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第33話  第2章-第14話

20170219公開

2-14



『富田様、お待たせしました。『災獣レックス』の集団はほぼ潰せました。生き残りは1割も居ない筈です。まあ、残りも傷を負っているので、釣り上げられなかった『災獣レックス』と合わせて掃討しながらニューランドに向かいます』

『良くやってくれた。これでベルト帯の解放も見えた。ああ、ちょっとだけ待ってくれ』


 富田様の声が俺からの第一報に弾んだ。 

 そして、周りに『災獣レックス』の集団を無力化した事をそのまま伝えた。

 よほど嬉しかったのか、マイクを押さえる事無く(意識的に切換えは可能だ)、俺たちの戦果を周囲に伝えていた。

 富田様の知らせに控えめながらも歓声が上がるのが聞こえた。


『それで、こちらに被害は? 誰も怪我をしていないのか?』

『ええ、おかげさまで。自分たちはそのままニューランドに行きますので、そちらから今後を協議する為の本格的な使節団を送って下さい。途中で支援部隊に逢う筈ですから、情報の伝達もお願いします。あ、そうそう、ニューランド上層部と解放後の祝宴会に全員で参加する約束していたので、彼らもニューランドに向かう様に伝えておいてくれますか? でないと後で文句を言われそうなんで』

『分かった、その様に伝えておく。改めてありがとう。みんなにも労いの言葉を伝えておいてくれ』

『了解です』


 通話を切って、みんなに富田様からの伝言を多少補足して伝えよう。

 富田様と根本様は、『災獣レックス』によるニューランド包囲の影響を重く見ていただけに、多少盛っても構わないだろう。

 それに、みんなは労って貰うにふさわしい戦果を上げたのだから。


 さてと、これで峠は越えた。

 とは言え、未だ気は抜けない。

 生き残っている『災獣レックス』の駆逐も気を緩めて行えるものでは無い。

 それに、ここまで姿を見せていない『害獣アロ』が支流を下る間に襲って来るかも知れないのだ。気を抜ける筈も無かった。


「さて、みんな、改めてお疲れ様。ファーストランドでもみんなが挙げた成果にかなり感謝をしていた。これで今後の憂いがかなり取り除かれたので当たり前だけどな。帰ったら、多少のご褒美が出るかもな。これからニューランドに向かうが、気を抜かずに慎重に行こう。特に『害獣アロ』を1頭も見ていないのが気に掛かる」

「了解です、店長」

「あ、それやったら、多分大丈夫やと思うで。『災獣レックス』が来た時に『害獣アロ』が逃げる様に離れて行ったからな。まあ、絶対に襲われないという保証は無いけどな」

「そうか。まあ、警戒はしておこう」

「その方が無難やな。でもお兄ちゃん、それよりも深刻な問題が有るで」


 妹の深雪がみんなの顔を見渡した。

 何か見落としたか?


「もうお昼やのに、誰も昼ごはんにしようと言わん事や」


 一番最初に反応したのは松永君だった。

 噴き出した後、苦笑を浮かべながら言った。


「さすが深雪ちゃん。ここでご飯の事を持ち出すなんて大物や」

「腹が減っては戦は出来んからな」

「確かに深雪の言う通りだな。俺が最初に歩哨に立つから、みんなは先に食べてくれるか?」

「いえ、店長が一番疲れている筈です。自分が歩哨に立ちます。どうか、先に食べて下さい」


 そう言ってくれたのは奥田真一おくだしんいち一士だった。

 どちらかと言えば無口で、冗談を言ったところを見た事が無い真面目な青年だ。

 夫婦揃ってアウトドア全般が趣味で、子供が授かるまでは良く一緒にキャンプに出掛けていた程のアウトドア派夫婦だ。

 子供は5月に生まれたばかりだ。

 きっと、会いたい筈だ。なんせ、彼の隠れたエピソードは有名だったからな。

 昼食は弁当組だったが、弁当箱に貼られている写真をみんなが見た事が有る筈だ。

 その写真での彼は、赤ちゃんのほっぺに仕事中には見せた事が無い程の笑顔でキスをしていた。

 さり気なく周囲を確認すると、川上三曹が周囲を警戒してくれていた。

 うん、こういう人間は大好きだ。

 何も言わなくても、しっかりとフォローをしてくれる人間には感謝して当然だしな。


「奥田さん、僕も付き合いますよ」


 立候補してくれたのは松永君だった。


「この中では一番の下っ端ですから」

「それやったら、ウチが一番の下っ端やで。よっしゃ、言いだしっぺやし責任取るわ」

「いや、深雪ちゃんも危ない橋を渡ったんだから、疲れてるだろ?」

「ん? ああ、あれくらいどうって事ないで」

「深雪ちゃん、口調戻ってないよ」

「下っ端同士やし、一緒に戦った戦友と言う事で見逃して?」

「まあええけど・・・」

「ありがと。器の大きい男の子は好きやで。で、お兄ちゃん、ご飯は持ってないやろ? ウチの分けたるで」


 おい、深雪・・・

 さり気に松永君の純真な男心をもてあそぶんじゃない・・・

 松永君が顔を赤くして、目も泳いでいるぞ・・・

 松浦君もにやけた顔で松永君をつつくんじゃない・・・

 もっとも、松永君は気付いてないが・・・


「こんなこともあろうかと・・・」


 そう言って、深雪が背嚢から取り出したのは堅焼パンとドライソーセージとペットボトルだった。

 それを2セットだから、女の子の食べる量としては明らかに多い。

 まあ、それも気になるが、今のセリフはもしかして?


「深雪ちゃん、今のは?」


 松永君をつついていた松浦君が俺と同じ疑問を持ったのか、視線を向けて訊ねた。


「一生に一度は言いたいセリフやってん。生まれてから苦節17年、遂に使えたで」


 俺の幼い頃は、機動する戦士と宇宙を往く戦艦のアニメは嫌という程にオヤジに見せられた。

 幼い頃は意味が分からなかったが、当時のオヤジがよく言っていた言葉も今なら良く分かる。

 『英才教育』と言っていた・・・

 どうやら深雪も同じ目に遭っていたらしい。

 まあ、兄妹揃って身体を動かす方が好きだったから、オヤジの思惑通りに親子揃ってのオタクにはならなかったが、それでも『三つ子の魂百まで』とばかりにあの2つの作品は今でも好きだ。

 俺よりも深雪の方が洗脳が深かった様で、他のアニメは全然見ないのに2つの作品だけはDVDソフトを今でも偶に見ていたりする。2つのシリーズはリビングに置いたテレビのスタンドに収まっているからな。 


「さあて、念願も叶った事やし、お昼にしよ? お兄ちゃん、半分上げる」


 ちなみに、深雪という名前は、宇宙戦艦の方のヒロインの名前から取ったらしい。

 オヤジから直接聞いたから、確かな話だ。

 最初はズバリそのままだったらしいが、おふくろの反対で今の名前に落ち着いたらしい。

 織田雪・・・・・


 今の方が良いな・・・・・





お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m


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