第31話 第2章-第12話
20170211公開
2-12
VoLTEの位置シンクで位置が分かるのはiP6級以降の人間で登録している人物だけだ。具体的に言うという被召喚者の6割が可能なだけだ。
当然ながらiP4級の『生餌護衛部隊』と、俺たちを輸送してくれていた軽槍兵小隊の現在位置は分からない。
だが、さすがにもう離脱出来た筈だ。
これまでニューランドと交渉する間、深雪たち3人を後方に回していた理由として中継基地の安全確保と『生餌護衛部隊』の護衛を任せるという点が有った。
本音としては、自衛官出身でも無い民間人を出来るだけ危険な目に合わせたくないという思いが一番の理由だ。
まあ、これまでに散々危険な目に遭わせたが、害獣相手だったり、俺たち『本職』が一緒だったりしたので最低限のリスクに留めて来たと思う。
だが、これから行う戦闘はかなりリスクが高い。
本来なら、引き続き離脱している両支援部隊と行動を共にさせておきたいが、あと少しすれば火力が少しでも必要になる段階に入るので敢えて待ち伏せ部隊に組み込んでいた。
そして、位置シンクで確認すると3人は無事に川島三曹たちと合流出来た様だった。
ほどなく川島三曹から連絡が来た。
『店長、妹さんたちと合流出来ました。それとお待たせしました、陣地構築が完了しました。いつでも行けます』
俺が『災獣』の集団を引きずり回し続けて2時間を超えた頃だった・・・・・
さすがに走るのに邪魔な〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉は解除して、上半身はシャツ1枚だ。
この2時間で、無力化した『災獣』は30頭を越えている。
銃創を負わせた数はさらに多い。
それでも未だに俺を付け回す理由の推測も出来る様になっていた。自信は無いが・・・
多分、ニューランドに入城する時に居合わせた3つの群れが原因だろう。
追い掛けて来る集団は基本的に4つのグループに分かれている。
その内の3つは組織的な連携を取っていた。最初に連携して渡河しようとしたグループだ。きっとあの時の3つの群れが中核となったグループと見ている。
残り1つは後から合流した群れの集団だと思う。寄せ集めとしか言いようのない統制の無さと、どこか執着を感じないのはそのせいかもしれない。
宇宙船が言ったピコマシンを感知しているという推測が正しいとすれば、根源の3つの群れが俺を付け狙う理由は、最初の時に俺を捕食し損ねた事が原因だろう。
ニューランドでも籠城前に十数人の犠牲者と数十頭の牛の被害が出ていたが、それ以降は堅い城壁を攻めあぐねていた。
そんな時にいきなり現れたのが俺だ。
桁違いのピコマシンを内包している、まさしく特上の餌に思えたのだろう。なんせこちらの人類の30倍を超えるピコマシン含有量だ。牛と比較した場合でも濃さが違う。さぞかし旨そうに思えただろう。だから執着しているとしか思えない。
そういえば、城壁上の俺を見る目に怒りを感じたのもこの状況の伏線だったのだろう。
空腹は最高のスパイスと言うが、飢えている時に目の前を走る特上のビーフステーキを逃したんだからな。
神戸か?但馬か?松坂か?近江か?飛騨か?米沢か? どこのブランド牛か知らんが、迷惑な話だ・・・
『了解、今からそちらに向かう』
ちらりと後ろを振り向く。
現在、ヤツラの先頭は渡河地点で上流に向かったグループだろう。
さすがに予定の1時間を超えて2時間も鬼ごっこを続ければ、俺でも区別が付く個体が出て来る。
例えば、真ん中で先頭を走っている奴は右耳が一部欠けている。アイツはあの渡河の時も先頭を走っていた。俺が走っていた土手まであと5㍍という所まで来ていたから良く覚えている。
現在、その左斜め後ろを走っている、顔に10㌢くらいの傷が有るヤツはずっと同じポジションだが、時々先頭に出て来る。多分交互にペースメーカーをしているのだ。
本当に知能が高いと思わざるを得ない。
そして、何回かペースを変えてみたが、見事に100㍍を超える距離を保っていた。
高低差のある場所をわざと走ってみたが、決して低い場所を走ろうとしなかった。
