第24話 第2章-第5話
20161216公開
2-05
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-6d4h45m27s 織田 深雪 viewpoint
ウチは『不思議ちゃん』と偶に呼ばれるけど、むしろみんなの方がウチには不思議や。
ニオイを嗅いだり、音を聞いたり、物を見たり触れたり、味わったりする事と同じ様に、気配を感じるのは当たり前とちゃうん?
まあ、過去に存在していた気配さえも感じられるのはさすがにちょっとチートかも?と少しは思うけど、例えて言うなら警察犬が探す人間の匂いの跡を辿れるのと同じで、気配の跡を辿れても問題無いんちゃうかな?
むしろ、みんなが気配を感じない事の不便さによく我慢できるなぁと思うんやけどなぁ?
でもさすがに生き物以外は気配は感じられん。
どこに行ったか分からん探し物を見付けるコツは、失くした人がどの様な行動を取ったかを丁寧に辿って行くだけや。
そしたら、その途中の動作で失くしたモノを必ずどこかに置いている事が多いもんや。そこを探せば大抵見付けられるって訳や。
厄介なんは気付かずに落とした時やけど、家の外で落とされたらさすがにウチでも無理やな。
小学生の頃に『みゆき、みんなと違うみたいや。変なんかなあ?』とお兄ちゃんに訊いたら、『そうだなあ。深雪だから許されるんだろうな。まあ、便利なんだから有り難く思っておけ。まあ隠しておいた方が面倒にならなくて済む』と言われた。
どうしてウチやったら許されるのかは未だに解せん・・・・・
まあ、その後は他人には隠しておけと言われた事も有って、気を付ける様にしたけど、アヤッチは当然として、小学生時代の友達も知ってるけど何も言われへんな。何回か探しもんを見付けたったけどなぁ。
何も言わんのは、もしかして、みんな『気配り』ってヤツが出来るだけか?
そう言えば、こっちに来てからどんどんと気配を感じる距離が伸びて、今なら見えないところでも200㍍は余裕や。
更に、見通せるんやったら1㌔は余裕や。目で見たらええだけやという人も居るかも知れんけど、隠れていても分かるし、暗闇でも分かるんは便利やから有り難く使わさせてもろうてる。
もっとも、偶に起こるヤツに比べたら、気配が分かるくらい可愛いもんやけどな。
ウチがザワッとした感覚に気付いたのは、重槍兵中隊が大休止後に始めた防護柵の手直しが半分ほど終わった頃やった。
ウチらは今、ファーストランドに牛ごと避難して来た乳牛業者の自宅を了解を得て根拠地にしてる。
牛舎も有るし、乳牛の運動用ということで100㍍四方を対害獣用防護柵で囲ってるから都合が良かったんや。
まあ、手直しは必要やったんでその最中やったって事や。
「ゴンザレス少佐! 『災獣』6頭が1分ちょっとしたら来ます! 牛さんたちを牛舎に退避させて下さい」
ウチの言葉に手を挙げて答えた後で、少佐が部下に指示を出し始めたのを確認してから、ウチは【『災獣』6頭と接触。迎撃は問題無し】とお兄ちゃんにメールだけして、ソラさんとニューさんに声を掛けた。
「ほんじゃ、やりましょか? あそこに見える小さな丘に上がった方が有利なんで、ウチが抑えるからここはよろしく!」
戦闘時はウチの口調は崩れるけど、これはだいぶ前に2人の了解を取ってる。
戦ってる最中に一々、そんな事に気を回してられへんからしゃーない。
「了解」
おっと、また2人の声が被った。なんか、一種の芸風にも思えて来て、思わず噴き出してしもた。
息もピッタリやし、将来は異世界初の漫才師になれるで・・・
「もう、2人とも笑わせんといてや! じゃ、よろしく!」
お兄ちゃん程や無いけど、ウチもピコマシンの身体能力向上をかなり解放してる。
2人より先行して強化してるんで、ウチが全力で走ると置いてけぼりにしてしまう。
この場合、ウチだけでもあそこを抑えておかんと勿体無いから、2人に最終防衛線兼突撃開始線を構築して貰う事にした。
走りながらボイスパーティを繋げたけど、これ、本当に便利やな。走りながら付け足しの指示を出せるんやから。
丘の頂上に着いた頃には『災獣』6頭は、やや乱れた2列縦隊で何かを探す様な素振りをしながら丘の麓に近付いて来ている最中やった。距離は80㍍といったところやな。
速度は時速7㌔くらいで時折、地面に顔を近付けてる。
あまり鼻は利かんとコンパニオンのネエチャンから聞いてるけど、それでも匂いも重要な情報源やからな。
それに、地球の動物と同じでこっちの害獣も災獣も神経が走っているからちょっとした弱点や。
まあ、鼻の穴は小さいし、脳に直通している訳では無いから、致命的な弱点や無いけどな。
照準を先頭の『災獣』に合わせたけど、未だ撃たへん。
