第34話 第2章-第15話
20170222公開
2-15
昼食を摂り終えた俺たちは支流に沿って帰りの途に就いた。
『草食獣盆地』からの帰り道は特に大きな戦闘も発生する事無く、せいぜいが俺を追い掛けていたトレイン中に銃傷を負って脱落した『災獣』の止めを差して行く作業くらいだった。
危惧していた『害獣』の襲撃も無かった。
まあ、襲撃しようとしても深雪が気配を察知して万全の体制で迎え討てただろうから、むしろ今後の事を考えると、襲撃して貰った方が良かったのかもしれない。
『店長、今いいか?』
『大丈夫ですよ』
富田様から連絡が入ったのは、支流がそろそろニューアマゾン川に合流する地点に差し掛かった頃だった。
『話し合いの結果、ニューランドに行くメンバーが決まった。出発は明日の早朝だから到着は明日の夜になるだろう。店長からニューランド側に伝えておいてくれるか?』
『構いませんよ』
富田様から聞いたメンバーはかなり豪華と言っていいだろう。
いつもの会議メンバーの半数が参加する事になっていた。
被召喚者からは富田様が参加する。根本様は引き続きファーストランドで諸制度の立ち上げと指導の為に残る。
プラント教からは、リリシーナ『プラント様に仕えし至高巫女様』兼『神代教首代理』、エイトール・メンデス『プラント教行政府主任執行官』の参加が決まった。
それと、ルイ・サレス『ファーストランド商業組合代表』。
その他にも実務を詰める為に官僚団が10人ほど。
護衛として、カルロス・ヒル准尉が率いるM1911攻撃魔法小隊とベルナルド・サレス中尉のM1873攻撃魔法小隊が同行する。
それだけでは危険だという事で被召喚者から、女子高生バイトのレジッ娘4人が参加する。この4人に関しては根本様に自ら志願して来たらしい。
どう考えても深雪から彩君に情報が漏れている。
俺たち召喚された現代人は各自に識別番号らしきものが割り振られていて、全員分の連絡先が最初から電話帳に登録されていた。だから連絡は通話でもメールでも簡単に取れる。
それを使えば、情報の伝達は簡単に行える。
深雪が自分の無事を彩君に伝えた際に、多分だがファーストランドからニューランドに協議団が行く事も言ったのだろう。
抜け目が無いのは、富田様に志願をせずに根本様に志願した事だ。
富田様に志願しても断られただろうが、ファーストランドに居残る事になる根本様に志願すれば、富田様の身の安全を考えて、未成年者を危険に晒すという苦渋の選択をする可能性が有るからだ。実際にその選択をしたのだから作戦勝ちだろう。決め手は4人の実戦経験と実力が、残った被召喚者の中では一番高い点だろう。
こういう搦め手を考えられるのは彩君だな。
深雪も頭は良いが、こういう思考は少し苦手だ。
脳筋とまでは言わんが、ちょっと直線的なところが有るからな。
「深雪、彩君を焚きつけたな?」
「うーん、焚きつけた覚えは無いで、お兄ちゃん。まあ、ウチとお兄ちゃんの無事を言うついでに、ニューランドに協議団が行く予定や、って言ったけどな」
そう答えた深雪の表情はそれだけでは無い事を物語っていた。
「それに、ちゃんとフォローもしてるから、大丈夫や」
「どんなフォローだか・・・ まあ、俺から彩君には対『災獣』の注意点を伝えておく」
「あ、それやったら、もうメールしといたで。ベルト帯で掃討した映像を全て付け加えてな。な、ちゃんとフォローはしてるやろ?」
「ほう・・・ そのメールを俺にも転送してくれるか? 不足している部分が無いかを確認してやる」
「え、いや、それはさすがにマズイノデハナイデショウカ?」
「何を隠している?」
「ナニモナイデスヨ?」
最終的に深雪が彩君に送ったメールを検証出来たが、酷いものだった。
いや、対『災獣』の注意点はかなり優秀で、手直しや追加する点は無かったのは良いのだが、添付されていた映像が問題だった。
何故、添付されていた映像の半分が俺の映像なんだ?
ニューランドの城壁に取り付いた時の映像まで入っていた。
問い詰めたが、目を逸らして『個人のプライバシー、特に乙女のプライバシーなんで言えん』の一点張りだった。
もしかして、ブラコンなのか?
その可能性に思い至った瞬間、地雷を踏み抜きそうな予感を感じて追及の手を緩めたのだが、きっと正解だったと思う。
これまでそんな素振りが無かっただけに、『やはり女性は不可解だな』と思った事は秘密だ。
ニューランドに到着したのは夕方になってからだった。
深雪が気配を捉えた『災獣』と『害獣』を駆除していたからだった。
協議団の安全を確保する為に、可能な限り駆除したが、討ち漏れはどうしても発生している筈だ。
途中で退避中の支援部隊と合流するので、戦力としては十分になるが、危険の芽は可能な限りに摘み取っておく方が良い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
-7d5h11m39s 織田 深雪 viewpoint
ヤバかった・・・
あのまま追及されてたらばれてたかもしれん。
お兄ちゃんは変な誤解をしたみたいけど、アヤッチの事を考えると下手に誤解を解けんな。
それよりも、ニューランドの歓迎や。
うん、凄かったな。
思わずなんかで観た映像を思い出したで。
第二次世界大戦のパリ解放の時もこんな感じやったんやろな。
人間って住んでいる星や時代が違っても、やる事は変わらんもんやな。
貴重な紙を使って紙吹雪をしてくれたんやもんな。
もっとも、高い建物が4階建てくらいしか無いせいで、ニューヨークやったかな? 摩天楼に無数に舞う紙吹雪には負けてるけど、それでも感謝の気持ちがストレートに伝わって来て、思わずウルってしまいそうになったで・・・ まあ、実際は全然涙は出んけどな。
ニューランドの目抜き通りを紙吹雪と大歓声で歓迎されながらパレードをした後で、日本の国会みたいな建物に着いた。後で聞いたら人民議会議事堂というのが正式な名前みたいや。
まあ、ウチの人生で国会に行く事も無かったやろうけど(今では確実に行けないけど)、場違い感を感じる程に立派な建物や。
で、その建物の前に整列していて待っていてくれた一団が居たんやけど、最初にお兄ちゃんに感謝の言葉を掛けた人が一番の偉いさんらしい。
意外と気さくな感じを受ける人やな。
こういう世界では、もっと、こう、海千山千っぽい人が牛耳っているってイメージやったんやけどな。
しかし、こっちの世界の人って、みんなダンディって言葉が似合う人が多いな。
「オダ殿、彼女が、言っていた妹君の?」
「ええ、そうです。深雪、こちらはニューランド主席行政官のセルヒオ・ナバーロさんだ」
「織田信之の妹の織田深雪です。お会い出来て光栄です、ナバーロさん」
「こちらこそお会い出来て光栄です、オダ嬢」
「私の事は深雪とお呼び下さい」
「では、私の事もチェコとお呼び下さい。幼馴染からはそう呼ばれています」
頑張って、淑女っぽく挨拶したけど、変や無かったかな?
うーん、合ってるか間違ってるんか、よう分からん。
でも、少なくとも目の前のチェコさんはウチに好印象を抱いたみたいや。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




