表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/65

第26話  第2章-第7話

20161230公開

2-07



「それでは『神代教首』様が御隠れになったという話は事実なのですか? 『神代教首』代理様の親書に書かれていましたが、未だに信じられません」

「ええ、被害者の方々の御遺体を埋葬する為の作業中に『神代教首』様の法衣を発見しました。あらゆる角度から見て、お亡くなりになったのは確実です」

「まさかファーストランドでそんな悲劇が起こっていたとは・・・」


 そう言って、ニューランド主席行政官セルヒオ・ナバーロ氏はやや顔を下に向けながら首を振って、小さな声で死者に対するお祈りを、本当に小さな声で唱えた。

 他の会議参加者も後に続く。

 思ったよりも『神代教首』死亡の事実はニューランド上層部に衝撃を与えていた様だ。

 確かにファーストランドの次に造られた生存圏と言う事で、ニューランドの住民は故郷と言えるファーストランドに未だに格別の思いを抱いている。それは、ファーストランドで唯一の宗教と言っていいプラント教にたいしても同様だ。

 自分達がどこから来たのかを辿れば、ファーストランドに直結し、更には宇宙船プラントに辿り着くのだから、ごく普通にプラント教は信仰されていた。

 その辺りの感覚は、後に開発された他の4つの植民地とではかなり違う。

 陸路で繋がれているファーストランドと違って、海路経由と言う一種のフィルターが働いている為に密接度というか距離感が大きく違うのだ。

 まあ、宇宙船プラントから教えられたヘキサランドの概略で知った情報を初めて実感したと言える。 

 

『You got a mail』


 俺だけにしか聞こえない着信音が聞こえた。

 差出人は深雪だ。素早く確認する。


『お兄ちゃん、コンパニオンのネエチャンがハチキュウの弾のスピードを速くしてくれるって! これで『災獣レックス』にも真っ向勝負できるZE\(^o^)/』


 真剣な会議中にも拘らず苦笑いが浮かびそうになるが、なんとか耐える事が出来た。

 Sの異常な訓練の賜物としか言えない・・・・・


「ただし、親書にも書かれている様に、現在はファーストランド全域を完全に掌握しています。デメティール地域に関しては小麦の収穫が終わったばかりという幸運も有り、一旦ファーストランドに疎開を行います」


 ここまでは、あの夜の会議で決まった事だ。

 だが、あの後で計画は修正されていた。

 提案者は根本様だった。根本様を巻き込んで正解だった。ファーストランド北半区掃討に続くニューランド遠征準備で忙しかった俺はそこまで考える余裕も無かったし、時間が有っても思い付けない発想だと素直に思う。

 まあ、その辺は適材適所と言う事だ。

 俺が歩んで来た経歴の何処を叩いても、行政に関する経験が無いのだから自分を卑下する気も無い。

 日本に居た頃は、根本様が市の危機管理課の課長職を最後に退任した事は知らなかったが、富田様に上層部会議に推薦する人物を聞いた時に教えて貰った時は、思わぬ幸運に笑いの発作が起きそうな程だった。即決で会議参加者とした事は当然だろう。


「疎開にある程度の目途が立てば、『災獣レックス』にも対応出来る地下の避難場所を各家庭に設置する計画を実行に移す予定です。デメティール地域全戸の最終的な設置完了は1年後を見込んでいます」


 害獣にしろ災獣にしろ、農作物には全く興味を示さない。

 あくまでも動物性蛋白質しか食べないからだ。

 だから、最悪の場合、家畜は諦めても人間さえ守れれば被害は極限される。その為にシェルター作りを進める事にしたのだ。

 参考にしたのは竜巻が多いアメリカでよくみられる地下シェルターだ。

 ファーストランドでは規格化された地下室用の構造材の試作と、地下室を造る為の掘削手順の試験が開始されている。多分、1ヶ月もせずに最初の地下室が設置されるだろう。

 まあ、この計画が実行可能になったのは怪我の功名と言える出来事からだった。〈戦闘装着セット(戦闘服2型)〉に含まれている個人用シャベルが、これまで使われていたヘキサランド製の同様の道具よりも効率よく掘れる事が引き金となっていた。

 携帯性を重視して折り畳みになっている個人用シャベルを木製の柄にするだけで十分な生産性を得られるし、金属製の刃はファーストランドの鍛冶職人たちによって試作品の量産化試験段階に入っていた。

