表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/65

第36話  第2章-第17話

20170228公開

2-17



 ファーストランドからの協議団は予定よりも早く夕方には到着した。

 俺は何度も富田様と連絡を取り合っていたので到着が早くなる事は分かっていたが、休憩も減らして駆け付けたのだ。

 途中で遭遇した害獣と災獣はそれぞれ数頭だった。

 それくらいの数なら、深雪から『戦訓』を受け取っていた彩君たちにとっては問題無く排除出来る範囲だった事も大きかった。


 急転直下と言うか、棚から牡丹餅と言うか、一番の恩恵は緊急時には囮にされる筈だった14頭の乳牛たちだった。

 足手まといにしかならない牛たちは、乳牛牧場に放たれていた。

 もし、彼らが喋る事が出来れば絶対に言っている筈だ。

 『何がしたいんだ、お前たちは?』と・・・・・

 なんせ、あっちに連れられたと思ったら、引き返してこっちに連れられて、またあっちに連れられたのだから、文句の1つも言いたくなるだろう。



「これはこれは、リリシーナ神代教首代理様、遠路はるばる遠い所に御越し頂き、感謝の念に堪えません」

「いえ、こちらこそわざわざのお出迎え、感謝致します」


 リリシーナは旅の疲れも見せず、ニューランド主席行政官のセルヒオ・ナバーロ氏と挨拶を交わしていた。

 大したものだと素直に思う。

 この様な役割をした事が無い筈なのに、立派に指導者としての雰囲気を纏っていた。


「それで、犠牲になった方のご遺族の方はどちらに居られますか? 出来れば今すぐにでも会いたいのですが?」

「ええ、御意向を御伺いしたので別室にて待っております。すぐに御案内させて頂きます」

「ご足労を掛けます」


 根回し自体は俺自身がしたが、この流れは根本様の提案が基となっていた。

 この一幕の根底にあるのは、日本で災害が起こった時の皇室の対応だ。

 プラント教の信者を慈しみ、共に在ろうというリリシーナの姿勢は根本様にも分かっているので、この様な流れを提案したのだろう。

 それを汲み、馬車内でレクチャーしたのが富田様だった。


 リリシーナは見事にその教えを守った。

 神代教首代理という重責を担うには若過ぎる少女にも拘らず、彼女が心から気に掛けているという事が伝わったのだろう。遺族たちは彼女の訪問に深い感謝の念を抱いた様だった。

 心労を考えて、正式な拝謁の儀礼を排除した形での慰問は、見ている者全ての心を打った。

 まさに理想的な指導者としての姿がそこに有った。

 それを更に際立たせたのが、ノースランドからニューランドに家族で移り住もうとやって来た日に襲撃を受けて、大黒柱の父親を亡くした母息子に対する対応だった。身を寄せられる様な身寄りは無いと事前に聞いていた。

 その親子はプラント教の信者では無かった。ファーストランドとニューランドは、その成立過程からプラント教の信者が大多数を占めているが、後に造られた都市群ほど信者が占める割合は少なくなっている。 

 小学生になるかならないかと言うくらいの幼い男の子は母親にしがみ付いていた。目の前で家族を守ろうとした父親を殺されたのだ。

 怯えて当然だ。

 リリシーナはその子と視線を合わせる為に、床に両膝を附いた。

 周りが息を飲むのが分かった。


「怖かったでしょう。悲しかったでしょう。すぐに忘れろとは言いません。貴方がつらい思いをしているのも分かっています。ですが・・・・・・」


 彼女は男の子の目をじっと見詰めた。

 男の子はその目に引き込まれる様に見詰め返していた。


「私からお願いが有ります。お母様は貴方を守ってくれるでしょう。貴方も同じだけお母様を守って上げて下さい。どうか、お願いです」


 そう言って、リリシーナは頭を下げた。

 再び、息を飲む気配が部屋を覆った。


 男の子はおずおずと手を伸ばして、リリシーナの左肩に手を添えた。


「うん・・・・・ おねえちゃんのいうとおり、マミータはぼくがまもる」


 その言葉に、リリシーナは顔を上げて、慈愛に満ちた表情を浮かべながら答えた。


「偉いね。ところであなたのお名前は何と言うの?」

「アントニオ・・・ みんなからはトーニョってよばれてるよ」

「そう。では私もトーニョって呼んでいい? 私の事はリリと呼んで」

「うん、わかった、リリ」


 2人は笑顔を交わした。

 リリシーナは嗚咽を漏らし始めた母親に顔を向けて、優しい声で囁いた。


「もし、行く所が無ければ、ファーストランドまで来ませんか? トーニョの様な子供たちの為に、教団施設を開放しています。ファーストランドも無傷では済みませんでしたので」


 母親が意表を突かれた様な表情を浮かべた。


「ファーストランドで支えを失った民は700人を超えます。我々はその人達を支える為に、教団施設の一部を手直ししました。そこでなら、トーニョも友達が出来るでしょう」


 母親の答えは無言で頭を下げる事だった。

 嗚咽に合わせて、肩が震えていた。

 


 その場に居た全ての人間が、感銘を受けた。

 俺たち被召喚者を除く、ファーストランドとニューランドの住民全てが、自然と同じ動作をした。


 頭を下げて、両手を合わせて、膝を折って地に附けると言う動作だった。




 それは、彼らが信じるプラント教に於いては、プラントの御業を目の当たりにした時に感謝を捧げる仕草だった・・・




お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