚可能にしたのだ。

 それ以外に実弾を撃てる実物が保管されていなかったとは言え、微妙過ぎる武装だった。

 最後の第3陣40000人を始祖とした人類は、それでもこの島で6カ所在る要所に500年掛けて足場を築いた。陸路は危険だったので、やや内陸にある最初の拠点となった都市を除いた5カ所を結び付けているのは海路だった。もっとも、その事が身近に迫った危機を見逃す事になっていた。

 なんとか繁栄の足場を固めたかのように見えた人類だったが、第1陣と第2陣を食べて進化した原住生物(『災獣レックス』と呼ばれていた)が突然の様に爆発的に繁殖しだした事で、またもや生存を脅かされそうな気配だった。

 一番最初に脅威に曝されそうな都市の名は、第3陣が最初に開拓した聖都『ファーストランド』だった。


 目の前のやたら美形の中年男性、カルロス・ヒルが告げた、この都市の名だった・・・・・・


お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m



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[一言] 最初に祖母が亡くならない、こちらの話に変えました。あまりにも、祖母を殺した殺人犯に寛容なので付いていけませんでした。
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