 1ひとつきもしない内に、品質と生産数は安定するだろう。


「これにより、デメティール地域の住民の安全も確保可能となり、来年の収穫に対する影響も軽減されるでしょう」


 それでも収穫は減るが、俺のファーストランドからの通勤案よりも効率的だし、住民もこれまで通りに自宅に住めるので不満が出難いだろう。

 後は、俺が宇宙船プラントにアプリ化させた『照明弾発射筒』を全住民にダウンロードさせるだけで、簡単な緊急連絡網が出来上がる。

 害獣なり災獣なりを発見・遭遇した住民が赤色の照明弾を上空に放つ。視認距離は昼間でも3㌔は確保されているので、その圏内に居て赤い照明弾を見た住民の内、新設されるデメティール駐屯基地方向の人間が白の照明弾を射ち上げる。それを繋げば、害獣や災獣が出現したおおよその方向と場所を早期に掴める仕組みだ。

 実際に何度か訓練しなければ本当に実用可能かは判断出来ないが、多分大丈夫だろう。

 問題は、『照明弾発射筒』アプリに0.3GBを充てなければならない事だが、背に腹は代えられない。


 

「なるほど、ファーストランドの状況は理解しました。次に当ニューランドの状況ですが・・・・・・」



 ニューランドの状況は一言で言うと膠着状態だった。

 食糧さえもてば、このまま籠城は可能だが、海路で結ばれているイーストランドとノースランドも災獣の異常繁殖に巻き込まれている為に、食糧の購入が出来なくなっているそうだ。

 備蓄されている小麦は1ヶ月はもつが、それ以降はかなり厳しい状況に陥る事は全住民が知っているそうだ。

 まあ、幸いな事に、治安は維持されているので暴動は1件も発生していないという話からすると、セルヒオ・ナバーロ氏以下ニューランド官僚団の統制能力はかなり高いと思える。 

 


『店長、大体の状況は把握した。そろそろ『釣餌作戦』の説明を頼めるだろうか?』

『そうですね、そろそろ頃合いですね』


 富田様からだった。

 と同時に着信音が鳴った。

 深雪からのメール着信だった。 


 『災獣レックス』6頭と接触。迎撃は問題無し』


 こちらを心配させまいとしてか、楽観的な文面だが、『災獣レックス』6頭という戦力はかなりのものだ。

 ハチキュウ2丁とウィンチェスター1丁では苦戦する筈だが・・・

 有利な地形に陣取れるのか、それとも他の要因が有るのだろう。

 ただでさえ気配察知に長けた深雪のことだから、先手を取って主導権を握れる状況なのだろと推測した段階で会議に集中する事にした。



「ファーストランドからの提案ですが、ニューランドを包囲している『災獣レックス』の一部を誘い出す作戦を用意しています。作戦開始は明日にでも可能です」


 会議に参加している人間が一斉に俺を見た。

 その目に浮かぶものは関心が有ると言うレベルでは無い。


「現在、年老いて牛乳が出難くなってきた乳用廃予定の乳牛14頭をベルト帯に連れて来ています。その乳牛を餌として、包囲網の一部を誘引し、状況によって殲滅もしくは新たな餌場に連れて行く計画です」

「そんな事が可能なのかね?」

「100%の成功は保証出来ませんが、現状を継続するよりも短い時間で『災獣レックス』の包囲を崩す可能性は高いと思われます」


 一斉にニューランドの出席者がそれぞれ隣同士で作戦の実現性を話し合いだした。

 20頭くらいまでの数なら、陣取る場所さえ気を付ければ俺たち10人掛かりなら苦労する事無く殲滅出来るだろう。

 もしそれよりも多くて危険であれば、状況次第だが、『ニューアマゾン川』に合流する或る小さな支流の上流に在る『草食獣トリケラ』が多数生息している盆地に誘引する計画だ。

 当然だが、『草食獣トリケラ』を襲う際には隙が出来る。そこに付け込んで各個撃破するという身も蓋も無い作戦だった。

 そうやって包囲網の群れの各個撃破を何度か繰り返せば、包囲網に綻びが出て来る。

 包囲網が弱まった段階で、無傷で温存されているニューランドの衛兵と共同で包囲網を城壁の内と外から削って行く。

 まあ、一気に殲滅を図れる戦力を用意出来ないが故の苦肉の策だが、籠城を続けた挙句に『災獣レックス』が分散してしまうよりも後の面倒が少なる筈だ。





 もちろん、作戦は崩壊する事になる。







お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