こっちの仕掛けに対処しつつ、ヤツラも一部を先回りさせたり、挟み撃ちを狙ったりと色々と仕掛けたりとして来ている。
何とか対処しているが、かなり危ない場面も有った。
ああ、本当に賢い・・・
おかげで、支流の渓谷で待ち伏せして撃ち降ろすという、比較的安全な最初の計画を破棄する羽目になっている。
これだけ賢くて、宇宙船の推測どおり俺たちのピコマシンの含有量を感知出来るなら、きっと待ち伏せに気付く。そのまま俺を追い続けてくれれば良いが、多分、対処される。
キルゾーンに入らずに反転したり、高低差の不利を数の優位で覆して各個撃破に切り替えるだろう。
『現着は30分後の予定だ。それまでに体力と気力を回復しておいてくれ』
『了解しました。まあ、店長が一番つらいでしょうが・・・』
『Sに居た頃にやった行軍訓練に比べればマシさ。では、また後で会おう』
『はい、無事な到着を祈ります』
俺は後ろを振り返らずにワザと落としていた速度を上げた。
秒速3㍍から5㍍へ。これで時速18㌔だ。銃弾を受けたヤツはそろそろ脱落して行く筈。
そのペースを保って、ニューアマゾン川を渡り、少し上流にある支流に入る予定だ。
その支流の探索は、第3次移民陣によって2度行われたが、どちらも途中で『害獣』の集団に襲撃されて断念していた。
ニューアマゾン川に流れ込む支流はほとんどが同じ様な結果で、結局源流まで遡れたのは1つも無い。
だから、この支流の上流にある『草食獣盆地』の存在を知った人類は、宇宙船から情報を得た俺たちが最初だ。宇宙船の不作為は余りにも多過ぎる。これくらいの情報は人類に教えても良いだろうに・・・
ふと、何かが引っ掛かった・・・
これまでにも、宇宙船は間違った判断をしている。生物に対する認識がずれているせいだ。
宇宙船は何と言った?
確か【ピコマシンの包含量を感知している可能性が高いと推測】だったか?
深雪の能力を知っている影響で、何か特殊な能力で感知されていると勘違いしていないか、俺は?
宇宙船の説明では、嗅覚は発達していないと聞いた。
だが、本当にそうなのか?
その情報を基に判断していたから見過ごしていた行動は無かったか?
『今更だが、みんなに訊きたい事が出来た。何か『災獣』が匂いを嗅いだりした行動ってこれまでに見た事は無かったか?』
『あ、そう言えば、ウチらが接触した『災獣』の群れはそれっぽい事してたで』
『もしかしたら、ヤツラからすれば地球産の動物はかなり分かり易い匂いが出ているかもしれん。実験するので、ちょっと待ってくれ』
俺は若干速度を落としながら、着ていたシャツを脱いで、進路からずれる様に斜め前の方向に丸めてから放り投げた。
そのシャツに釣られるヤツは?
結果はしばらくして分かった。
俺という高密度の素材が前を走っているにも拘らず、かなりの数の『災獣』が釣られて進路を変えた。確かに匂いを嗅いでいる。
『川島三曹、ヤツラは匂いで俺たちの位置や痕跡を掴んでいる可能性が高い。接敵前には、各自で匂いを消してくれ。それと、陣地を追加してくれ。位置は・・・・・・』
おかげで、俺は更にヤツラを連れた大名行列を続ける事になった。
1時間後、やっと追加した陣地が完成したと連絡が入った。
さすがに精神的にも疲れて来ただけに思わず気を緩めそうになったが、終点が見えて来ただけに足取りは変えずに済んだ。
目的の支流に進入した。川幅が5㍍ほどと狭くなり、河原を含めた幅が30㍍ちょいになる。足場も良くない。
気配ではちゃんとついて来ているが、念の為に後ろを振り返って確認する。
スカーフェイスが先頭だった。
前を向いて100を数える頃に更にほんの少し速度を上げた。
後続が付いて来ているかを気配だけで探る。
問題無い。ついて来ている。
計画では待ち伏せする筈だったポイントを過ぎる。
ここで待ち伏せ出来れば最高だったが、仕方が無い。
更に走り続けて、視界が一気に開けた。
通称『草食獣盆地』に到着だ。
不本意だが、この地が『災獣』との決戦の場になる・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m