第38話 第2章-第19話
20170311公開
【20170421:高初速化弾使用時の消費ピコマシン量改訂】
2-19
「オダ殿、先程から聞いていると貴殿は他の『プラント様が遣わした援徒』様たちから、『店長』と呼ばれている様ですが、それは、何か特別な地位の呼称なのでしょうか?」
食べ終わった前菜の皿を片付けて貰っていると、向い合せにしつらえた長大なテーブルの対面の衛兵将校が、少し困惑気味に訊いて来た。
そう言えば、こっちに来てからも俺はみんなからずっと『店長』と呼ばれていた。
違和感を感じなかったと言う事は、俺も店長と言う役職に馴染んでいたと言う事なんだろう。
とは言え、外部から見たら奇異に感じるだろう。
「元々はこちらで言う衛兵で小隊の部隊長をしていましたが、引退して親が残してくれた商店の店長をしていたんですよ。プラント様から召喚されたのは、全員がその店内に居た人間なので、その関係でみんなが自分を店長と呼んでいるだけです」
一応、宇宙船の呼称をこちら風にして答えた。無意味に波風を立てる必要も無い。
日本には『郷に入れば郷に従え』という言葉も有るしな。
だが、対面の将校はまだ納得しきっていない様だった。
棚上げしたのか、そのままの表情で言葉を重ねた。
「なるほど・・・ もう1つ教えて欲しいのですが、そちらの衛兵では少女も入隊出来るのでしょうか?」
その将校の視線が俺の隣で次の料理を大人しく待っている深雪たちに向いた。
これまでに会った衛兵は男性の比率が高かったが、女性も1割ほど居た気がする。
彼が抱く疑問点を掴みかねた。
「ワタシは自衛隊員ジャナイデス。ただの女子高生デス」
深雪が俺の代わりに答えた。丁寧に喋ろうとして標準語を使ったが、一部片言になっていた。
その答えを聞いた将校の顔に疑問が浮かんでいる。
「女子コウセイですか? それはどの様な立場なのでしょうか?」
「学生デス」
「ああ、なるほど。まだお若いのに真理を追究しておられるのですね。よほど優秀なのでしょうね。ですが、その様な学者様がどうして『災獣』との戦いに参加しておられたのでしょうか?」
「仕方なく? 成り行きで?」
「おい、深雪、何故、疑問形なんだ?」
「だって、ウチにも分からんから、しゃあないって」
「ミユキ、多分、こちらの人が言いたいのは、若過ぎるという事じゃない? ほら、日本人って、外国人から若く見られるって言うし」
彩君が助け船を出した。
「それに、学生と学者がごちゃまぜになっているのと違う?」
「ああ、なる・・・ 学者じゃないです。それと、こう見えても17歳デス」
後半は将校に言ったが、惜しい。最後が片言になってしまった。
その答えは驚きという反応を引き出した。
本当に子どもに見られていたのだろう。こちらでは15歳で成人扱いされるので、もしかしたら14歳以下に見られていたのかもしれない。
晩餐会の後半は交流会と変りつつ、1時間半で閉会となった。
リリシーナが途中で退場する時だけは全員が会話を中断し拝礼を行ったが、最後の方はかなり打ち解けた。
リリシーナによる犠牲者に対する祈りと開会の宣言から始まった協議は、翌日の午前9時から開始された。
今回の襲撃で蒙ったそれぞれの被害、経緯、問題点、対策が最初に発表されたが、ファーストランドの被害が深刻だと言う件はニューランド側出席の溜息を誘った。
まあ、俺たちの召喚もどき以降は、かなり表情が明るくなっていたが・・・
リリシーナによる爆弾は、その直後に爆発した。
「今回の襲撃と犠牲に、プラント様は御心を痛めておいでです。今後の事も有り、ニューランドの衛兵の皆様に御加護を与えると言う御言葉を頂きました」
リリシーナの言葉にニューランド側出席者からどよめきが起こった。
「それはどの様な御加護なのでしょうか?」
「ファーストランドの衛兵の皆様は一足早く頂いておりますが、攻撃魔法の強化です。詳しくはバウティスタ・ゴンザレス少佐より発表させて頂きます」
「一言で言えば、1度の戦闘で撃てる弾数がほぼ3倍になります。これは加護を頂いた後で我々が検証した結果ですので、ほぼ間違いなくそちら側も同じ結果になるでしょう」
ゴンザレス少佐の言葉に再びどよめきが起こった。
「更に、魔力の回復も1/3の時間で可能となります。これまでは12時間掛かっていましたが、4時間で回復します」
「それは凄い。それならば、攻撃魔法部隊にとってはかなりの戦力増となる」
弾丸の速度、発砲速度、威力の点から、中・近距離の主力火力として編成されている攻撃魔法部隊の悩みは、その継戦能力の低さだった。
20発を撃ちきってしまえば、12時間はピコマシンの充電が完了しないのはかなりきつい。
その穴を埋める為に弓兵部隊が編成されているが、火力不足は否めない。
「更に、消費する魔力は上昇幅に比例しますが、1発当たりの威力も任意に上げる事が可能となります。ほぼ2倍の威力にする場合は2.7倍に消費する量が増えますが・・・」
またもやどよめきが起こった。
協議は、その後、ファーストランドが得た戦訓を提供する事、ベルト帯の安全確保をニューランドが担う事(ファーストランドは戦力が枯渇している)、ノースランド及びイーストランドへの増援もニューランドが担う事、新たな枠組みの協力体制などが決められた。
その後も細かい話し合いが続き(その間、リリシーナは主に『神代教首代理』として教団関連の仕事をしていたが)、結局、俺たちがニューランドを発ったのは3日後だった。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m