撃ってもええけど、真正面からの射撃やったら弾かれる可能性が高いから無駄弾になる。
この後、『災獣』は麓を回り込む様にして進む筈や。その途中で横腹を必ず晒す時が有る。ウチが狙っているのはその瞬間や。
確かにハチキュウは『災獣』との相性が今一や。
ウチらはこれまでに18匹の『災獣』を殺したけど、ハチキュウで確実に仕留めたのは半分も行ってない。
『害獣』なら余裕で撃ち抜ける頭蓋骨も『災獣』相手ではなかなか難しいし、皮も脂肪層も筋肉層も比較にならんほど耐弾性が高い。
それに主眼も、真正面に付いている『害獣』と違って、『災獣』の眼は『害獣』譲りでやや外向きやし小さいから狙うのも難しい。
だから、ハチキュウで『災獣』を殺すなら、どうしても距離と角度が重要になる。
150㍍以内で、30度から45度までの斜め前からの角度で眼球を狙って脳まで撃ち込むか、胴体やったら100㍍以内で真横から前後35度くらいで下腹部の上下20㌢幅90㌢の筋肉層が薄い部分を狙うしかない。それ以外なら弾かれるか食い止められるからや。後は真下から撃ち抜くかやな。なんか、非力な主砲しか無かったチハたんがシャーマンを相手にする時の苦労に似てる気がして来たわ・・・
まあ、確かにいくら装甲が厚いと言っても数多く撃ち込めば、さすがに筋肉層が破壊されて動きが鈍るし、大量の出血で死ぬけど効率が悪過ぎるわな。
だから、不意を衝く様に横腹を打ち抜いて、最低でも2匹、出来れば3匹は仕留めたいところや。攻撃の順番としては、こちら側の列の最後尾、先頭、真ん中という流れがいいやろう。
本当を言えば、折角やからアプリ化した『16式5.56mm高速強化弾』を試したいところやけど、試すのは後にしとく。実戦に使うには試射した数が未だ少な過ぎるし制約も有るからな。第一、どこで不都合が出るか分からへん。
あと10秒くらいで完璧に左の横腹を捉えられるというタイミングで、ソラさんとニューさんに話し掛けた。
『ソラさん、ニューさん、後のタイミングは任せるで』
『オーケー、任せとけ!』
『ク、くくくく。笑わせんといて! あ・・・』
まさか、ここでハモられるとは思わんかったから、つい噴き出してもうた・・・
更にまさかは続いて、気が付いたら引金を引いてた・・・
3発制限点射にしてたから、ハチキュウは軽快に3発の弾丸を発射してしもた・・・
違うねん、今のは違うねん・・・ でも、まさかは更に続いた。
ぶれた照準は狙っていた『災獣』の前に居た『災獣』の弱点に命中してしもた。その『災獣』の下腹部が波打った瞬間に黒い血が飛び散った。
すぐに照準を先頭の『災獣』に合わせて引金を引く・・・
やば! 思ったよりも『災獣』の反応が速い。一足早く前方にダッシュしてた。着弾は左足の太もも! やば! あそこに3発くらい当てても足止めにもならない! もう下腹部なんて見えない。とっさに着弾点にもう一度3発を叩き込む。最初の3発の近くに追加の3発が命中して辛うじて左足の動きが鈍って、バランスを崩して倒れてくれた。
だけど、その時には残った4匹がこっちに向かって突進して来てた。
『深雪ちゃんかい? 早い、早いよ』
『こういう時、慌てた方が負けなのよね』
ソラさんとニューさんが、どこかで聞いた様なセリフを言って来たが、こっちはそれどころではなかった。秒速10㍍で突進して来る体長4㍍を超す4匹の恐竜もどきは登り坂とはいえ、ここまで7秒も掛からんと辿り着くやろ。
予定通りなら、途中で2人が横撃を加えてくれる筈やけど、うっかりとウチが予定よりも早く発砲したから反応が遅れる筈や。
こうなったら、いくらハチキュウの弾丸を撃ち込んでも真正面の装甲に手こずってもう1匹の足止めが出来るかどうかや。
しゃあない、未だ早いけど、次の手を打つしかない。
『初速を1.4倍にしてくれへん?』
『個体名織田深雪の要請を確認。換装完了』
多分、今の一瞬で弾丸も銃身も薬室も設定が切り替わった筈や。
セレクターレバーを『3』から『タ』に捻る。
そう、『16式5.56mm高速強化弾』の制約は単発しか撃てんことや。
しかも消費ピコマシンも増速分に比例して増える。
『認めたくないもんやな、ウチ自身の若さ故の過ちちゅうもんを』
黙っててたら負けなので、2人に名セリフ返しをした瞬間に、一番前を走って来る左端の『災獣』の主眼の真ん中を照準して撃ち込んだ。
いつもは気にならない発砲の反動が、今は衝撃となって右肩を打つ。
増速した効果は予測通りやった。
着弾した途端に主眼が中からの圧力で吹き飛んで、身体が硬直してそのままの勢いを保ちながら地面にダイブした。
残り3匹は無傷のままウチまであと5秒の所まで迫っていた・・・・・・
お読み頂き誠に有難う御座います m(_ _)m