第27話 第2章-第8話
20170113公開
2-08
「オダ殿、今度、機会が有ればみんなに妹君を紹介してくれないでしょうか?」
「別に構わないですが・・・」
「オダ殿が頼りになる戦士と言う人物に興味が有ると言う事も大きいが、今後の事も含めた繋がりを持っておきたいという点も有ります」
会議が終わって、城壁に戻る途中でニューランド主席行政官セルヒオ・ナバーロ氏が思ったよりも本音を明らかにした発言をした。
先頭を歩く俺たちの後ろに連なる、会議参加者集団からも驚きの空気が伝わって来る。
考え様によっては、変に遠回しに言われるよりもやり易い。
「そうですね、作戦が成功した後でなら、問題無いでしょう。祝勝会でも解放記念パーティでもなんでもいいので、ニューランド主催の祝宴を企画して下さい。作戦に参加した全員でお邪魔しますよ」
「おお、有り難い」
後ろからの反応も、会議初期の頃と違って、どこか明るいものが有った。
このまま籠城してもジリ貧になるしかなかった予想が覆されたのだ。
あ、これはフラグになるのだろうか?
会談自体は十分な成果を収めたし、今後の擦り合せも終わっているので、後は作戦を発動させるだけだ。
まあ、その前に深雪に釘を刺しておく必要が有るが・・・
6頭の『災獣』を全滅させたはいいが、かなり深雪が無茶をした様だった。
相次いで着信した松浦君と松永君からのメールには、深雪を危険に晒した事についての謝罪の言葉が並んでいた。
深雪からは【ちょっと危なかった、テヘ(^^)】としか送られて来てなかったので、詳しい経緯は分からない。俺の眼が無い所では頼りになる戦士ではなく狂戦士になるのなら、今後の作戦にも影響する可能性が有る。
城壁の回廊に登って行くと雰囲気が異常だった。
俺たちに気付く衛兵は少なく、ほとんどの衛兵が外を見ていた。
おかげで、俺たちには状況が掴めなかった。
「この場の指揮官は居ないか? どういう状況か説明して欲しい」
セルヒオ・ナバーロ氏が大きな声で、俺たちに気付いた衛兵に問い掛けた。
その言葉に反応して、1人の衛兵がやって来た。
「第107小隊隊長のハビエル・ラモス2等攻撃魔法尉であります。気付かずに申し訳ありません。状況に関しては、見て頂く方が早いと思います。おい、場所を開けろ!」
最後の言葉は部下に向けたものだったが、彼の表情は硬い。
顔色も悪い。
衛兵の壁が無くなって目に飛び込んできた光景はさすがに予想外だった。
来る時には3群25頭だった『災獣』が3倍以上に膨らんでいた。
ヤツラの視線が俺に集中している事もすぐに理解した。
これが有名なモテ期と言う奴なのだろうか? 嬉しくない。ああ、全く嬉しくない。
『川島三曹、いつ頃から集まって来た? その時の状況は?』
『あ、会談が終わったんですね。店長が姿を消した後で何頭かの『災獣』が走り去ったのですが、しばらくして戻って来た時には増援と思しき群れを連れて来ていました。それからずっと、今の状況が続いています』
『俺の出待ちだろうな。突っ切るのも難しいな』
来る時でさえ苦労したのに、密度が3倍になった戦場を駆け抜けるなんてさすがに無理が有る。
『予定を変更して、別の場所から戻る事にする。また連絡するので、待機を続けてくれ』
『了解です』
俺は視線をセルヒオ・ナバーロ氏に向けた。
顔が引きつっている。無理も無い。これだけの『災獣』が集まっているのだ。第三次植民陣の歴史でこれだけの集団が一カ所に集まったのを見るのは初めてだろう。
俺たち召喚者は、宇宙船に強制的に見せられた映像でもっと悲惨な状況を追体験させられている。
だから、まだ比較的冷静にいられる。
「どうやら自分を待ち構えている様です。時間と手間が掛かりますが、別ルートで戻る事にします」
「大丈夫なのだろうか、オダ殿? 私には無理にしか思えないのだが?」
「『プラント様が遣わした援徒』の能力の一端をお見せしますよ」
俺は敢えて笑顔を浮かべて答えた。
一旦城壁を降りた俺は、セルヒオ・ナバーロ氏以下会議出席者のみんなが見ている前で『球体観測機(試Ⅱ型B)』を呼び出した。
反応は絶句だった。
まあ、日本でもいきなり目の前にUFOが出現したら、同じ反応になるだろう。
すぐに何人かが『昨日現れたヤツか?』と呟いていたので、どうやら昨日の状況の報告は受けていたが実物は誰も見ていなかったのだろう。
エンジンの暖機を済ませる間に簡単に説明をしておく。
「これは特殊な魔法で、自分しか使えません。まあ、便利なんですがね。どの様に便利かと言えば、こういう事が出来るからです」
そう言って、軽くプロペラの回転数を上げて、少し浮かせた。
その状態で、2㍍の円を描く様に浮遊させる。
おお、という反応に気を良くしたのは、仕方が無いと思う。
手品師になった気分だ。
まあ、タネも仕掛けも有りまくるので手品では無いが。
いや、手品にもタネも仕掛けも有るんだから一緒か?
「これで上空から『災獣』の位置を掴んで、少ない場所を突破する事にします」
そう言った後で、『球体観測機(試Ⅱ型B)』を上昇させながら敢えて逆方向の市街地に向けて飛ばす。
全員が目を丸くしながらその行方を追った。
市街地の上空で高度を300㍍まで上げて、本来の帰還予定ルートから90度ずらした方角の北に向けて移動させる。
視界に浮かんでいるリンゴマークのスマホ画面上でその映像を確認しながら、岸壁を越えて海上に到達してから今度は東向きに飛ばす。俺が越えた城壁から500㍍のライン上に到達したところで今度は南下させた。
上空からの偵察の結果、元々の予定ルートだけでなく、かなりの範囲で待ち構えている事が分かった。
強いて言うなら北側が薄いのだが、それでも発見と同時に応援を呼ばれて殺到して来たら対処しきれないだろう。
「仕方が無いですね。時間が掛かりますが、岸壁から脱出して、海上を進んだ後で上陸する事にします。このルートならヤツラからは死角になる筈です」
「それなら、こちらで船を出しますが?」
「いえ、単身で泳いで行く方が目立ちません。まあ、泳ぎに関してはそこそこ自信がありますから。念の為に訊きますが、人を襲う様な海中生息生物は居ませんでしたよね?」
「ええ、居ませんが」
宇宙船の説明シーケンスではその辺りの情報が無かったので、確認だけはしておく。
海からの上陸に関しては、さすがに西普連の連中程ではないが、多少のノウハウは身に付けている。
まあ、バラモンの連中と比べるのは失礼か。あいつらは専門職だからな。
結局、みんなの許に戻れたのは5時間後だった。
まあ、海中を泳いでいる間に富田様と根本様と今後の打ち合わせをしたり、深雪と通話したり(珍しく自分から謝って来た)したので、有意義な時間を過ごせたと前向きに考える事にした。
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m




